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自律型組織のつくり方

2019年4月9日(火)に、一般社団法人21世紀学び研究所主催の「自律型組織のつくり方 ~チームの力を最大化するために必要なこと~」というイベントに参加しました。

パネラーは、株式会社ヤッホーブルーイング  代表取締役社長井手 直行(いで なおゆき)氏と、株式会社LIFULL 執行役員Chief People Officer羽田 幸広(はだ ゆきひろ)氏のお二人で、モデレーターは、一般社団法人21世紀学び研究所代表理事の熊平 美香(くまひら みか)氏でした。

会場では写真撮影・SNS投稿OK(動画はNG)とされていましたので、できる限り私の学びをシェアしたいと思います。

まず、ヤッホー・ブルーイング社のクラフトビール(4種類およびソフトドリンクのうち好きなものが選べました)で乾杯して、飲みながらパネルディカッションという和やかな雰囲気で始まりました。

①株式会社ヤッホー・ブルーイング代表取締役社長 井手直行氏のお話

ヤッホー・ブルーイングは、クラフトビールではシェア1位。1996年に軽井沢で創業しました。一番最初に発売した「よなよなエール」は今年で23年目だそうです。ビール業界で一つのブランドが23年も生き続けているというのは、非常に珍しいことだそうです(いわれてみれば。。)。しかも、14年間連続増益中のすごい会社です。

斬新で個性的なビールをつくるために、当社のミッションは「ビールに味を!人生に幸せを!」、そして、企業文化は「ガッホー(がんばれヤッホーの意味)文化」、あり方は「知的な変わり者」。そして、ヤッホー流コミュニケーションマップにあるいろんなレベルのコミュニケーション方法を通して、社員に対して経営理念の浸透を一生懸命やってきたそうです。

チームリーダーは立候補制で決めていて、事業はプロジェクト制、そして社長含めてニックネームで社員を呼び合う組織です。

井出氏が社長に就任して以来、社員といろんな形でビジョンを伝えていったそうですが、はじめは全然うまくいかなくて、「こんな会社やってられっかよ!」と捨てセリフを残して、どんどん人が辞めていったそうです。

しかしながら、社長である自分が100%純粋に理念にこだわり続けること、企業理念や文化への共感を拡げるためのコミュニケーションの量と質、一貫性のある行動やあり方、理念を日常で実現する仕組み・構造を作ること、諦めないこと、目先の利益よりも理念ファーストのコンセプトを採用から小さな決断まで至るところで実践することを愚直に続けていって、スーッと自然に社員が自分たちでビジョンを語るようになったそうで、数字という結果もついてくるまで、だいたい3年かかったそうです。

井出氏は、成果が出るまで頑張って続けてみて、ダメなら転職を考えた方がいいと思いながらやっていたそうです。

②株式会社LIFULL執行役員 羽田 幸広(はだ ゆきひろ)氏のお話

ライフルは、7年連続で「働きがいのある会社」ベストカンパニー(2011年〜2017年)に選ばれています。

企業理念は「あらゆるLIFEをFULに」。

社員に「あなたが毎日職場に来る理由は?」と質問したら、「経営理念を実現するため」と全社員に答えてほしいと思っているそうです。

現在ライフル社は、2025年までに子会社100社、経営者100人、100か国を目標にしています。現在は63か国に進出していますが、このスピードだとちょっと間に合わないかもしれないので焦っているそうです。

この目標を達成するために経営陣7名だけでは到底不可能なので、全社員を巻き込むしかないと考えたそうです。ライフルはヒエラルキーがある普通の会社ですが、社長が社員に新しいアイデアを聞くことが大好きだそうです。

さらに社員に対し、①経営理念と経営活動の一貫性を持つ、②内発的動機付に基づいた挑戦機会をつくる、③共感をベースに同志を集める、という3つの指針を約束しているそうです。

一般的に企業理念を役員が実際に体現しているか、言動一致しているかが重要ポイントなので(人は言葉よりも行動を見ていますよね)、「役員の心得5か条」というのをつくり、社員からちゃんと実行できてるかアンケートを募ったそうです。最初は厳しいフィードバックが来て落ち込んだ役員もいましたが、少しずつ改善してきたそうです。

そしてさらに社員に対して、「挑戦できない」と言い訳できないくらいの仕組みづくりをつくったといいます。例えば、新規事業プロジェクト、事業の子会社化、社会貢献事業(税引後利益の1%をCSRに充てる)、そして社員が先制として教えているLIFUL大学の設立など。

組織開発の年間スケジュールはこちら。

いろんなコミュニケーションの場で全社員に対して、「この会社でどんな人が偉いのかを伝えています」と羽田氏。

それがこちら「薩摩の教え」です。

1、何かに挑戦し、成功した人 2、何かに挑戦し、失敗した人、3、挑戦はしていないが、挑戦する人を手助けした人、4、何もしない人、5、何もしないで他人を批判するだけの人。つまり、挑戦した人は結果に関係なく偉い!としているそうです。

この教えは、「こういう人材がこの会社に必要なのだ、そういう人材が評価されるのだ」ということを明確にしています。

採用基準でも、ビジョン、ミッションに共感が持てる人を優先しているそうで、一貫性をキープしています。

③パネルディスカッション

Q1)どんな組織をつくろうと考えていますか?

