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「髙橋さん、今までのご飯の中で一番おいしかったです」

福祉サービスを提供する小さな事業所の支援者は、利用者への直接支援だけでなく、利用者の食事を作る仕事があります。利用している人は、食事を楽しみにしています。その人たちの食事を作るというのは、かなりハードルが高い仕事です。かつては、私も利用者の夕ご飯を作っていました。若いころは、勢いでもなんでもできました。

私の家族は、福祉サービス一家です。私と妻は、障害福祉サービスで働いています。大学生の長女と高校生の次女は、高齢者デイサービスでアルバイトをしています。自粛の夏、娘たちは思うように遊びにも行かれず、アルバイト三昧の毎日を送っています。娘たちの会話を聞いていて思い出したできごとがあります。

高齢者デイサービスでのご飯作り

高齢者デイサービスの仕事は、多岐におよんでいます。利用者への直接支援だけでなく、順番でご飯作りがあります。そのときは、15~16人のご飯を作ります。メニューは、配食業者が決めて食材を届けてくれます。ときどき、驚くようなメニューがあり、娘たちは困っています。

アルバイトを始めたころの娘たちは、あらかじめ提示されたメニューを見て大騒ぎをしていました。しかし、今ではまったく騒がなくなりました。娘たちにとってはいい勉強になっています。料理の勉強ができて、さらにお金がもらえるというのはお得です。

私も夕飯を作っていました

以前は、私もグループホームの夕ご飯を作っていました。私は、社会福祉法人の理事長をしています。10年ぐらい前に、男性用のグループホーム1棟と女性用のグループホーム1棟を向かい合わせに作りました。しかし、開所日になっても支援者が決まりませんでした。

グループホームは、建物を大家さんから引き渡されると家賃が発生します。支援者が決まっていなくても事業を始めなければいけません。そのため、理事長の私が男性用のホームに泊り、別の法人役員が女性用のホームの泊りをしていた時期がありました。そのころ、毎日、夕ご飯を作っていました。

私は、日中に事務仕事を行い、先に女性利用者を車に乗せてグループホームに行きました。グループホームでは、女性の支援者が入浴支援をしている間に、私が2棟分の夕ご飯を作るのが決まりでした。(朝ご飯は、女性の支援者が2棟分、作ってくれました。)

ご飯が炊けてない…

そんな生活が始まって、3ヶ月ぐらいしたときのことです。ご飯の水の量を間違えたらしく、ご飯の炊き方を失敗してしまいました。それに気がついたときには、すでに利用者も集まっていました。皆さん、お腹を空かせて待っていました。利用者の中には、空腹になると、泣き出してしまう人がいます。その利用者はすでに泣き始め、女性支援者が横に寄り添っていました。かなり危険な状態でした。

そこで私は、備蓄用のツナ缶とミックスベジタブルを使って、半生でかつべったりしているご飯を炒めました。リゾットができました。

私は、ごまかすのが上手です。普通の顔で「ごめんね、リゾット、お待たせしました。」と言いながら配膳をしました。利用者の皆さんは、和食より洋食の方が好きです。喜んでくれました。女性の支援者とは「これはヒヤリハットだね」と笑っていました。

「今日のご飯、今まで一番おいしかったです。」

食事が終わり、利用者がそれぞれの食器を台所まで運んでいるときのことです。一人の利用者が私のところに来て言いました。「髙橋さん、今日のご飯、今まで一番おいしかったです。」

翌日から、今まで以上にご飯作りのハードルが上がってしまいました。最近は、ご飯を作ってくれる調理専門のスタッフがいてくれるので、綱渡りのような毎日を送らずに済んでいます。

連続投稿1000日まで、あと41日


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