仲野徹『こわいもの知らずの病理学講義』

9月6日木曜日、晴れ

月曜日から足掛け四日かけて読了。

4章だて。
後半2章で「癌」について自在に語るために前半2章はヒトの病気に関する基礎知識。

関西弁を織り交ぜて適度に脱線もしつつ軽妙に語っている ……はずなんだけれど、ずいぶん時間がかかった。やっぱり教科書的な部分は読んでいて眠苦なる。著者には申し訳ないけれど、数ページ読むごとに消し飛んでいた意識を自覚する為体。

知りたくないはずはない、とおもう。
おもう(おもいたい)のだけれど、引きずり込まれるほどではない。
羅列された知識は、その密度に比例して脳みそが取り込みを拒否する、そういう現象があるのではなかろうか。

む。

「あるのでは、なかろうか」って、面白いな。
あるのか、ないのか、どっちだ。
「あるのではあるまいか」と言い換えてもやっぱり妙だ。

* * *

(急性でない)癌は、10数年の時間をかけて DNA に5〜6の変異を蓄積し、体内の巧妙な防御システムをかいくぐって増殖する。
変異を蓄積できるほど長い寿命をもった細胞、つまり幹細胞が端緒となる。

付近の臓器に浸潤する能力も、リンパに乗って転移するのも、変異によって能力を獲得したからこそなしえる。だいたいがところ、正常な免疫系によって非自己と認識される。取り付き増殖を始める前にカタをつけられる。

小さな変異がごく小さく芽吹き、
免疫系の猛攻にさらされ耐えたものが残り、
長い時間をかけてわずかずつ変化を蓄積し、
あるとき堰を切って溢れ出す。

* * *

ディープラーニングに GAN という仕組みがあるけれど、なんというか、似ている。

GAN は偽の画像を生成するネットワークと、画像の真偽を検査するネットワークを組み合わせたモデル。
生成ネットワークは検査ネットワークを騙せるよう巧妙な画像を学習し、検査ネットワークはいかに巧妙な偽画像が来ようと見破れるよう、お互いに学習しあう。
学習を続けるあいだ、お互いが刺激しあって高度な偽画像を生成できるようになるというものだ。

癌も、免疫系を騙せるように10数年かけて学習を続けるわけだ。

* * *

短期的には、癌は生体の生命を奪ってしまう。

けれど、ひょっとすると癌に対抗するための共進化が起こり、この共進化こそが生物の進化を促してきた原動力だった、なんてこともありそう。

癌が望ましくないのはそれが死を運ぶから。
けれど数世代にわたって長期的に見たときに、より巧妙な手口に対抗しうる頑健さや複雑さを獲得する手段を、僕たちは医学によって捨て去ろうとしているのかもしれない。

わからないけど。

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