見出し画像

【感想】13階段

高野和明さんの13階段を読み終えました。
(ここからはネタバレを含みます。)

今年読んだ小説の中で1番読み応えがあった作品でした。

無実の死刑囚を救い出すために与えられた期限は三ヶ月、報酬は一千万円だった。不可能とも思える仕事を引き受けた二人の男に待ち受けていた運命とは(文庫本裏のあらすじより)

私は、基本的に通勤電車の中で読書をすることが多いのですが、この小説は先が気になり過ぎて、職場の昼休みを割いて読み進めてしまいました。

死刑の執行という仕事

この作品で、最も印象的だった場面はやはり刑務官の南郷が死刑の執行を行った場面でした。

 死相を確認するため、縄からぶら下がっている四七〇番の顔の覆いを取った時、噛み切られた舌の先端が南郷の足元に転がり落ちたのだった。
 俺は人を殺した。
 飛び出した両眼と、落下の衝撃で十五センチほど伸びきった首。
 その凄惨な現実に、彼が信じたはずの正義は何も答えてはくれなかった。

私は、この場面がどれくらい実体に即した描写なのかは分かりませんが、実際に死刑執行を担当された刑務官の方々がいることを思うと頭が下がります。

死刑制度自体の是非については、勉強不足なので述べることはしませんが、死刑制度のある国で、敢えてそれに相当する犯罪を犯した者に死刑が執行されることに私は何の異論もありません。むしろそれを行わなくなってしまえば法律が蔑ろになってしまうと思うからです。

ですから、このような過酷な業務を担ってくださる刑務官の方々には敬意を払うべきだと感じました。

そして、南郷のように後ろめたさと恐怖で心が押しつぶされてしまわぬように、刑務官の方に手厚いケアがなされることを祈ります。

罪と罰

この作品では、現代社会における罪と罰が描かれていますが、報復は負の連鎖しかもたらさないと思わざるえません。

捜査ももちろん人が行うものなので間違いもあるし、すべての犯罪を取り締まることは出来ないと思います。現に、この作品でも冤罪がテーマとなっているわけですが、それでもやはり司法の力に委ねることで断ち切れる連鎖があるのではないかと思うのです。

この作品の冤罪の端緒となった事件も純一の前科も、個人による報復が原因で起こったわけで、もし安藤が保護司の強請りを相談できる相手がいれば、純一と友里に何か救いの手が差し伸べられていればと思わざるをえません。

一方で、このような社会的弱者への救済を警察や検察庁のような捜査機関や刑務所のような刑の執行機関に求めるべきではないとも思います。あくまでこれらの機関は刑罰を正しく執行するための機関であり、犯罪によって生まれる社会的弱者を救済する機関とは似て非なるものだからです。

社会的弱者へ正しい救済がもたらされ、執行機関が本来の職務に専念できるような手立てと社会の眼差しが必要だということを感じました。

正義と希望

この作品の最も素晴らしいと思った点は、様々な問題提起をしながらも、誠実に職務を全うする人々を描き、樹原の無罪が描かれた点です。

この作品はフィクションですから、登場人物をもっと悪人に仕立て、国家の闇を描くなどエンタメ性の高い終わり方もできたと思います。

けれど、敢えてラストは圧倒的な正義と希望が描かれたことに胸を打ちました。










この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?