『ハケンアニメ!』辻村深月

天才アニメ監督・王子千晴(おうじちはる)を支えるプロデューサー有科香屋子(ありしなかやこ)、辣腕プロデューサー行城理(ゆきしろおさむ)と気鋭の監督・斎藤瞳、観光課職員・宗森周平とアニメーター(原画)・並澤和奈(なみさわかずな)の組みあわせで綴られる3章がぐるっと円環をなして閉じるアニメ制作讃歌。このクール、覇権をとるのは王子監督の魔法少女「運命戦線リデルライト」か斎藤監督の「サウンドバック」か。

小心者で表面的にはおとなしく、しかし内心リア充どもめ! と攻撃的な3章の並澤の心情と行動がなんとも言えず羞恥心をかきたて、もうやめてくださいと辛くなる。

もとい。

なんにしても苦労なくすらすらできる天才などいない。それぞれにコンプレックスと悩みを抱え、それでいてアニメ・仕事に(それぞれ角度は違いつつ)誇りと愛を惜しみなく注ぐ人たちがまぶしい群像劇。

個人的にアニメは大好きだし、ちょうどいま関わっている仕事がアニメ関連で、ちらほら挟まれる業界用語とサラッとした解説に上手いなあと唸ることしきり。

1章有科、2章斎藤で(作品の)対立構造をつくり、3章で三つ巴……でなく両方に関わる(といってもサウンドバック、サバクの進行で物語は綴られる)並澤を出すのが面白い。
むかし王子監督が「ヨスガ」と呼ばれるアニメで(社と協賛の意向により)全員を殺せなかったことが心残りと言ったこと。これを受けて9年後、斎藤が思ったとおりの結末──失ったものは取り戻せず、しかし選びとった決断は報われるを描きり、これを行城が支えたこと。対して王子監督が……。9年という長さが人を前に進ませて、その間に新しい才能も生まれて。時間の使いかたが好ましい。
ぼくは今から9年後、なにをして、なにをできているだろう? 「いま」を変えることは難しいといつもこの瞬間は感じる。けれど9年、10年先の未来を──その時点で後悔のないようにと考えると使える時間はたくさんあるし、そこに向けて少しずつでも積みあげて変えていきたいな、とも感じる。

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