(ヤッホーの井出氏)

実はわが社も初めはピラミッド型だったんです。だけど、売り上げが上がらないなどなかなか経営がうまく行かなかったので、フラットな組織にした。自分が2008年に社長に就任してから3年間は大変だった。古株の人は、みんな怒って辞めてしまった。だけど、3年目からうまく回りだした。その方向性を信じられる人からアプローチしていった。小さな輪から少しずつやった。チームビルディング研修を上からやっていった。そこから下に広げて説得していった。「それをやって何が起きるのか?」を伝えることがポイントだと思った。少しずつ成果が出始めて、すると、今まで見向きもしなかった人たちが、信じ始めた。

具体的な例を話すと、うちの会社は基本的に製造業なので、「きちんと商品をつくる」というルーチンがある。それを、もっと改善できるのでは?もっとよくできるのでは?ということを、社員が自分で考え、自分で提案するようになった。実際、製造業務に関わる人たちを「フラット」な組織にすることは実現しづらい。ある程度のヒエラルキーは必要。しかし、自律した姿勢を持ってもらいたいということで、そのバランスをとるため、ファンイベントなどの日常業務以外のイベントを実行するときに、いつもは単純作業しかしていない人がプロジェクトメンバーとして参加し、「お客さんに喜んでもらう」という企画に参加することで、意識が変わっていった。自分が作っている商品が、実際にその商品を購入していただくお客さんと触れ合うことで、「お客さん目線」あるいは「もっと喜んでもらうために」という視点でモノづくりを考えられるようになった。そしてそれが実際に成果として出るようになった。

ちなみに、そのファンイベントの準備のための社員の残業代は(どんなにくだらないことでも)すべて認めている。企業文化の浸透のための活動につながることなら、認めるという姿勢をとっている。社員の自主性を大事にしたい。

(ライフルの羽田氏)

うちの会社は色でいうとティールでもグリーンでもなく、ある程度ヒエラルキーがあるいわゆるオレンジ型が基本です。しかし、新規事業プロジェクトやキャリアを考えてもらう際には、社員の内的動機を重要視している。「平時はボトムアップ、有事はトップダウン」というようにバランスをとるようにしている。また、経営理念の実現のためにはどうすればいいか?というビジネスモデルを持っていて、そのPDCAを回している。

Q2) 何を大事にしているのか?

(ヤッホーの井出氏)

自分が社長に就任した当初、チームがうまく行っていなかったので、チームビルディングをとにかくやった。そうしていたら、結果的に「自律型」といわれるようになってしまった。逆に、「こうなろう」と何かモデルを目指したり、教科書どおりに枠にはめていったわけではない。大事にしていることは「コミュニケーション」。コミュニケーションが一方通行になるのはよくないと思っていて、若手もパートも誰でも全員が口を出せるような雰囲気をつくっている。方向性を決める時も、社員全員で対話を通して決めた。ただ、どういう内容で社員の意見を聞くべきか?というのは会社によって違うと思う。

Q3)どういう人たちが集うと「自律型組織」になるのか?

(ライフルの羽田氏)

あるときうちの会社の社員の発言を聞いて、うるっと来たことがあるので、紹介したい。それは、新事業立ち上げで失敗したリーダーが、「給料いらないから続けたいと思った仕事は、初めてだった」という言葉。その人はママさんで、まじめな方で、普段から新しいことにチャレンジするようなタイプの方ではなかったが、そこまで一生懸命になった仕事を自分から立ち上げた。どんな人でも、入社したら新しいことにチャレンジできる場がある会社だと思う。

(ヤッホーの井出氏)

採用するときに大事にしているのは、①優秀な人、②経営理念に共感している人、そして、それを体現できる人。特に企業文化はみんなでたくさん議論するのだけど、ポジティブで自ら考えて自ら行動する人が望ましいと思う。ニックネームで呼び合うフラットな組織なので、金儲け、指示待ち、人の話を聞かない人は、うちのカルチャーには合わない。たとえば、面接のとき「ビールが大好き!」という人が多いが、それだけだと不十分。その人にいろいろ質問していくとわかっていく。自分がイメージするわが社は「勝ち続ける企業」。そのためには一部の経営陣が頑張ってもやっていけない。自分がいなくなっても、100年先も脈々と続く企業文化をつくる必要がある。

そのためには、「楽しい」→「チャレンジ」→「成果」(というサイクル)の循環がとても大事だと思っている。

初めはどんどん人が辞めていった。だから、そういうことを繰り返さないように、企業理念や文化を大事にしたいと思う。「売り上げはどうでもいい」とまでは言わないが、正しいことをあきらめずにやっていれば、結果は後から必ずついてくると思う。

(ライフルの羽田氏)

