格ゲー向けコントローラーを買い、そして断念した一人の話/SANWA SUPPLY 400-JYP62UMBKX レビュー

2ヶ月か3ヶ月ほど前、アーケードコントローラーが故障した。
それ以来ずっと私はパッド+モダン操作でストリートファイター6をプレイしているのだが……やはり、時たまクラシックの技数が恋しくて仕方なくなる。主にリュウの立ち中Kが恋しい。
だが私は過度に不器用で、ましてやこのコントローラーでモダンとクラシックの両方をプレイしてもこんがらがる事のないような高性能な脳は持っていない。そこで前々から目をつけていた、公式的にも格闘ゲーム用途を想定していると思われるコントローラーを購入してみた……そのコントローラーの話。

事前情報として、
・当方はクラシック操作をアーケードコントローラーでしかこれまでうまく扱えなかったクチだ
・方向キーではなくスティックで格闘ゲームを操作してきた
・スティックでのコマンド入力には一切問題がない程度には熟達している
といった事を、レビュワーがどのような視点から語っているかの事前情報として述べておく。

最高のボタン配列

このゲームパッドのボタン部分は、方向キー部分と「16ボタン」を除けば非常によくできている。
ショルダーボタンはLB/RBのみならずLT/RTといったトリガーもデジタルボタンになっている為、シビアなタイミングの入力にも適している。これは格ゲー用パッドとしては言うまでもなく最高だ。
前面右側の6ボタンは特に非常に良く出来ていて、単に6ボタンが押せるというだけでなくストリートファイター系の6ボタン格闘ゲームに使用した場合に「同強度PK同時押し」のような操作が指の角度的に非常に自然に押せるようになっており、リープアタックやドライブインパクトや投げといった操作がかなり安定する。
この部分の配列に関しては、格ゲー用パッドの最適解と言っても良いレベルで洗練されている。

ただ質感は平凡というか、個人的にはもう少し跳ね返りがくっきりしていてほしかったという印象。また個体差かもしれないが私の個体はRTボタンの精度に難があり、自然に押すと妙に引っかかって押し込めず反応しない事が多かった。
このバリが原因で落としたドライブインパクトは数知れない。

また配列に関しても、一つだけ、本当に一つだけ意味がわからない点がある。
先にも述べたが、「16ボタン」である。
「一般的に中パンチが割り当てられているボタンの上」の部分に堂々と佇むそれは、若干持ち手を奥に握り込むように手をずらさないと押しづらい感覚があり、他ボタンとの同時押しもしづらく、またショルダーボタンの豊富さからボタン数不足もあまり発生しない為、「基本的に存在しないも同然だが単に稀に誤爆するからどちらかと言えば邪魔かなぁ」という感触が非常に強い。
何故ここに余計なボタンを一つ足した……?

スティックよ、何故そこに

このパッドの配列は、基本的には方向キーが上でスティックが下のPS配列をベースとしている。
この配列は方向キーに自然に指が伸びる反面若干スティック操作時には若干親指を広げるようにする必要がある点からか無駄な力が入りやすく、スティック操作を主体として格闘ゲームをプレイするプレイヤーにとっては正直なところ使いづらい。
PS配列のスティックは方向キー勢向けの配列におまけとして付いているもの、という印象があるし、実際に歴史的経緯を見ても「SFCコントローラー→グリップをつける(PSコントローラー)→スティックをつける(アナログコントローラー)→以降Dualshockに置き換えられ配列据え置き」という経緯で開発されたものなので、スティックがおまけという私の認識は間違っていない筈だ。
まあその配列を採用した時点で、元々あまりスティック勢向けでは無い可能性が非常に高いだろう。

その上、スティックの背が高くストロークが非常に広いのだが、これは格闘ゲーム的には何のメリットがあると思ってこのような設計にしているのだろうか?
格闘ゲームの方向入力は全て0か1かのデジタル入力だ。「レバーを何処まで倒したか」といったような繊細な調整は存在しない。
同じ格闘ゲーム向けパッドで同様にストロークの広いスティックを持つPDP Wired Fight Pad proというものが存在するが、こちらは格闘ゲームは格闘ゲームでもそういった調整が繊細な大乱闘スマッシュブラザーズSPECIALを想定した商品だ。それ故にスティックのストロークの広さは明確な設計意図に基づいたものであり、そうした拘りに満ちたそれは紛うことなき名機である。
一方サンワのこれはPC専用である。PC格闘ゲームは言うまでもなくほぼ全てがデジタルな方向入力を採用している。
このスティックの高さとストロークの広さは「指を動かす距離が長くて疲れる」「指をより広げなくちゃいけなくて攣る」というデメリットにしかなっていない。
位置も相まって特に左向き昇龍や左向き真空がかなり出しづらく、この時点で何かこう、色々なことを断念した。

