はじめての田植え。

30年生きてきてはじめて、田植えを体験した。毎日のようにお米を食べていて、田園風景に美しさを感じるというのに、田んぼに足を踏み入れたことがなかった。

太陽が緑を照らす初夏、つくば駅から車を40分ほど走らせ、筑波山の麓、八郷(やさと)で自然栽培の農業を営む友人の田んぼを訪れた。

裸足になって水田に入ると一気に膝下まで足が泥水に浸かり、思った以上に一歩を踏み出すのに力がいることに少し驚いた。燦々と輝く太陽の下、ひんやり泥の感触が肌に気持ちいい。

まずは苗取りから。水田に植えられた一粒の米から生まれた苗を雑草と区別しながら一本一本引き抜き、ある程度の量になったら藁でくくり、苗の束をつくる。田植えをする時に、遠くに投げられるようにまとめておくらしい。藁での結び方は、そのままでは解けにくく、引っ張ればするりと解けるように。

手で土を掘り起こしていると、色とりどり大小さまざまな蛙とこんにちは。この子たちが日暮れに大合唱をするんだね。おたまじゃくしにアメンボ。水田には色んな生き物が生きている。

苗の束を3つほどつくったところで、いよいよ田植え。一列に並んで、水田に真っ直ぐ均等に引かれた目印の線のうちまず3本が私の領域。

線の間に立ち、苗の束2つは進む先に投げ、ひとつを解いて左手に握り、右手の親指と中指で苗1本を掴んで、腰を折って植えていく。1・2・3、等間隔に、一歩一歩、無心になって、前へ進む。手にした苗がなくなったところで、先に投げておいた苗の束を解いて、再び腰を折る。

すべての苗を植え終わったら、水分補給をしてまた苗取りからスタート。水田に苗を植えきるまでその繰り返し。なかなかの重労働だ。

この、水田に直接苗を植え、すべて手作業で行う田植えは、もうほとんど行われていないらしく(全体の1割り程度)、今は苗代に苗を植え、田植えも機械で行われているそう。

友人のもっち(こと本橋秀一)は、この八郷で、「どまんなか野菜」という屋号を掲げ、農薬や化学肥料はもちろん、植物性・動物性の肥料さえも使わない、自然栽培で野菜やお米を育てている(オーガニックと言われる有機栽培は、農薬や化学肥料は使用していないが、植物性・動物性の有機肥料を使っている場合がある)。

もっちは機械を使うこと、除草や耕作も必要最低限に留めている。無農薬・無肥料に加え、ビニールハウスやトラクターなども使わず、畑さえも耕さず、草取りもしない、自然の営みを最大限に生かした「自然農法」というやり方に近い。ただ自然農法を徹底すると野菜の質や生産量の確保などがかなり難しいようで、耕作や草取りは臨機応変にやっているそう。

それでも、巡る季節や日々の天候に寄り添い、虫たちとも共生しながら、より自然に、野菜をつくることはものすごく大変なことだと思う。“ナチュラル”“オーガニック”という言葉から連想される繭に包まれたような柔らかさとは逆を行くような、力強さやたくましさがなければ成り立たないだろう。

私はただ美味しいという理由だけで、もっちに定期的に野菜を自宅まで届けてもらっている。形は不揃いでも、ひとつひとつの野菜の味が濃厚。私は純粋にもっちがつくる野菜が好きだ。東京に暮らしていても届いた野菜の箱を開けると季節を感じることができるし、食べたことのない旬の野菜を知ることもある(たとえば写真のハヤトウリや四角豆など)。

私は以前、畑にもお邪魔して、少しだけ収穫体験をさせてもらったけれど、土を掘って引っこ抜いて、土を落として洗って、かぶりついた採りたての人参は身体に沁みた(私はこの日、二日酔いで朝から何も食べられていなかった)。 

今回の田植えもそうだけれど、実際に少しでも体験をさせてもらうと、農作業の大変さや農作物の貴重さが実感できて、食べられる喜びが増す(楽しい程度の一瞬の体験しかできていないので、実際の大変さを味わったとは到底言えないけれど)。

改めて本橋夫妻(奥さんもお友だち)を尊敬。ちなみに、もっちと奥さんのちばりえ(千葉に住むりえ※当時)はカンボジアで出会っていて、私もふたりとカンボジアで出会った。

学生時代、バックパッカー的な旅をしていた私は、カンボジアにはまった。もっちも当時はアジア諸国を中心に放浪する旅人で、なぜか私がカンボジアに行く度、もっちがいた。もっちは帰国後、「自分の暮らしを自分で作りたい」と百姓になり、素人から野菜を育て始め、それを実践している。

田植えの途中、みんなで頬張ったお昼ご飯がとんでもなく美味しかった。

我が子は大自然のなかで気持ちよさそうにお昼寝。

子どもたちは、軽トラに乗り込んだり、虫を捕まえたり、自然を観察しながら走り回って遊んでいた。なかには水田に落っこちて、全身泥だらけになった子どもも大人もいた。

畑一面に苗が植わった!! ここから苗が成長して見慣れた田園風景が生まれるんだな。

15時過ぎに、田植え終了。巡る季節、収穫の秋に思いを馳せて。

作業を終えた後は、近くに流れる滝で泥を落として、竹藪で着替えて、一休みして、帰宅。いい疲労感に包まれた。

0歳児を連れていった私はフルタイムで参加はできなかったというのに、翌日筋肉痛になった。腰も少しだけ痛い。農家のおばあちゃんおじいしゃんの腰が曲がる理由がわかるような気もする。

また秋には必ず、収穫に来よう。その前に野菜の収穫にも行きたいな。



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徳 瑠里香

ライター・編集者。出版社で書籍・WEBメディアの企画・編集・執筆、著者の会社でブランドの編集(PRや店舗運営)などを経て、独立。ウルトラ忙しい夫と1歳の娘と3人家族。著書『それでも、母になる 生理がない私に子どもができて考えた家族のこと』(ポプラ社)
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