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『dopeman:narcotics anonymous.』#0 peace maker and black sun. 吉上亮

銃口から煙が溢れ出す。

煙は男の身体を覆っていく。

大地を洗う雨のように煙が晴れた後には肉を削がれて骨が剥き出しになっている。獣に肉という肉を喰われ、血と腐汁を蠅によって吸い尽くされ、百年の日差しと百年の雨に曝され、生の痕跡いっさい磨き抜かれ蛋白石のように光を帯びた煌白の骨。

煙という闇に浮かび上がる骸骨。死者の祝祭の日に街で一番の伊達男が街でもとびきりの美貌を誇る娘を舞踏に誘い、その手に捧げる死者の国からの贈り物。あるいは死そのものを祀る女神の首を彩る飾り。

捧げられる血が溢れるように男のがらんどうになった頭骨の眼窩、鼻腔、口腔、あらゆる空洞から煙が溢れ出す。黒い煙が。赤黒い煙が。煙になった血と肉が男の内部から解き放たれ太陽を目指すように高々と天へ立ち昇る。飛翔する鳥の群れの影のように拡がる。蝋で固められた羽根が舞う。幻影の羽根が。純白の。漆黒の。そして紅の血の涙のように流れる赤い羽根が。

再び色と形を取り戻した血と肉は男の右腕に屍肉を貪るコンドルのように殺到し新たなかたちに編み直され、その手に握られた火と水と人によって鍛造された鉄の銃へと絡みつく。

花が咲く。肉厚の赤く熟れたじゅくじゅくと甘く腐敗した汁を垂れ流しながら男の血と肉だったものすべてが鉄の銃と絡み合い、交雑する。その姿は灼熱の太陽によって背の翼を焙られそれでもなお焼かれるうちに肉と骨とが収縮し奇妙にねじくれて麗しい天使の面影など何ひとつ残らない醜悪な亡骸となってしまい、美しいものだけを愛し反逆するもの醜きものは地に堕とす神の意図に反するために地上へ落とされたものの末路のようでもあった。

蠢く赤い肉に覆われた鉄の銃口の奥で温かな胎と化したシリンダーに収められた弾丸の一発一発が血と肉に触れることによって変質し中身を吸い出される。青白い満月の夜にこれまた青く透き通った身体の胎児を大地にぼとりと一匹の雌狼が彼女の胎内から産み落とすように、そして一発の銃弾が装填される。

青と白の入り混じる、銀色の弾丸が。

煙という闇に浮かび上がる骸骨となり不死の戦士と化した男は、その骨格しか残っていない己の全身の骨という骨を一発の銃撃を放つための発射台として構える。

血と肉と鉄によって編まれた赤き花に彩られた長大な銃を掲げる。

平和を生み出すもの(ピースメーカー)。そのように名づけられながら荒ぶる禁じられた西部の荒野で数多の人間の血を大地に啜らせる祭儀のための神具と化し、死を祝福し捧げられた供物を貪る女神がもしもその存在を数多の山と丘と平原と草地と河とそして国境を超えて知ったのなら必ず寵愛したであろうその銃を男は撃つ。

その引き金が絞られる。

打ち鳴らされる撃発の火。肉が焦げ血は焼けつき硝煙が四散する。

放たれた弾丸は揺るぎない火線となって標的を穿つ。

あらゆる距離もあらゆる障害にも阻まれることはない。

その一撃は神に祝福された戦士の放つ神殺しの槍となって空を駆ける。

雲を晴らすほどの衝撃。

吹き飛ばされた雲間から天使の階梯が光となって地に降り注ぐ。

その穿たれた空隙を青白い弾丸が赤き血を雨のように迸らせながら進む。

近づくあらゆるものを溶かし墜落させる太陽さえも止めることはできない。

あらゆる毒をものともせず己の血肉へと変えて戦い続けいつしか殺戮こそが自らに許されたただひとつの善行と化した男は世界の終わりのような奇跡を成し遂げる。

男が構えた銃から放たれた弾丸はそして太陽を打ち抜いた。穿ち貫き爆ぜさせた。

後には暗闇の空洞と化した太陽だけが残る。

暗黒の太陽が。

暗闇の光に照らされる大地にかつてそこに立っていた男はもう煙は風に流されて消え骨は発射の衝撃で粉砕し血と肉は焦げた消し炭になっている。

あとにはもはや二度と撃たれることのない弾丸切れの鉄の拳銃だけが残されている。


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原作:吉上亮[協力モンスターラウンジ]×漫画オギノユーヘイによる『ドープマン』マンガ本編は「くらげバンチ」にて連載中。https://kuragebunch.com/episode/3269754496830840237

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