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愛に関する小さな考察

 ふたりの愛が裁判にかけられました。

 まずは、ひとりめの番です。裁判長をつとめてらっしゃる、えらいえらいスマートフォン様が大きな声でおっしゃいました。

「お前はひとりじめを願ったな。ひとりじめは、いけないんだぞ。人を、苦しめるんだぞ。お前に殺された人たちが、どれほどいると思うんだ。」

 五十個ほどにも及ぶドングリをお支払いしてこの裁判を聴きにきた人々は、おぉいと叫んで喜びます。そりゃあ、そうですよね。この国の年収くらい、高い高いチケットなのですから。盛りあがらないと損。損です。

 こうしてひとりめは、死刑になりました。とても可愛らしい、十人ほどの小人が、ビールでぷよぷよになったお腹を揺らし、それはもう元気よく腕をふって愛のもとへやってきます。かれらは長い長いロープを使って、たまに手順を間違えちゃったりしながら、ゆっくりと愛の首を吊るしてあげました。うねうね、くるくる、と沢山もがいた愛は、だんだんと静かになっていきます。裁判を聴きにきた人々は、その様子をうっとりと眺めました。

 たのしいお遊びがおわったら、また真面目な裁判の時間です。ふたりめの愛が連れてこられました。スマートフォン様も、小人たちも、裁判を聴きにきた人々さえ、なんだか責任感に満ちたような、りりしい表情をしています。おおお、なんと立派なお姿。

「お前は支配をしようとしたな。支配するのは、いけないんだぞ。人を、苦しめるんだぞ。お前に殺された人たちが、どれほどいると思うんだ。」

 スマートフォン様の甲高い声が裁判所に響きわたります。なんだかすこし張り切っているようで、たまにこちらが期待する言葉のリズムとはタイミングがずれてしまいます。荘厳で立派なお方だけれど、こんな可愛らしいところもあるのよね。そんなことを皆が思っていたら、当然のようにふたりめの愛も死刑になりました。

 わあ。また会場が盛りあがってまいります。もうすでに端のほうで待機していた小人たちは、またお腹をおおきく揺らしながら、それぞれが自信をもって歩いてきます。すっかり冷たくなったひとりめの愛がくるくると揺れている下で、押さえつけられたふたりめの首がノコギリで切られはじめました。ぎっこぎっこ。ぎっこぎっこ。小人たちのえいえいという声に合わせて、ゆっくりと左右にノコギリが動いていきます。最初は耐えきれぬ痛みに暴れようとしたり叫んだりしていた愛でしたが、だんだんと声は空気まじりになっていき、目は見開き、やがてぽとりと首が落ちました。思ったより血は出ませんでした。裁判を聴きにきた人々は、その様子をうっとりと眺め、しばらく夢見心地にひたりました。

 しばらくすると、急に世界が真っ暗になりました。太陽がごっそりとなくなってしまったのです。みんなは、いったいなにが起こったのかわからず、慌てて走りまわりました。そしてえらい席にどしんと座ってらっしゃる、スマートフォン様の画面の明かりだけを頼りに生きていくことにしたのです。

/ルリニコクみみみ



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