見出し画像

文章を書くうえで大事にしていることは?ライターと編集の仕事の備忘録 ⑴

先日、宣伝会議が主催する編集・ライター養成講座の卒業生としてオンラインの開校式に呼んでもらって、編集者とライターの仕事について話をする機会があった。

卒業生と言っても私が通っていたのは、10年以上前。大学2年生の頃、就活を前に、出版社や新聞社に興味があったけれど周りに業界の人も目指す人もいなくて、講師の人たちの話を聞いてみたいという好奇心で申し込んだ。気になりつつも受講料が高くて迷っていたのだけど、友人と将来のことなどを話して帰宅したある夜、酔った勢いでポチった。当時はアルバイトをしてお金を貯めたら旅に出ることを繰り返していたので、旅行1回分が受講料に。

講座の内容は正直あまり覚えてないけれど、第一線で活躍する人たちの話には胸が高まった。何より卒業制作として、助産院に通って「産む」をテーマに初めて取材して書いた記事が最優秀賞作品に選ばれて、雑誌の『編集会議』に載ったことは、その面白さや喜びも含めて、この仕事をしたいという気持ちを強くした。

ほかにも、講師として登壇していた中瀬ゆかりさんの話が面白くて、その縁で新潮社でアルバイトをさせてもらった(国会図書館で資料を探したり、裁判を傍聴して議事録をとったり、感想や抗議の電話を受けたり、校正者や著者に原稿を届けたり。やることがないときは本を読んでいてよかったし、新潮社の食堂のごはんが200円で美味しくてボリュームたっぷり、食いしん坊な学生の私には最高だった)。また、講師のジャーナリストの木村元彦さんにも書くことを教わり、雑誌を紹介してもらって、妊婦のたらい回しに関する記事を書かせてもらった。

その後の就活では新聞社を中心に受けたけど、リーマン・ショック直後で状況も厳しく、大手は受からず、地方紙と業界紙の内定をもらった(ある地方紙の最終面接で結婚と出産の意志を聞かれたことは今でもよく覚えている)。結局、新聞社の男社会が漂う空気に違和感を抱いて、駆け込みで最初で最後に受けた出版社、女性社長が率いるディスカヴァー・トゥエンティワンに就職した。

地方も含む営業を1年、編集部に異動してからは若者向けの書籍シリーズを創刊、企画編集ときどき執筆。その後、講談社「現代ビジネス」でWEBメディアの編集・執筆をして、本をつくった著者の会社(オーガニックコスメブランドLalitpur)で編集者の視点で仕事をして、独立。今はフリーランスの編集者・ライターとして、雑誌やWEBメディア、書籍での執筆・編集ほか、オウンドメディアの編集長なども務めている。仕事の詳細はこちらにまとめています。

懐かしくて自己紹介としての前置きが長くなってしまったけれど、せっかくなのでいただいた質問をベースにイベントで話したこと、話せなかったことも含め、編集とライターの仕事についての備忘録を残しておく。これから編集者やライターを目指す人たちに向けたものだけれど、私もまだまだ教えられる立場ではない若輩者なので、あくまで私の場合、自戒も込めて。

編集者とライターの違いって?

編集者とライターの違いについては、ライターの宮本恵理子さんがブックライティングの仕事を「顔が見えるレストラン経営」に例えていたのがわかりやすかったので紹介したい。

著者は独自のやり方で育んだ新鮮な食材を届けてくれる生産者で、ライターは受け取った食材を美味しい料理に仕上げる料理人、編集者は料理の方向性や価格、全体の魅せ方を決めて整えていくオーナー。本のみならず、WEBや雑誌の記事でも、この三者(他にもカメラマンやデザイナーが関わることも)がチームになって、こだわりの料理=コンテンツをつくっていく。

ちなみに私自身は、編集も執筆もどちらもやっているので、料理人にもなるしオーナーにもなる。一時期、中途半端な気がしてどちらかに絞ったほうがいいかなと思ったこともあったのだけど、どちらの立場もわかるからこそできることや磨かれるスキルもあると、両者をやるスタイルに。思えば、この仕事を始めた10年以上前から常に編集も執筆もやっていてどちらも好きなので、求められかつやりたいと思う限りは、両方やっていこうと思っている。

この迷いを漏らしたときに「両方やったほうがいいよ!」と気づきをくれたのは友人でライターの田中裕子。

このnoteに登場する友人と3人で飲んでいたときだった。裕子の言う通り、赤字を入れる経験は文章力を鍛えてくれると思う。逆にライターもしているからこそ鍛えられる編集力もある。たとえば、書き手として一番に読んでもらう編集者の反応は気になるから、編集者としては受け取った原稿はできるだけすぐに読んでまずは感想だけでも送るようにしているとか、そういう小さな気づきを得ることができる。

文章を書くうえで大事にしていることは?

