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蛇腹⑤



間の抜けたブザーの音と共に扉は閉じ、バスが走り出す。
視線の先…といってもすぐ真横に座ったのは、姿を消したと思っていた、あの女だった。

「さぁ~むいねぇ~」

どういうつもりなのか、満面の笑みで缶コーヒーを差し出されると、反射的に受け取ってしまった。女の手はなぜかRedBullを握りしめている。

バスは札幌の中心部を順調に進む。
乗客は少なく、ほぼ等間隔で2人組が3組腰かけている。我々を含めどれも男女のペアなのは何かを暗示しているのだろうか?

いや、違う。俺は好んでペアになったワケじゃない。自らの妙な思索を振り払うように、無意識に顔を左右に激しく振る。

「あのさぁ、あれ、なんて読むの?」

女は前方にある電光の料金表示を指差した。端には【つぎは丘珠空港】と表示されている。

「…あぁ、あれは お か だ ま空港って読むんですよ…」

気のない受け答えではあったが、覚えたての空港の名を言うところはちょっと誇らしげだったかと後悔する。

「ふぅ~ん…、なんか違う気がするんだけどなぁ~……」

それには答えず、再び僕は外の景色に目を移す。手渡された缶コーヒーには手をつけなかったが、女はRedBullをがぶ飲みし始めたかと思うと、堰を切るように話はじめた。

思った通り、仕事絡みの愚痴と自慢が入り交じった話が続く。だが列車内で犯した、心の声が音となって漏らす事のないように、細心の注意は払う。なんだかんだ言っても、サラリーマンなのだ。

真冬に突入しようかという北海道にもかかわらず、女はいつも通りのミニスカート姿だ。窮屈な座席でほぼ密着状態でそれを目の当たりにしているが、僕の理性には何の変化も起きないのもいつも通りだ。

女の話をことごとく聞き流し、メトロノームのような単一のリズムで相槌を打っていると、女の右手がいつからか僕の太ももの上に置かれている事に気づいた。

何に腹を立てているのか、女の口調が激しくなるに連れ、右手はじわじわと下腹部に向かってゆくのであった。

…つづく

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