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生霊

私には悩みがあります

それは同棲している彼氏に関係するものです

彼、カズヤはお笑い芸人をしています

爽やかで顔立ちも良いので女子に人気があります

歌も上手くてダンスも踊れて
欠点がありません

強いて言えば
「土踏まず」がないぐらい

一緒にプールに行ったとき、プールサイドを歩いたら足跡がくっきりと残るので少し恥ずかしかった記憶があります

それ以外は完璧

そんな彼氏を持ってるから
女性問題で悩んでるのかって思われそうですが
そうではありません
彼は女遊びをせず、仕事が終わったらすぐに帰ってきてくれます
カズヤほどよくできた男はいない
理想の彼氏カズヤ

私はカズヤを本当に愛しています

では何が悩みかというと

それは



カズヤは霊にとり憑かれているのです


ある日寝ていると

目が覚めました


時刻は夜中の2時

いつも目が覚めたらやることがあります

それは隣で寝ているカズヤの寝顔を眺めること

可愛い彼の顔を見ると
安心してすぐに眠りにつける


その時も彼の顔をみようと寝返りをうつと


「うっ!」


髪の長い女がカズヤを見下ろしていました


カズヤの顔に平行になるように

腰を90度に曲げて
カズヤの顔を覗き込んでいました

髪先が今にもカズヤの顔に当たろうと垂れ下がっている

最初は頭のおかしいファンが不法侵入しているのかと思いました

しかし、いつまで経っても微動だにせず
ただならぬ雰囲気を身にまとっているので
幽霊なのだと思いました

するとソイツは
私の顔を見ようとしているのか
ゆっくり顔をあげ始めたので
とっさに布団の中に潜り込みました

しばらく待ってから顔を出すと

その女は消えていました


それからというもの

毎日決まって夜中の2時に
その女がカズヤの顔を覗き込んでいるのです




「よしこ!それって生霊でござらん?」


みち子は私が話し終わると同時に言いました

昔から霊感の強いみち子はこういった類の
普通の人ならバカにしそうな相談も真剣に聞いてくれるのでした

「”イキリョウ”ってなに?」

私は聞き慣れない言葉に困惑しました

「生霊っていうのは生きてる人間の霊魂が肉体を離れて飛び回るものを言うでござんしょ」

みち子は霊感が強いのと同じくらい
語尾に特徴があることで有名でした

「簡単に言うと、人は誰かに憎悪や嫉妬を抱くでござんしょ?他にも好きだって恋い焦がれたりするでござんしょ。そういった強い感情を念じると本人には無意識のうちに霊魂が生霊となって、想う相手の先に飛んでいくでござんしょ。ちょっと難しい話でござんしょが、わかったでござんしょか?」

難しい、というより語尾が気になる

どこ出身なんだろう

「彼は芸人で人気があるんでござんしょ?多分、熱狂的なファンが彼を想うがあまり生霊として出て来ているでござんしょ」

だいたい話はわかった
語尾が気になるけど

「わかったけど、じゃあどうしたらいいの?」

「生霊は厄介でござんしょよ〜。なんせ生きているので成仏させることができないし、本人も生霊になっている自覚がないでござんしょ」

語尾が気になる

「解決法としては、その女の顔を確認してから、本人を探し出してちゃんと話をつけるでござんしょ」

「ファンかぁ。面倒くさそうだけど、やるしかないよね」

「ファンかどうかまだ決まってないでござんしょよ。もしかしたら、彼が浮気している女かも・・・すごくモテるんでござんし、、」
「浮気なんてしてるわけないじゃない!!彼は女遊びなんてしないの!!完璧なの!!!私だけをみて、私だけを愛してくれるのよ!!!!何も知らないくせにぃ!!!!」

私は頭に血が昇り、気がつくと大声で怒鳴っていました


「・・・・ご、ござんしょ」


みち子は大変驚いた様子で、小さくつぶやきました


「ご、ごめんなさい。つい、カッとなって」


今のござんしょは、どういう意味なんだろう


「とりあえず、その女の顔をちゃんと確かめるわね」
「ござんしょ」

いろんな使い方があるのかな

「あ•••あと、生霊は強く印象に残っていることを発言したりするでござんしょ。何か言ってないか注意して聞いてみるでござんしょ」

「わかった。ありがとう」

これ以上おかしな語尾を聞きたくなかったので
足早に帰りました

「なんなの、あの女。カズヤが浮気なんてするわけないじゃない。バカじゃないの。彼は完璧なの。大丈夫。大丈夫。絶対、大丈夫。ていうか、ござんしょって何だよ」

私は怒りがおさまりませんでした




ーーーーーー

時刻は2時

横にはカズヤ

そしてカズヤの顔を覗き込む女

今までは怖かったけど
みち子の話を聞いて腹が立って来た

生きている女が毎晩現れて
精神的ストレスを与えている

絶対に見つけ出してやる



「・・・・・ござんしょ」


え?


うそ
今日、嫌ってほど耳にした

あの言葉

まさか、みち子、あなただったの…

女はゆっくりとこちらを見上げる

今日は逃げずに堂々とにらみつける

その女はさらに続けた







「・・・・ござんしょ。って何だよ」




「え?」




女と目が合う









それはよく知っている顔でした






そう






私だったのです

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