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熱、記憶の断片

それはとても暑く息苦しい船底
粗末な汚れたローブ

導かれそこへ来たと思った
暑い国をゆく船
苦難を喜びと変えよ!

(しかし暑くて苦しい

そう
私はこのままここで死ぬのだろう
この嫌な匂いのする
息苦しい場所で
何もかも
腐るように死ぬのだろう)




わたしは恋焦がれていた
ふるさとの
小さな可憐な花たちが咲く
きらめく光に満ちた
ひんやりとした春

小鳥たちがさえずり
虫たちも忙しそうに飛び回っている

ときおり山から吹き下ろす
冷たい空気が
春の陽に温められたけだるさを
一掃する


それは単なる断片だ



私は熱を出した

苦しい二日を過ぎ

熱の下がったひんやりした朝

満開の花桃を見ようと
窓ガラスへ近づいた

そのときあの男がそこに写っていた

(アーモンド型の目をして
うつろにそこにいる。

断片のまま)


窓を開けると


突然 春の命が
私を満たした。

私は驚いて
立ち尽くした

そして私は嗚咽した

あのアーモンド型の目をした男と
いっしょに

嗚咽した


わたしは
ふるさとへ帰ってきたのだ

そしてその瞬間
男の苦しみは癒やされた

霊の力が花を咲かせているのを
共に見たからだ。

わたしたちは
この時のないスペースに
存在しているのだ。



りょうこ

久しぶりの投稿
体調不良が見せてくれた
ちょっと不思議な物語でした。
記録しておきたくて。
読んでくださってありがとうございます。

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