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持続的経営に関する検討

(大学院の関係で書いたレポートを再編集しています)

はじめに

近年の地球規模での異常気象による自然災害などを見ても、狭い範囲での思考ではなく、地球規模で我々社会の持続可能性を議論する必要性は高くなってきています。国連が規定する世界共通の指針としてある「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標のSDGs(sustainable development goals)がこれほどまで注目されている背景にも、こうした身近に迫った危機意識が表れているといえるのではないでしょうか。 

今回はまずSDGsの先駆けとなったMDGsについて触れ、その二つが成立した時代背景の違いから、企業に求められている役割の変化について検討します。また関連してESG投資についても触れます。その上で持続的経営についての定義を確認したうえで、持続的経営を進めることの意義や、持続的経営に関しての課題について述べます。最後に考察を述べることで、持続的経営にSDGsの存在が大きく影響している点を述べたいと考えています。


MDGsとSDGsの時代背景の変化

MDGs(Millennium Development Goals)はミレニアム開発目標と訳されていて、2009年に国連で開催された国連ミレニアム・サミットで採択されまとめられたものです。主に貧困や飢餓の撲滅といった2015年までに世界が解決すべき8つの目標を設定しています(外務省ホームページより)。

MDGsとSDGs(sustainable development goals)の違いについて。どちらも人類全体が取り組むべき課題を世界に発信していたとはいえ、SDGsはより幅広いグローバル・イシューへの言及を行っており、気候変動や環境面へのアプローチが増えています。また国内外での格差についての視点もあり、先進国でも共通の普遍性を持った課題という視点が盛り込まれています。また策定プロセスに政府や市民だけでなく企業セクターも加わったということで、企業の果たす重要性についての認識が深められています(関・2018)。

特にSDGsではその企業の果たす役割は、時代背景の変化とともに重要になってきています。特に2000年代前半までの一部大企業のみがCSRを盛り込んだ企業経営を行っていた時代から、社会の要請や多くのステークホルダーの意識変化などもあり、企業が積極的にCSRを意識し(関・2018)、様々な目標にSDGsを盛り込んできているのは時代のよい変化といえるでしょう。

ここで重要なのは、企業に求められている役割が寄付やボランティアなどによる社会貢献一辺倒ではなく、あくまでも企業のもつ技術力やサービス内容などの本業があって、その価値を最大限いかしつつSDGsなどで掲げる社会課題を解決していくという役割が企業に求められている点です。


ESG投資の役割

続いて、持続可能性という点での新たな投資の視点、ESG投資について。ESG投資とは環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Government)の頭文字をとり、投資の側面からも環境や社会に対する企業の責任を重視する視点です。

近年IRの側面でも注目されていて、社会からの積極的な投資を呼び込むに際して重要な視点とされています。これは財務面での成果だけに注目されて投資判断がされていた時代から、非財務面での評価の視点も重視されている世界潮流の表れで、短期的な利益を追い求めてきた投資スタイルに対する反省の意味もあるとのことです(伊藤・2018)。そしてよりSDGsとの関連が明確化されてきています(笹谷・2018)。これらの点については後程詳しく書きます。

持続的経営に関しての定義

ここでは持続的経営に関する定義を確認しましょう。
持続的(Sustainability)経営という言葉には「企業が永続的に持続していく」という意味と、経営活動の結果として「持続可能な社会が形成される」という意味と、両方が考えられます。ここでは、あくまでSDGsに関連して思考を深めているため、後者の経営活動を通じて、持続可能な社会が形成されていくという点に重きを置きたいと思います。

ただ付け加えますと、経営活動を通じて持続可能な社会を形成していくことに企業が取り組むことで、結果として本業である事業が発展し、企業体としても永続的に持続していくということは十分考えられるわけです。それはこれまでのCSRに関するさまざまな著書でも述べられてきていて、企業は社会のサブシステムであり、社会の中で経済的機能を果たす過程において多様な影響を及ぼし、政治的・文化的・社会的機能を果たしており、多様な環境に影響を与えている(金井・2016)といえるからです。

そのように考えると、持続的経営の定義は、どのような活動プロセスを経たとしても、「持続可能な社会を形成することを目的とした企業経営」と定義できるのではないでしょうか。