イベントでは「田舎で暮らす母でもわかるように書くことを意識している」という話をしたけれど、わかりやすい言葉で書くこと以外に、自分の頭で考えて心を動かすこと、一人のために書くことも大事にしている。少し詳しく、私がこれらのことを学んだ言葉や本を紹介したい。

井上ひさしの言葉

いちばん大事なことは、自分にしか書けないことを、だれにでもわかる文章で書くということ。
むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに

上の言葉が収録された井上ひさしのこの1冊に、人に伝える文章の基礎のようなものを学んだ気がする。

暮らしの手帖 実用文十訓

(1)やさしい言葉で書く。
(2)外来語を避ける。
(3)目に見えるように表現する。
(4)短く書く。
(5)余韻を残す。
(6)大事なことは繰り返す。
(7)頭ではなく、心で訴える。
(8)説得しようとしない(理詰めで話をすすめない)。
(9)自己満足をしない。
(10)一人のために書く。

『暮しの手帖』は学生時代からたまに買っていて(古書として花森さんが編集した時代のものもいくつか持っている)、最近は毎号買っている雑誌。広告ではなく購読料だけで永く愛される雑誌の読む人に寄り添う文章の極意がこの十訓に詰まっていると思う。

愛読と写経のすすめ

文章力を鍛える方法についても質問があったけれど、文章の良し悪しや好き嫌いは人それぞれだとも思うので、好きな作家や書き手、雑誌やメディアがあれば、その作品やコンテンツに多く触れるのが良いと思う。

たとえば私は、向田邦子さんや平松洋子さん、西川美和さんといった好きな作家の本はほぼ全作品を持っていて、特に好きな本(『夜中の薔薇』『おとなの味』『永い言い訳』)は何度か読んでいるし、いいなと思う文章を「写経」することもある。つまり、ノートにペンで書き出す。書いてみると読んでいただけではわからない文章の構造が見えてくることもある。

他にも翼の王国で連載している『おべんとうの時間』の阿部直美さんや昔のKu:nelで記事を書いていた『あんこの本』の姜尚美さん、&wで連載している『東京の台所』の大平一枝さんなど、自分が心を動かされた、好きだなあと思う文章は書き手をチェックして、見つけては読み続けていている(私は実はただの食いしん坊なので仕事とは関係ないけれど食のエッセイやルポを読むのがすごく好き)。

もちろん好きだからと言って、どれだけ読んでも、写経をしても、同じように書くことはできない。経験していることも環境も視点も求められることも何もかもが違うから。

文章を書く前に心を動かす

文章をどう書くかの前に、「自分にしか書けないこと」を書くためにも、どんな経験をして何を感じ、何に心を動かされたのか、書く前の段階も大事なのだと思う。コロナの自粛期間を経て、企画を立てて文章を書くためには、なんてことはない当たり前の日常の中で、自分の心をちゃんと動かしておくことが大事だと改めて思った。

・人に会って話を聞く。
・ちゃんと生活する、働く、遊ぶ。
・街を歩いて、本屋に行く。
・本を読んで、映画を観て、コンテンツを楽しむ。

ただパソコンの前に座っていても私は文章が書けない。人に会って話を聞いたり、本屋や街を歩いたり、本や映画などのコンテンツを通じて、人の行動や思考の断片に触れて、働き暮らし遊ぶ中で、自分の喜びや葛藤、気づきなども重なってはじめて書けるような気がする。自分の経験や考えたことが書くことのベースになる。

実際にこの文章も、一緒に登壇したライターのもろずみはるかさんが誘ってくれなかったら、ファシリテーターをしてくれた日経BPの品田英雄さんや受講生のみなさんが質問してくれなかったら、改めて自分の仕事を振り返ることもなく、こうして書くこともなかったと思う。

コンテンツや文章は、そうやって誰かとの関わり合いの中で生まれていくものだと思う。誰かに問われて考えることで出てくる言葉がある。そこに誰もが自ら発信できる時代に、ライターとして話を聞いて、誰かの物語を書くことの面白さがあると私は思う。

