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「ご感想への返信2023」No.24

今回の講義を通して、セクシュアルマイノリティの方々は、世の中で生活しにくいだけでなく、病院への受診もしづらいために助かるはずの命が失われる割合が高いという事実を知った。このような人々のために何ができるのか具体的に考えても、それらを達成するためには多くのお金と時間がかかってしまうものばかりであり、すぐに解決することは難しい課題なのだと感じた。しかし施設の面からではなく、医療者がこのような方々に配慮することでより適切な医療を提供することができるのではないかとも思う。これは目に見えないものが多いため、本人らには伝わらずなかなか受診率を上げることは難しいとも思った。

学生の感想から

 授業の振り返りとして、皆さんから出たアイディアは「問診票に関するもの」また「医療者からの積極的なアクション」「医療者と患者に対する啓発」という範囲に留まっていた。私もそれらを即時対応できる対策として評価したし、「できること」に目が向いていたのではなかったっけ。その実感からは、「達成するためには多くのお金と時間がかかってしまうものばかりであり、すぐに解決することは難しい」と感想にあるのが不思議です。

「多くのお金と時間がかかってしまう」対策ってどんなもの?

 あなたの中で却下されたアイディアにはどういうものがあったのだろう。もしかしてトイレやシャワーという水回り? 皆さんはもちろん外来病棟も実習で見ているけれども、トランスジェンダー患者の視点で見ていない。実際には多くの病院では男女別ではないトイレがある(ただしジェンダーレス目的ではなく車イスでの利用や介助者同行のため)。職員用のトイレも。むしろ町の小さなクリニックでは男女共用のトイレであるケースも多い。入院病棟の浴室は時間割で利用される方式が多いだろう。医療スタッフの理解があれば、必ずしも充分とは言えなくともトランスジェンダー患者が納得できる設備は「既にある」と言えるかもしれない。トランスジェンダー患者と医療者に信頼関係が構築できれば、「多くのお金と時間」をかけなくても達成できる事柄はある。現時点では性的少数者の多くはニーズを話す前に諦める。医療者が先回りして諦めてしまっては、始まるものも始まらない。

 皆さんには将来的に病院づくりをしてほしいので、発案についてどれだけコストがかかることなのか考える習慣をもってほしい。だから例えば水回りの改修を考えたのであれば、それは講師として嬉しい。講義中にぜひどんなアイディアが浮かんでいたのか(自分で考えて諦める前に)発言して欲しかった。私は医療者ではないけれども、トランスジェンダーたちがどうやって既存の社会で、決して特別なものを望まず、順応しようとしてきたか知っている。もちろん病院はその中でも高いハードルで在り続けていて前進することが必要だけれども、要請は決して非常識なものじゃない。そのことを伝えるために私がいたのであって、あなたが諦めるべきことなんて何ひとつなかったのかもしれない。

意識は「目に見える」/気持ちは「伝わるもの」

 あなたは医療者の意識について、「これは目に見えないものが多いため、本人らには伝わらずなかなか受診率を上げることは難しい」と書きました。実際には、従来の医療者の意識は目に見えるもので、患者に伝わり、受診率に響いていた。あきらめが患者の心を覆っていたのです。

 私が、私の本名は音で聞くと女性名にも聞こえて、だから病院でよく「他人の保険証を不正利用している」と疑われることを話したのを覚えていますか。私はトランス女性が病院の受付で経験する「警戒/敵意/侮蔑」を自分の体験としても知っている。そういう時、医療事務の女性職員が何をするか分かりますか。普段は奥にいて出て来ない男性職員を呼ぶんです。そして男性職員に睨みつけさせる。保険証には性別が記載されているのに、彼らは怒りで冷静さを失う。患者は受付でも薬局でもそうした義憤に対峙している。そのすべてが患者にとっては病院にまつわる体験であり、受療控えになる。治療の中断につながる。

 おそらく皆さんは犯罪者扱いしてくる視線に耐える経験ができません。同化できないし共感には限界がある。だから、この個別的な状況を理解して下さい。性別のマーカーを探す目つきで、額、首、手、服をジロジロ見られる。猜疑心を隠さないその視線。憎悪も反感も、ちゃんと伝わっています。気持ちは伝わるんです。

 伝えたい気持ちが別のものなら、そちらが伝わるようにすればいいのではないでしょうか。気持ちは見えるんです。気持ちが見えるように努力している医療者はいます。受付にレインボーフラッグを立てたり、スタッフがレインボーカラーのバッジを付けたり。もちろん問診票の性別欄ひとつだって、サインです。「LGBT アライ 病院」などのワードで検索すると、取り組みを始めている病院が出てきます。下記 URL は、その一例です。

 香川医療生協看護ブログ
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 順天堂医院
順天堂医院の SOGI への取り組み







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