持続可能経営を進めるために

これまでMDGs やSDGs、そのほかESG投資の視点などについて確認しました。それにより、企業が社会の中で、社会のサブシステムとして担う役割は大きくなってきている点がみてとれました。また持続的経営についての定義も確認したことで、企業が利益を上げ続けることで持続性をもって永続的に企業経営が続くことと、持続可能な社会つくりに本業の強いみを生かして貢献していくことは、非常に親和性の高いものといえ、そしてSDGsを企業の持続的経営を考えるうえで、外すことのできない重要な要素であると考えられるのかなと。

そのような持続可能経営を進めていくために、どうSDGsを活用するか。

具体的には特にSDGsを意識した内容を理念ビジョンに盛り込むことにより、企業の新たなビジネスチャンスを生み出すとともに、SDGsに照らし合わせて自社の強みを言語化しステークホルダーに印象付けることに繋がると考えました。企業理念ビジョンは「わが社は何をして社会で貢献していくのか」を明確に言語化したものです。この存在と存在を通じた社員教育などにより、社員を含めたステークホルダーのチームビジョンを一致させて価値を生むことができるのではないでしょうか。

また先述したESG投資の視点でも、社会起点でビジョンを明確化することで、投資を呼び込み、持続的経営と企業価値の向上と、両方を目指すことができると考えました。


持続可能経営の課題

さて持続可能経営を考えるうえでの課題についても考えてみましょう。

上記のように持続可能経営を進めるためには、具体的にSDGsを意識した内容の理念ビジョンを組織として持つことが重要じゃないかと考えています。それは繰り返しですけど、企業は社会のサブシステムという位置づけであり、あくまでその存在意義として持続可能な社会を形成することを目的としているからです。つまり「アウトサイド・イン」の視点で社会の要請を読み解き、それに対応していくわけです。

しかし現状のSDGsの活用のされ方として、企業がこれまでの自分たちの活動の延長線上にSDGsをあてはめる「インサイド・アウト」の企業側の視点で物事を考えてしまいがちかなと思っています。これでは本末転倒で、課題といえるでしょう。同じSDGsを掲げていても、起点となる視座が変われば大きく結果が変わってしまうことになります。


考察

これまで見てきたとおり、SDGsは持続可能経営を実践していく上で非常に有効活用できる指針であると考えます。しかしスタートの視点の置き所を「アウトサイド・イン」の社会起点にするか、「インサイド・アウト」の企業起点にするかで、大きく結論が変わってくると考えました。

企業としてはまずSDGsに紐づいた理念ビジョンを明確にすることからスタートするべきですし、この理念ビジョンが明確化されることにより、企業およびその企業を取り巻くステークホルダーとの共通認識を持つための視座となるでしょう。

そして、この理念ビジョン実現を踏まえ、どのように事業展開していくのかの経営戦略を立てていくこと。その個別の戦略においてもSDGsを意識したものを作成していくべきでだと考えました。それにより、「持続可能な社会を形成することを目的とした」経営となり、結果として利益の上がる永続性のある企業経営が可能となるのではないでしょうか。

またこのSDGsを活用した持続的経営を後押しするのにESG投資の視点は欠くことのできないものです。企業が積極的に「社会課題を解決する」という企業活動を後押しするモチベーションとなっており、そういう意味でステークホルダーの姿勢も大きく企業行動を左右することに繋がっているのでしょう。


おわりに

今回はSDGsと持続的経営の関連性について、参考図書などを踏まえて考察しました。企業経営の一つの指針として活用されるだけではなく、結果としてより良い社会構築に繋がるものでしょう。またステークホルダーの姿勢がESG投資などを通じて企業の行動変容に影響を与えていることを考えると、社会のサブシステムとして、私たちの存在一人一人に、ステークホルダーとしての姿勢が問われているのではないでしょうか。そのような視点をもつきっかけになった思考でした。



今回は以上で、ありがとうございました。


参考文献
笹谷秀光著『経営に生かすSDGs講座―持続可能な経営のために―』環境新聞編集部(2018)
関正雄著『SDGs経営の時代に求められるCSRとは何か』第一法規(2018)
伊東邦雄共著『企業価値を高める経営-投資家との協創が生む持続的成長-』 日本経済新聞出版社(2018)
大滝・金井他共著『経営戦略-論理性・創造性・社会性の追求』有斐閣アルマ

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