インタビューをして書く前にしていること

昨日、自粛が明けて久しぶりに直接会ってインタビューをしたけど、私はやっぱり会って話を聞く方が好きだ。はじめましてでオンラインで一度行い、撮影も兼ねての追加インタビューだったのだけど、会うことでわかる人となり、目を見て話すことで生まれる心の動きがあって、言葉だけでなく身振りや醸し出す空気感、間合いなどからも、多くの情報を受け取っているのだと思う。内容にもよるけれど、相手の人生に踏み込んで、一緒に考えていくようなインタビューはやっぱりオンラインより直接会って話を聞く方がいい。

特別なことは何もしていないけれど、インタビューを行う場合、「書く前」にしていることはこちら。

・インタビューイーの本や記事を読み漁る
・印象に残った言葉や聞きたいことをノートに書き出す
・インタビューの直前は相手のSNSなどをチェックしつつ、気持ちを高める
・インタビュー中は話を聞くことに集中、目を見て相槌を打つ
・インタビュー後、心が動かされたことは手書きでメモする
・文字起こしはざっとして、必要があれば音源を聞き直す

私は昔からノートに書き出して考える癖がついているので、時と場合にもよるけれど、基本はいまだにアナログなスタイル。PCでスラスラ打ち込んでいくよりも、手書きで書いた方が心と体が動いて記憶に残るので、インタビュー前後、大事なことはノートにペンで書いている。インタビュー中は聞くことに集中してあまりメモは取らない。ちなみに、普段の気づきのメモは無印のノート、スケジュールやTodoリストはほぼ日手帳で手書きで管理している。

書くことは考えること

ライターや編集者は「黒子」とも呼ばれ、自分を表に出さないことがよしとされてきたけれど、同じ著者やインタビュイーであっても媒体やライター・編集者が違えば、コンテンツは変わってくる。インタビュイーが話したことがそのまま本や記事になることはない。

自分が一番聞きたかったことや心が動かされたことを、どんな順序で、どんな言葉遣いやリズムで、誰に向けて伝えていくのか。頭を使って心を動かして、書くことは=考えることでもある。

話を聞いただけではきちんと理解できなかったことも、書きながら点と点が線でつながって腑に落ちることも多々ある。自分がちゃんと理解をしていなければ「だれにでもわかる文章」は書けない。書くことは考えること。

「書く技術=考える技術」については、裕子が働くライターズ・カンパニーbatonsの古賀史健さんのこちらの本がとても勉強になるのでおすすめします(大作間違いなしの古賀さんが執筆中の『ライターの教科書』(仮)」も待ち遠しい)。

文章の目的や媒体、読者によっても求められる書き方は違うし、私も「正解」はわからない。ここに書いたことはあくまで現時点での私のやり方なので、それぞれ自分に合ったスタイルを! 歳を重ねたり置かれている状況によっても好きな文章、読みたいものも違うから、私もこれからもその都度、自分なりの正解を探りつつ、書き続けていきたい。

追記:主語を大きくしない

こう書いていて、気づいた。読む人の立場や状況はそれぞれ違うし、価値観も違うから、主語を「社会」など大きなものではなく、「私」にして語ることも意識していることに。私自身も間違うこともあるし、変わることもあるから、「こうしましょう」「こうあるべきだ」と自分のやり方や考えを押し付けることなく、「あくまで私の場合」「今の私はこう思っている」というスタンスで書くことも気をつけている。

私もまだまだ学びたいし、鍛えたい! フリーランスになって、教わる機会も教える機会もなかなかないから、正直このままでいいのか、自分の技術が磨かれているか不安になることがある。だからこそ改めて、文章を書いて編集をする仕事について話してみて、こんなことを考えているんだなという発見もあったので、考えて書いてみた。

zoom越しに写っていた受講生のみなさんのことを思い浮かべながら書き始めたけれど、結局、この文章は自分のために書いているような気がする。自分の知りたいこと、考えたいことを書くことが多い私は、「一人のために書く」その一人は、自分であることがほとんどだ。特にこのnoteは自分が書きたいことを自分のために書いている。

まだ書ききれていないのに予想以上に長くなってしまったので、まとめて書こうと思っていた、編集をするうえで大事にしていること、WEBと紙媒体の違い、仕事を広げるためにしていること、ギャランティやオウンドメディア、フリーランスの働き方などについては、また書きますね。きっと!


この記事が参加している募集

noteの書き方

読んでくださりありがとうございます。とても嬉しいです。スキのお礼に出てくるのは、私の好きなおやつです。