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たまには目的地のない旅を

船が到着した港はモンテネグロのコトル。世界遺産に登録されている街で、高台にある城壁から見下ろすコトル湾の景観は絶景と名高い場所である。街自体こじんまりとしており、他に目立った観光地もないので、ほとんどの人は城壁を目指す。

私自身もそこに行くのだろうなと思っていた。今回は10人弱のグループ行動。みんないい意味で適当なので、とりあえず行先は決めずに集まった。どこに行くかを話し合っていると、誰かが「みんな同じとこ行くから俺たちはちょっと遠くまで行こうぜ」と言い出した。

普段の一人旅や少人数だと、行先をしっかり決めて計画を立てることが多いのだが、今回は成り行きに任せてみることにした。そして決まった行先がブドヴァ。コトルから少し離れたリゾート地として有名な街だ。そうと決まればあとは早い。バスに乗り込みブドヴァを目指す。

無事に到着しビーチへと向かう。そこは確かにリゾートだった。レストランやお土産屋さんが所狭しと並び、バカンス中の欧米人が砂浜を埋め尽くしている。うん、確かにリゾート地だ。でも何か違う。悪くはないのだが、想像と違う。みんなそれを感じていたのだろう。

するとふいに近くのおじさんに話しかけられた。「ここは人が多くてうんざりだろ。ちょっと離れた街に穴場のビーチがあるよ」。スヴェティ・ステファンというらしい。リゾート地だがまだそこまで有名ではないらしく、日本のガイドブックには一切情報がなかった。

このおじさんを信じていいものだろうか。帰りの時間のこともあるし、またここから移動するのはリスクが高いのではないか。そんなことを話し合いながらも結局行くことに決めた。「地元の人が言うなら間違いないだろう。なんか面白そうだし」。さすがみんな適当なだけあって、迷ったら面白そうなほうを選ぶ。

そして、スヴェティ・ステファンでバスを降りて見えた景色が、トップに載せた写真だ。海の上にぽっかりと浮かぶ陸続きの小さな島。森の中にオレンジ色の屋根をした建物が並ぶ様は、おとぎの国に迷い込んだかの錯覚を覚えた。みんなしてこの景色に魅了され、おじさんを信じて来たかいがあったっと喜び合った。

ここはモンテネグロの「モン・サン・ミッシェル」と呼ばれているらしい。言われてみればちょっと似ている。ここからビーチに下りた。おじさんが言った通り人は少なく、小さいながらもブドヴァより綺麗なビーチだった。少し無理してでも本当に来てよかった。

ひとりではここまで来ることは絶対なかった。いつもはわりと計画を立てて、行きたい場所を効率よく周る旅をするほうが好きなのだが、たまには今回みたいに成り行きに任せて、偶然を楽しむ旅もいいものだと思った。


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