見出し画像

ギュスターヴ・ドレの線は木版!

よく行く近くの図書館には「今月の新刊」というコーナーがあります。公営の図書館なので専門書から小説、新書、文庫さまざまなジャンルの本が並んでいて、いつも楽しみに見ています。

その中に先日見つけた『ギュスターヴ・ドレとの対話』は、とても魅力的な本で早速借りたのですが、やっぱり手元に欲しいと思って、思わずamazonで注文してしまいました。

ドレの絵の中でも、一番好きなのが「長くつをはいた猫」。
この猫のハッタリ感がたまりません。

ドレはたくさん仕事をした人で、いろんな本の挿絵を描いていますが、その中からいくつかをピックアップして、その絵にまつわる「情報」が新鮮な視点で紹介されています。

『ギュスターヴ・ドレとの対話』谷口江里也 ギュスターヴ・ドレ
(未知谷)2022.3.25 初版発行 


ギュスターヴ・ドレは1832年生まれ。フランスのアルザス地方の出身。
ここはライン川の流域で、ドイツとスイスの国境に位置しています。
ライン川が国境になっているんですね。

Wikipedia(アルザス地域圏)の画像に国名、都市名を追記


ライン川はスイスから北上して北海へ流れてゆきます。 

【ライン川】スイスアルプスのトーマ湖に端を発し、ボーデン湖に入りドイツ・フランスの国境を北に向かい、ストラスブールを越えてカールスルーエの少し南からドイツ国内を流れ、ボン、ケルン、デュッセルドルフ、デュースブルクなどを通過しオランダ国内へと入ったあと2分岐し、ワール川とレク川となりロッテルダム付近で北海に注いでいる。

Wikipedia (ライン川)より


ストラスブールはアルザス地方の州都で、アルザス語で「街道の街」という名。古来より交通の要衝として栄えていて、ライン川にフランス最大の河川港をもっています。ドレは、このストラスブールのニュエ・ブルー(青い雲)通りに生まれました。



ドレの絵は、ダンテの『神曲』の挿絵や、『長靴をはいた猫』などのペローの昔話の挿絵などで馴染みがありますが、これが木版で描かれていることを、この本で初めて知りました。

ヨーロッパで誕生した「木口木版」という技法だそうで、凸版の活字と一緒に印刷ができることから、本の挿絵として、ドレの生きた19世紀に大いに発展したそうです。


木に彫った。ということは、この版画の実際のサイズはどれくらいなのでしょう。

1861年に発刊された『神曲 地獄篇』 Dante Alighieri, The Inferno の挿絵が木口木版 235×193mm程度だそうなので、ちょうどA4サイズの本の挿絵にちょうどいいくらいのサイズです。

この『ギュスターヴ・ドレとの対話』の本はそれよりかは少し小さめですが、木口木版の線の緻密さを体感できます。

ドレの挿絵に惹かれて、すでに持っている『ペローの昔ばなし』は新書なので、ちょっとサイズが小さいんですね。

『ペローの昔ばなし』
シャルル・ペロー
ギュスターヴ・ドレ=挿画
今野一雄=訳
(白水社)

なので、この粉屋の息子の表情がよく見えません。

『ペローの昔ばなし』「長ぐつをはいたネコ」より
シャルル・ペロー/ギュスターヴ・ドレ=挿画
今野一雄=訳(白水社)

というか、あまりに猫の自信満々がすごくて、そばに「おぼれているふりをさせられている粉屋の息子」がいることに気がついていませんでした。

この『ギュスターヴ・ドレとの対話』の印刷ではこんな表情をしているんです。

『ギュスターヴ・ドレとの対話』谷口江里也 ギュスターヴ・ドレ

「え」に「”」がつく「えぇーーー!(そんなこと言ってしまって大丈夫???)」というような顔。

この場面は「長靴をはいた猫」が、事前の根回しの後に一気に勝負をかけるところ。この猫のポーズ、そして表情を見るたびに「人生はなんとかなる」と思ってしまいます。

そして、もう一つ気がついたことが、猫の長靴に細かい線が何本も描かれていること。

日本の浮世絵も木版ですが、版画の浮世絵が何枚もの版木を組み合わせてカラー印刷を実現しているところを、ヨーロッパの版画は一色のみ。色の濃淡を線の太さ多さで実現させているのですね。
これは、鉛筆の線でデッサンするように線を彫っていくのでしょうか。

こうしてドレの技法を知ったのですが、さらに、文中にあったこのくだりが「私の買い」を決定づけました。


ちなみにこのネコの絵は、2014年にパリのオルセー美術館で催されたあなたの大回顧展の際の巨大なポスターに用いられてパリの街を飾りました。原画は木版画ですから大きくしても線がぼやけたりしませんし、あなたの絵は全体的に空間的ですので、おきくすればするほど迫力が出るのも一つの特徴です。

『ギュスターヴ・ドレとの対話』谷口江里也



大きくしても線がぼやけたりしない


だなんて、これって、今の8Kよりも緻密だということですよね。

ああ、おおきくなったネコみてみたいです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?