採用基準としては、①ビジョン、②カルチャーへのフィット感を大事にしている。

うちでは新卒採用の場合は、ある程度絞られたら学生候補者全員に社員アドバイザーがついて、一緒にキャリアやその人の価値観を掘り下げるサポートをしている。そのなかでうちの会社に価値観が合う人だけ採用する。アドバイスする側は、アドバイスするときと、口説くときとは明確に分けて、学生に伝えるように丁寧にアドバイスしている。そして、もし価値観が合わない場合は、「あの会社のほうがあなたにあうかもしれない」と他社を紹介している。理念が「利他主義」なので、それが相手のためにもなるし、将来的に自分のためになると思う。

中途採用の場合ですが、以前まで事業責任者が最終面接を行っていたら、仕事ができる人ばかりで、会社の価値観や人柄が会社にフィットしない人が採用されてしまう事態になってしまった。事業責任者は、スキルが高かったり、仕事ができる人につい飛びついてしまう傾向があるのは仕方がないんですよね。なので、最終面接は社長と人事の私が面接するようにして、採用基準を合わせるように改善したという経緯がある。

Q4)多様性は?

(ヤッホーの井出氏)

「ストレングスファインダー」をやっている。多様性をとればとるほど、理念の浸透が大事。

(ライフルの羽田氏)

経営理念では、会社が何をやらないかを決めている。

Q5)経営者はどんな風なことに気を付けていますか?

(ライフルの羽田氏)

リーダーがぶれていたら、整うようにしていた。社長はビジョン、人事は同質性をメインに。いまではリーダーが理念にあわないことを言ったりやったりしていると、社員から人事に声が上がってくるようになった(「あの部長はこんなことを言ってるよ」というような)。

(ヤッホーの井出氏)

社長として理念について常に話してます。リーダー含め全員で。そうしていたら、今では入社して2、3年目の若手社員が、文化や理念浸透のために、寸劇とか動画とかを撮って、全社向けに伝えようとする動きが出てきていて、びっくりした。いろんなケースを寸劇をとおして見せて、「これは、この会社としてどうでしょう?」という風に社員に問いかけている。すごい、こんなやり方があるんだ!と思って関心しました。

トップの魅力が、その組織の文化につながる。そして、トップ以外の社員がどうそれにかかわっていくのかが大事だと思う。トップと協働することが大事。

自分が大事にしているのは、「他人は変えられないけど、自分は変えられる。自分が変われば、相手が変わる」と信じている。なので、あきらめない姿勢が大事だと思う。正しいことをし続けたら、誰かが見ているので、それをやり続けることが大事。

Q6)理念の一貫性はどのようにやってるのか?

(ライフルの羽田氏)

景気が悪い時も理念を優先させた。

(ヤッホーの井出氏)

売り上げが下がったとき、(ホラクラシ―を導入した)Zapposという会社を目指していた。「あんな会社を目指すぞ!」と言っていた。

Q7)課題は何ですか?

(ライフルの羽田氏)

理念を突き詰めると、「本当にいまの経営チームでいいのか?」という疑問が出てくる。当社は「世界最高のチームにしていこう」という目標があるので、このメンバーでなくてもいい。なので、リーダー全員で「プロフェッショナルとは?」ということについて日々話している。

(ヤッホーの井出氏)

「筋肉質ベンチャーになろう!」というのが今年のコンセプト。自分がスティーブ・ジョブスの「Think Different」というプレゼンがすごく気に入ったので、全社員に動画を見せている。


Q8) トップとして大事にしていること。

(ヤッホーの井出氏)

井の中の蛙にならないように、できるだけ外に出て刺激をもらうように心がけている。経営理念を信じて、実践することが大事。「自分が一番やる」として行動し続けること、あきらめないで伝え続けることが大事。

(ライフルの羽田氏)

社長が「社員の意見を聞こう」という。そのため、有志チームをつくって、会社を変化させたりしている。どこまでこだわって企業文化をつくって責任をもって磨いていくことが大事。100%ピュアなものが中心にあること、その周りは少しずつ色が違うかもしれない。「強制」じゃなくて「共感」。信じて任せていく。裏切られても、信じぬいていくこと。それが大事だと思っている。

(りょうちゃん感想)ライフルさんとヤッホー・ブルーイングさんはいずれも1997年創立、今年23年目。右肩上がりの売上げを連続記録し、「働きがいのある会社」や「Great Place To Work」にも選ばれた会社です。トップマネジメントが100%純粋に理念にこだわり続けること、企業理念や文化への共感を拡げるためのコミュニケーションの量と質、一貫性のある行動やあり方、理念を日常で実現する仕組み・構造を作ること、諦めないこと、目先の利益よりも理念ファーストのコンセプトを採用から小さな決断まで至るところで実践すること、成果が出るまで3年かかるのは一般的(ダメなら転職を考えた方がいい)が特に印象に残りました。実際にやってきた経営者の言葉は本当にインパクトがあり、どこでも誰でも取り入れることができそうなアイデアをいっぱい頂きました。

(会場で再会した熊平さん、コーチ仲間の小西さんと)


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