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「探偵 由利麟太郎」吉川晃司という素材をもっと前面に出してこその作品、この後如何に?

テレビドラマの新作飢餓状態の中で、放送されるこのドラマ。横溝正史の原作を吉川晃司主演でという異色作。吉川が探偵というのは面白い。そして、本人も新しい挑戦なのだろう。金田一耕助とは少し違う探偵像をどう映像化するかが見もの。

吉川晃司は、最近は「下町ロケット」の帝国重工の重役のイメージが強く、シルバーヘアーで、姿勢の良いいい男のイメージ。それだけで、金田一耕助ではない。ファーストシーンで弓を射る吉川。なかなか面白いのだが、これが何回も出てくるのはくどい感じもする。その割にはあまりそこの意味が感じられない撮り方や音楽。

音楽は、吉川晃司の主題歌はなかなかいいのだが、全体の劇伴はイマイチな感じはした。横溝ものとなれば、この辺りは大切なところ。力を入れるところは入れて欲しいと思う。少し肩透かし。

そして、横溝ものらしく、周囲の警官や助手が勝手に推理していく。これは、テレビのせいもあるだろうが、少し邪魔な感じが過ぎる!彼らをもう少し軽い脳天気な感じにして、もっと吉川を前に出すべきだと思うのだ。その辺り吉川の出番が少ないこともあるが、どうも中盤まで、ドラマの展開がまだろっこしいのである。脚本が原作を整理できていない感じなのだろう。推理劇で脚本の焦点がなかなか定まらないのは、致命的でもある。でも、ラスト周辺は、吉川が事件をしっかりとまとめているのだから、もう少し、シナリオを練っていただきたい気がする。

吉川の演技するときの姿勢と立ち振る舞いは見ていて気持ち良いが、やはり、目が小さいのが難点なのかもしれない。アップにすると、力が弱いのだ。その難点をどう活かすのかは、カメラワークや構図にあると思うのだが、特に編集に面白さは見られなかった。

今回の犯人役の新川優愛は、私的にはあまり演技を見たことがなかったが、なかなかこの役にはあっていた。暗い雰囲気が出せる若い女優さんは、ある意味貴重である。そして、こういう単発の探偵物は、やはり、ゲスト次第で作品の出来に凸凹が出るのは仕方なく、その1回目が彼女だったのは、よかったということだ。

横溝ものというのもあるのだろうが、カラーを緑系に偏らせて、恐怖感を出しているようだが、全体のメリハリがイマイチの感じがした。全体のテイストがあった中で、血の赤は、もっと感じさせるべきだし、あちこちにある仕掛けの恐怖感みたいなものを感じさせるべきだ。隠し部屋が出てくるところなど、もっと驚きが欲しい。少し、異様な画の世界もそうで、もっと、こういう部分は彩度をあげて、視聴者に印象付けて欲しいと思うのだが…。

また、最後のキーになる瑠璃色も、色を明確に視聴者に提示していけば、もっと印象付けられると思うのだ。それを、最初の方に放り込んでおくのも効果的だと思う。昔、鈴木清順監督が部屋の花だけ色付けしたように!

デジタルで映像を撮る場合、アクションシーンなどの編集の妙みも大事であるが、最後の色補正が、作品に大きな力を与える。色というやつは、作り手のセンスを実に強く前に出す道具だと私は思う。現代の映像制作にはそこに重きを置くことは欠かせない仕事である。PC一台でどうにもなる部分なだけに、プロのお仕事が見たい。

作品全体として端々を観ると、どうもイマイチな部分には目がいく。ただ、吉川晃司という素材は、やはり興味深く、もっと前に出て行って、今後の日本映画界を担う人材であることは確かだ。そういう意味で、このドラマ、しかと5回、見せていただこうと思う。

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