霧満るろ

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    短編小説まとめ

  • イジーさんに連れられて

    子供専門の人攫いイジーは、農村で不当な扱いを受けていた兄妹を誘拐する。当初は警戒心を抱かれるイジー。だが、その目的が不遇の子供を孤児院に連れて行くことだと知った兄妹は、少しずつ心を開いていく。しかしイジーが懇意にしていた孤児院には、イジーも知らない裏の顔があった。 果たして、イジーと兄妹に待ち受ける運命とは――

  • 武装甲女は解を求める

    王国騎士である武装甲女ジゼルは、その腕を買われて公国の貴族ケイリス卿の護衛を任された。脅迫状に悩まされていた彼を、ジゼルは部隊を引き連れて警護する。脅迫状の犯人は、ケイリス卿の身近にいる人間を殺して回っていた。その手口が過去に、この街で起きた惨魔と呼ばれた殺人鬼の事件と酷似している。ジゼルはこの街の過去を知る青年リアンとともに、不可解な事件に隠された真実に迫っていく。

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【連載小説】武装甲女は解を求める 《プロローグ》第一話

 馬蹄の闊歩が、繁華街に鳴り染みる。  レンガ造りの街並みを繋ぐ、石畳のメインストリート。  月夜に映された旅団。それがコルムナラクス王国の派遣隊であることは、彼らが纏う甲冑の刻印を見れば明らかだった。  このような夜更けに、その姿を目撃した住民たちは一抹の不安に駆られた。  ノルドモンス公国は、コルムナラクス王国と同盟関係を結んでいる。  かつて二つの国は一つだった。しかし王座を巡って、数世紀以前は大規模な戦争が勃発したのである。  時の流れた現在は、その関係も非常

    • 【完結】武装甲女は解を求める   《エピローグ》第二話

      前回  丘陵にある旧領主館の中庭。  その片隅に建てられた二つの墓石の前に、リアンは静かに佇んでいた。 「――お前か」  ジゼルの気配に気づき、リアンは墓を向いたまま呟く。  リアンの隣まで歩み寄りつつ、ジゼルは途中で手に入れた花を供えて手を合わせた。 「……エリック様とクロト様のお墓ですね」 「貴族の墓所に、居場所など用意されるはずもない。そしてあんな奴らと同じ場所に眠らせたくもない。だから二人が築き上げた、この街を眺められる場所に埋葬した」  リアンは微かな哀

      • 【連載小説】武装甲女は解を求める 《エピローグ》第一話

        前回  夜明けとともに、ノルドモンス公国より不落の騎士率いる一団が現着した。  テオフィルス含めて、総勢二十人規模の襲撃犯たち。  ジゼルと騎士たちの活躍によって彼らは悉くお縄につくことになり、不落の騎士は司法の場に引き渡すため、直行で首都へと引き返す破目になった。    一つ気がかりなのはバストーネの姿がなかったことだが、ジゼルは彼に関しては特に心配していなかった。最後に言葉を交わしたとき、そこに復讐心は宿っていないように思えた。もしかしたら、亡き弟の供養に向かったのかも

        • 【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第十四話

          前回  そこに、彼が現れたのは偶然だったのだろうか。  作業着ではなく、黒衣のような外套を纏ったリアンが、旧領主館の方角から歩いて来る。  リアンの存在に、テオフィルスもジゼルもピタリと動きを静止した。  その奇怪な状況の意味を図り兼ねているように、リアンは呼びかけた。 「テオフィルス。そこで何をしていた?」 「あ……義兄上……」  愕然として、テオフィルスはリアンのことを見据える。  テオフィルスにとって、リアンは死んだ叔父の息子というだけで、それ以上に深い関係では

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        【連載小説】武装甲女は解を求める 《プロローグ》第一話

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          3本
        • イジーさんに連れられて
          17本
        • 武装甲女は解を求める
          51本

        記事

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第十三話

          前回  二人はきっと、武器というものの差を侮っていたのだ。  実力では、たしかにジゼルとオーティスに軍配が上がるだろう。  だが、バストーネのときもそうだった。まともに打ち合えないということは、敵の攻撃を自力で回避し続けるしかないのだ。  それは必然的に体力を消耗する。  敵は得物を振るっているだけなのに、こちらはその数倍の労力で避けなければならない。  そこに拍車をかける不運は、テオフィルスは想像以上に強かった。  おそらく剣の腕がないと言ったのは、自分が惨影と思わせな

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第十三話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第十二話

          「なーんだ。あの見習い騎士、結局生きてたんだ」  まるで死んでいて欲しかったような言い草で、テオフィルスは首を真横に振る。 「これだから、ボクに尽くさない女は邪魔なんだよなぁ。あの使用人も無駄に生き延びやがって、くそ。中途半端に毒なんて飲むもんだから、わざわざ後始末しなくちゃならなくてよ。病室に行ったら、そこの色黒に持って行かれたあとなんて……どんな冗談だよ」 「テオフォルス様。それが貴方の本性なのですか?」  気が狂ったかのように汚い言葉を使うテオフィルスを、ジゼル

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第十二話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第十一話

          前回  夜闇に包まれた、月明りに浮かぶ丘陵。  眼下の街並みと違って、そこは広場のように開けている。  鉱山組合の宿舎の前。そこにうっすらと佇んでいる、二人の男がいた。  一人は東の男オーティス。その右手には、白銀の刃が抜かれている。  もう片方は、ケイリスの一人息子であるテオフィルスだった。  二人は周囲に五、六人の男たちが倒れる中で、何やらやり取りをしている。  地に伏した男たちの中には、ケイリスの姿も見受けられた。  この場に辿り着いたジゼルは、真っ先にテオフィルスの

