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サンタクロースの正体は親だった事件

※この文章はサンタクロースの本質(ネタバレ)を含みます。ご注意ください。



1993年、サンタクロースの正体は親だった事件


1993年のクリスマスのこと。

ぼくは小学校4年生だったと思う。

「スカウター」という、当時流行っていたドラゴンボールZに出てくる戦闘力が測定できる装置のおもちゃをもらって大喜びしていた。


しかし。


ぼくは喜ぶと同時に、ある重大な事件を解決しようと決意していたのだった。

その事件というのは、だいたいの大人は全員が通ってきているであろう、俗にいう「サンタクロースの正体は親だった事件」である。



仲の良かった友人から有力なリーク情報を得ていたぼくは、サスペンスのクライマックスに崖にでてくる船橋栄一郎さんのような気分で、リビングにいた母に声をかけた。


「サンタクロースはおかあやら?」


その時、いたずらっ子のように、ニヤッと、笑ったおかあの顔を鮮明に覚えている。

今、その時の彼女の顔を例えるなら、ディズニー映画に出てくる「チェシャ猫」だ。何とも憎めない表情である。


「え?何のこと?」


と、間髪入れずシラを切るおかあ。


・・・・きた。想定どおりの返答がきた。

「公文いくもん」でおなじみの公文に通っていたので、当時のぼくは頭がめちゃくちゃ切れていたのだった。


エルが死ぬ間際の夜神月のような顔をして、ぼくはこう返答した。


「スカウターをお願いしたのはおかあだけだよ。サンタさんへの本当の手紙には、スーパーファミコンのゲームを書いたんだよ。」


おかあは少し動揺して、返答に詰まった。


よし。

勝った。


約束のネバーランドのノーマンばりの罠を用意していた当時の自分。天才。



観念したのか、諦めたような表情をしておかあは言った。


「バレたか」


その一言を聞いて、事件を解決した嬉しさなのか、サンタが虚像だった寂しさなのか、なんか不思議な気分になったのを覚えている。


おかあは続けて、


「じゃあもう来年からなしね」


と言った。

この一言は結構ショックだった。

これは多分、来年からプレゼントがもらえないという物質的な理由だったのだと思う。


これが自分史上に残る「サンタクロースは親だった事件」の一部始終である。




2020年、事件が二度目の解決


月日は流れ2020年。

私は2人の子供の親になった。

11月も残り少なくなり、近所の家はイルミネーションを飾りはじめ、お店にはクリスマスツリーがキラキラと光っている。


先日読んだエッセイ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」が最高だったので、著者である岸田奈美さんが主宰する読書フェスに参加をしてみた。


課題図書として「世界は贈与でできている 資本主義の「すきま」を埋める倫理学」という本を読んで、今この読書感想文を書いている。


この本を選んだ理由は、私が今福祉関係の仕事をしていることもあり、ボランティア活動に関する贈与について学びたいと思ったからだ。

感想文もそのことを書こうと思っていた。


しかし。


第4章「サンタクロースの正体」を読んで、ひっくりかえった。


27年前の「サンタクロースはおかあだった事件」のモヤモヤした感情を言語化してくれていたのだった!!!


僕らは「サンタクロースなどいない」と知った時に、子供であることをやめる。(本文より)


事件の真相がわかった時の寂しさは、「子供」であることが終わった寂しさだったんだ。


この一文を読んで、本当の意味で事件が解決した。


なんだか、針の穴に糸が通った時のように、すっきりした気分になった。



そのあとも、読み進めるごとにテンションは上がりっぱなしで、


なるほど、そういうことか!

著者は天才か!!

いや、そのあとの第5章ちょっと難しいぞ!!!

落合陽一さんとかたまに何言っているかわからなくなるし、難しいということはやはり天才か!!!!


と、いろんな感情を巻き起こしながら、一気に読み終えてしまった。



サンタクロースの本当の正体は?



本を読んだその夜。

子供たちの寝顔を見ながら、もう一度本の内容について考えてみた(起きていると憎たらしいことも多いけど、寝ている時は天使のように可愛いから冷静になる)。


ハッ、と気づいた。


自分も子供の時、こうやって暖かい目で見守られていたんだな、と。

自分の知らないところで、たくさんの愛情を注いでくれていたんだ、と。


もちろん、すでに知っている「贈与」はサンタクロースのことだけじゃない。

なけなしのお小遣いを削って、スーパーファミコンのソフト「SDザ・グレイトバトル」を買ってくれた。

辛い物も、お肉も、カレーも好きじゃないのに、私が大好きな牛肉入りジャワカレー(辛口)を毎週作ってくれてた。

自分の母親(私から見るとおばあちゃん)が死んだときも、私に心配かけまいと、隠れて大号泣していたのも知っている。


でも、今私が大きな愛情を持って子供達の寝姿を見守っているように、きっと知っていることの数倍、数十倍、数百倍も、私へたくさんの愛情を注いでくれていたのだ。

自分たちが辛い時だって、苦しい時だって、悲しい時だって。


そんなことを考えていたら、涙が出た。

過去に親が注いでくれた愛情を、ぼくはこの瞬間受け取ったのだった。


この本を読んで、学んだことがある。

今、感じている愛情は、全力で自分の子供達へ返すのだ。

おかあのように、うまくできないかもだけど。

不器用でもいい。

とにかく、やってみよう。


クサイセリフを言います。

サンタクロースの本当の正体は愛なんだぜ!!!!



それでもサンタクロースはやってくる


この間、わざと子供にわかるように、リビングの机上にトイザらスのチラシを置いて置いておいた。


比較的安めのおもちゃが載っているページを開いて。


そのチラシを再び見てみると、まんまと、そのページのリカちゃん人形(3000円税込)に丸がうってあるではないか。

私は再びエルが死ぬ間際の夜神月のような顔になった。


コロナウイルスなんかに負けず、今年もトナカイがひくソリに乗って、サンタクロースがやってくる。

さ、トイザらス行こ。





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