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トルマリンの多様性

結晶としてのトルマリンの多様性について考えるとき、ダイヤモンドとは対極にあるその複雑な組成に目が眩む思いがする。昨年末からはじめた結晶講座はこの年末の第10回目で節目を迎えたように思う。最初の回はダイヤモンドから始めた。それはダイヤモンドこそがこの世で最もシンプルかつ硬い宝石で無色透明のその輝きは他の宝石たちの追随を許さない独走体制で突っ走る宝石のように見えるから。その構成元素は炭素のみ。4本の手が中心から伸びて隣の炭素と結合し、立方体の結晶を作っている。共有結合で繋がっているので結晶は硬く、ちょっとやそっとの外圧にはびくともしない最高に安定した結晶。時に衝撃で欠けたりクラックが入ることはある。それでも地球科学の分野での高圧実験には欠かせない実験器具のダイヤモンドアンビルセルに使われていらほどの硬さ。片方ずつが20万円ほどの直径4ミリほどの高品質のダイヤモンド、もちろん合成ダイヤモンドを2つ向かい合わせに並べて挟んで実験する。

これに対してトルマリンは、複数の元素が含まれていて、それらの比率も様々。それぞれに名前がつけられていて、好き勝手につけられたたくさんの名前にちょっと嫌気がさす。類似の結晶構造を持つ鉱物に対して付けられている名前は全てトルマリンだがその数39種類。化学式XY3Z6(T6O18)(BO3)3V3Wで表される複雑な組成を持つ。XにはCa Na Kといった元素が入る。以下省略するがXとかYのところにいろんな元素が入ってこのトルマリンという鉱物を形成している。この中で宝石として認識されているのはリシア電気石と呼ばれるトルマリン宝石で、無色のアクロアイト、青色のインディゴライト、別名ブルートルマリン、赤色から桃色のルベライト、そして緑色のヴェルデライトがある。いずれも美しい色と透明感がある。最近人気のあるウォーターメロンも呼ばれる真ん中が赤く周囲が緑色のスイカのような石もこのトルマリンに属している。やっとここまできたが、まだ石の紹介だけである。なんか疲れてきたでしょ。多様性の煩雑さよ。

宝石や結晶を扱うとき、結晶学者、特に物理や化学のバックグラウンドを持つ人はなるべくシンプルな物質を美しいと思うのだと思う。世界を表す数式にシンプルさを求め、複雑な式でしかその世界を表せない時本質的にその信憑性を疑う。天動説が世界を記述するのにものすごく複雑なモデルを立てたように、無理な数式化には疑わしさがある。地動説を採用すればシンプルだし、たとえ惑星や衛星の軌道が楕円軌道や振動を含んでいたとしてもずっとシンプルに世界を記述できる。

トルマリンのみならず鉱物全般に対して思いを馳せてみる。鉱物を研究対象にするなど思いもよらなかったが、その多様性や複雑さをなんらかの形で表現するとき、単純な式に情報を追加していく世界の拡張のような世界の俯瞰ができるようになる。

つづく。

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