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第十一話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第十話

          前回  ジゼルの左腕は痙攣を起こし、しばらく使い物になりそうになかった。  本来は万全に鎧を着こんだ上に放つ技。  衝撃を受け止める鎧が破損している以上、その負荷はジゼルの身体に直にかかる。  万全を期していても腕に受ける負担は相当なものがあるため、剣を握る利き手で砲身を持たないのはこのためでもあった。  そして従来、この砲撃は籠城する敵の守りを打ち崩すもの。  人間に向けて放つのはこれが初めてであり、そうしなければならないほど、ジゼルが追い込まれていたことの証明だった。

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第十話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第九話

          前回 「どう、して……何で……」  言葉が上手く出てこなかった。  二階の窓から、次の矢を構えるか細い腕。  騎士として剣を持つには不向きゆえに、後方支援に従事している彼女は、すでにこの世にいないはずだった。 「ミラ……貴女が生きているはず……」 「ワタシのことなんてあとですよ、あとあと!」  そう、死んだと思われていた見習い騎士ミラは、続けざまにバストーネに矢を打って、ジゼルとの距離を空けさせる。  そして一定の間隔を見図って、ミラは二階からあるものをジゼルに投げ

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第九話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第八話

          前回  襲いかかる重量は脅威の塊だった。  戦のために鍛え上げられた巨体から、轟々と振り回される鉄塊。  それはさながらハリケーンのようだ。バストーネが鉄槌を振り抜く度に、そこに嵐のような突風が巻き起こる。  そしてこの物理エネルギーを真正面から受ければ、ジゼルに対抗する手段はなかった。  ゆえに、ジゼルの剣はこの豪風を流水のように受け流した。  打ち合った瞬間、月夜に飛び散る火花とともに、刀剣の角度と斜線を利用して攻撃をいなしていく。重たい連撃が次々に迫り来るが、ジゼル

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第八話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第七話

          前回  執務室の前には、バストーネと二人の騎士が立っている。 「隊長、どうかなさいましたか?」  ここに辿り着いたジゼルに、部下たちが怪訝の声をあげた。  部隊を指揮している隊長とはいえ、不用意に持ち場を離れることはない。   特に騒ぎが起こったわけでもないので、騎士たちがジゼルの姿に疑問を抱くのは当然だった。  しかしただ一人、バストーネは腕組みをしながら、動じることなくジゼルに告げる。 「何用だ、武装甲女。たとえ誰であっても、この部屋に足を踏み入れるつもりならば、

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第七話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第六話

          前回  月明りの照った綺麗な晩だった。  屋敷内を巡回しながら、ジゼルは表門や裏口にも足を運んで仲間に様子を窺う。  今のところ不審な動きは見られなかったが、嵐の前の静けさにも似た緊張感が屋敷全体を取り巻いていた。  単なる思い過ごしなら良いのだが、ジゼルには一つだけ気がかりがあった。  それはケイリスの身辺を守るバストーネの存在である。  夕方、屋敷から戻ってすぐにジゼルは彼の下を尋ねた。  そしてケイリスとの間にある、過去の因縁を問い質したのだが、バストーネは昔のことを

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第六話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第五話

          前回  目覚めたとき、辺りは薄暗かった。  全身に感じるふかふかとした質感。  身体の上には毛布がかけられ、頭部を柔らかい枕が包んでいる。  明け方だろうか、と寝ぼけ眼でジゼルは見渡した。  そこは見覚えのない部屋だった。  ベッドが置かれている以外、飾り気のあるものは室内になく、窓から差し込む夕焼けが現時刻を教えてくれる。 「……日暮れですか。少し昼寝をしてしまったようですね」  上体を起こし、ジゼルは軽く伸びをする。  そうしてベッドから抜け出ようとしたとき、ふと

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第五話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第四話

          前回  ジゼルは椅子に座って、リアンの作る昼食を待っていた。  奥には暖炉が備えついており、きっと中央には長テーブルが置かれていたのだろう。  しかし典型的な造りの一階食堂には、あとから持ち込んだとおぼしき、小さなテーブルと椅子しか存在しなかった。  無駄に広い空間に、ぽつんと取り残された気分。  ジゼルは妙に落ち着かない気分を味わいつつ、壁に一枚だけあった絵画を見やる。  そこにあるのは、褐色肌を持つ女性。服装はオーティスが着ていたような民族衣装で、風になびいている様子が

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第四話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第三話

          前回  丘の上に建つ旧領主館。  広々とした中庭を抜けて、ジゼルはリアンの案内の下、屋敷の中に入っていく。  玄関ホール正面の階段や、二階建ての造りは、ケイリスの住む現領主館とそう大差ない。  しかし明確な違いは、人の気配のない寂れた空間。それに装飾品や美術品などの一切の家財が置かれていないことだった。  唯一、階段の踊り場に飾られていたのは、おそらく前領主エリックの肖像画。  どこかリアンに面影ある青年の姿が、優しく微笑みかけてくる。  これがたった一人取り残されたように

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第三話

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第二話

          前回  領主館への道順を辿りつつ、ジゼルは頭の中で一連の事件と、バストーネのことを結び付けて考えていた。  そうする内に、バストーネも惨影足る根拠が不足してくる。  まるで時の女神に悪戯されているように、あらゆる点で辻褄が合わなくなってしまうのだ。  ジゼルの考えが足りないだけかもしれないが、ここまで推察が裏目に出ると、もはや不運という言葉以外に何も出て来なかった。  さらに、それはジゼルの身にも降りかかっていく。 「……ぁ」  短く上げた呻き声。  ちょうど路地から飛

          【連載小説】武装甲女は解を求める 《三章》第二話