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新津の匂い

たまに頭蓋の奥から匂いが染み出てまいります。
これはこれは。懐かしゅうございます。
言葉にすれば、灯油の燃える香り。
映像にすれば…誰にも伝わりますまい。

あれは新潟。新津。いまは秋葉区。
毎年毎年お正月にあつまったもので、
子供の頃の雪は、あの家でございました。
きんと冷えた黒い廊下を進むと、
奥から祖母がとんとんと料理をする音が聞こえます。
右にある重めの茶色い扉を開ければ、
祖父があぐらをかいて、ただ座っています。

ええ。ふたりとも、とうに死にました。
ですが、その前から私の姿はそこにありませんでした。
そのしばらく前から私の両親もそこにはありませんでした。
時とはそういうもので、思い出とはそういうもので、
人間の繋がりとはそういうものかも知れません。

割りきっていても、たまに思い出すのです。
いまも雪を見ます。家族であつまることもございます。
それでも、あの匂いはありません。

頭蓋の奥に閉じこめた匂いは、
もう皮膚で感じることはありません。
そういうものでございましょう。
そういうものでございましょう。

新津の家も更地になったと、
いつか母から聞きました。

/ルリニコクみみみ



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