では方向キーはどうだろうか?スティックが使いづらくても、方向キーがあるじゃないか。指を伸ばしてみる。駄目だこれ。
押し込みが薄く、且つ中心軸が無く全方向を同時押し出来るタイプになっている為、どの方向に入れているのか指で掴みづらく、昇龍拳入力時に横入力を抜くのも難しいといった欠点が目立つ。要するに明快さが全く無い。
軽いカチャカチャ音とふにゃふにゃした感触と……ああ、一体何なんだいこれは……
本当に、本当にこのパッドの方向キーはコマンド入力が難しい。ステップ時専用ボタンという使い道が基本的には妥当だろう。

段々と、暗雲が立ち込めてきた。

何故意味もなく角ばらせたのか

このコントローラー、何故か理由もなく全体的に角ばっている。
角張った形状のコントローラーは丸みのあるものより握り位置が制限される、握り方をコントローラー側に規定されるようなフシがある。この点により、上述の左側のレイアウト面の問題を握り方の工夫で解決しづらくなっている印象だ。サイズ自体が大きいのも相まって、やや握りづらい方だと感じる。
日頃愛用している(モダンリュウnoteもこれで書いた)ゲームパッドのTurtle Beath React-Rは掌にすっぽりと収まってある程度自由に構えられるイメージなのに対し、こちらはグリップ部分を握ってはみ出した位置にあるボタンに指を置きつつ、より突出したショルダー部に更に指をかけるような感触で握り方の自由度にも乏しく、比較すると手の疲労感なども段違いにこちらの方が強い。

総評

いやね、訝しんではいたんですよ。
ストリートファイター6が発売し、格ゲーブームが再来してから9ヶ月程が経過しようという昨今。多くの動画投稿者がこのブームをアフィリエイトチャンスとして利用している昨今である。私は素直なのでこの記事内のAmazonリンクも彼らと同様にアソシエイト・プログラムを利用している事を述べておく。
こんなにも廉価なクラシック操作向けのパッドが発売されていて、「モダンからのステップアップにオススメ!」という声が何故殆ど上がらなかったのか。そういったレビュー、動画、その他諸々を見る事が無かったのか。
どう考えたって絶好のバズチャンスだろうと。

せめて方向キーが軸に乗っていて、ついでにもう少ししっかりとした感触でさえあれば、方向キー操作のプレイヤーには勧める事が出来ただろう。
せめてスティック位置がXBox配列であれば、そしてスティックの背がもう少し低ければ、これはスティック操作クラシック勢向けとして中々悪くなかっただろう。
せめて全体が丸みを帯びていれば、もう少し手に馴染む持ち方が出来ただろう。
ついでにXinputモードの挙動が珍妙で、ストリートファイター6においてはDirect inputモードでないと認識されなかった。どうもドライバーの挙動が色々と悪いようだ、本当に勘弁してほしい。

一つ一つは致命傷にならない程度の、しかし明確に「not for me」を生み出してしまう、そんな小さな欠点が幾層にも積み重なって誰にも適さないコントローラーになってしまっている、そういった印象だ。
あまりにも洗練されていなさすぎる。そこに無骨なデザインや質感、サンワサプライ特有の飾り気の欠如も相まって、既に潰れたメーカーが90年代に作ったサードパーティコントローラーを触っているような気持ちになってしまった。
商品としてのコンセプト自体は良い。6ボタン格ゲーに適したコントローラーは誰だって欲しいし、実際6ボタン部だけならばそれをほぼ完璧にこなせていると言えるだろう。しかし結局のところ、コンセプトだけではプロダクトは完成しないのだ。
コンセプト部と比べて何も目立たない、なんてことない地味な形状の調整や精度、ドライバの完成度、そういった地盤がしっかりしていて始めてコンセプトは価値を持つ。

しかしこの完成度であれば確かに、殆どの人は「なに?パッドでクラシック操作がしたいだと?……格ゲーに君は本気でハマったんだろう?だったらもう少し高い金を出してHORI ファイティングコマンダーOCTAを買うべきだ」と言うだろう。
更に金が余っているならVictrix Pro BFGを買えだとか、いやいや8bitdoMayflashのアーケードコントローラーが安いのでここらで一つアケコン入門をしてみないかだとか、Qanba Droneド安定だねだとか、いっそAliexpressなら7000円でおつりが来るHaute42や10000円前後のFightboxなどの中華レバーレスに行こう、だとか。そもそも美青年格ゲーマーEndingWalker君もXBox標準コントローラーでクラシック操作をしているよね、だとか。
このコントローラーよりも魅力的な選択肢は無数に存在していて、なんというかこう……ああ、私も彼らに倣いこれを勧めない道を選ぼう。誰もこのコントローラーの話をしていないのは、残念ながら自明の理であったと結論づける他無い。
サンワサプライさんにはもう少し人間工学という物を学び直していただきたい、と思う今日此の頃であった。さて、この使い道の思いつかないパッドはどうしようか……

そして私は代わりとなるアーケードコントローラーを購入した。
Mayflash F500 Elite、こちらも届き次第レビューしましょうかね。

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