労働力人口を調べてわかったこと。「高齢者に働いてもらう策は詰んでいた」ということ。

今回は、労働力人口の話です。
こないだ人手不足のネットニュース記事を読んでいたら、そのコメント欄に「労働力人口は増え続けているから、人手不足は間違っている」という意見がありました。

人手不足は間違いないのですが、労働力人口の件は自分も真偽がわかっていなかったので、確認してみました。そしたら、いろいろとわかってきたので、その内容をまとめてみました。

労働力人口って何? 増えてるのは本当?

労働力人口とは総務省が毎年調査している数字です。15歳以上の人口のうち、働いている人、働こうとハローワークなどに登録して職を探している人の数を指します。ちなみに、15歳以上の人口のうち、労働力人口の割合を、労働力人口率という数字でこちらも総務省が発表しています。

この数字、確かに増えていました。
正確に言うと、2019年まで増え続け、2020年、2021年はコロナの影響から増減し、2022年から減少が始まりました。

人手不足は嘘なの?

結論から言えば、人手不足は本当です。

つまり、「労働力人口は2019年まで増え続け、騙しだましやってきたが、2022年に労働力人口がついに減少をはじめ、くすぶっていた人手不足の状態が一気に顕在化し、すごいことになった」というのが実態です。

簡単にこれまでの流れを以下にまとめました。

①1995年に15才から64才までの「生産労働人口」がピークを迎え、その後減少し始めた。

②政府はそれによって労働力不足が起きることを避けるため、女性の就労促進(産休、育休の取得促進)、高齢者雇用の義務化(60才~65才まで雇用促進、後に義務化)を実施した。

③そのため、1995年から2000年くらいを境に、女性と高齢者の労働者が増えた。結果、2000年くらいから2019年まで労働力人口は増え続けた。

④それまでフルタイムで残業や休日出勤もいとわない男性正社員の代わりに、女性や高齢者が社会に進出した。しかし、女性や高齢者は家庭の都合や、体力面や持病などの面から、同様に働くことができない人も多い。そのため、非正規雇用が拡大した。(ちょうど小泉政権時の派遣社員拡大と合わさり、派遣社員やパート社員が一気に増えた)

⑤その後、10年くらいかけて、生産人口は着実に減少し、しかし労働力人口は横ばいで推移した。つまり、2000年から2010年にかけて、働く人の数は変わらないものの、有期雇用の女性や高齢者の割合がどんどんと増えていった。

⑥2010年ごろにはリーマンショック、そして東日本大震災などもあり、経済が一旦冷え込んだため、この間、人手不足にはならなかった。

⑦しかし、2013年ごろから生産労働人口が一気に減少し、労働力人口は変わらないものの、さらに非正規の女性や高齢者の割合が増加した。そしてアベノミクスにより、経済が活発化した。その結果、フルタイムで柔軟に働ける正社員を企業は求め、人手不足が顕在化し始めた。その結果が、安倍首相が功績としてアピールしていた、全都道府県の求人倍率1倍越えの達成につながった。(日本全国で、求職者の数を求人数が上回った。理論上、働きたい人はみんな働けるということ)

⑧人手不足により、企業の働き方や採用は柔軟になり、環境が改善されたり、65才、70才を超えた高齢者も採用するようになった。
一つの結果として、2017年から5年間で引きこもりの若者が5万人減って、働く若者が5万人増えた。(総務省の調査から事実であり、大学教授などの有識者も論文に引用している)

⑨そのため2019年には労働力人口は過去最高値となった。

⑩しかし、2020年にコロナが発生。多くの人が離職した。
2019年から比べて、10万人の労働者が減少。2021年には5万人戻るが、2022年にはまた5万人減少した。2023年はさらに減少している見通し。

ということです。

つまり、どういうこと?

さて、皆さん着いてきていただいているでしょうか?
数字の面と、実態の面とで状況が異なるので、改めて簡単にまとめましょう。

①働く人の数が増えているのは本当。
②しかし、男性の正社員は人口減少で減っており、働く女性と高齢者が増えている。
③女性は正社員の方も増えているが、産休や育休、時短勤務の方も数字に含まれている。
④非正規雇用の方々の4割程度は週20時間未満の勤務。さらに全体の2割は週15時間未満。つまり週二日、週三日で働いている人が大勢いる状況。

これをカテゴライズするとこうなります。
正社員男性:どんどん減っている

正社員女性:増えていたが最近横ばいになった。さらに産休、育休取得者も入っているため、数字上より実際に働いている人は少ない。

学生アルバイト:人口減少、親元から通う学生が増えている、アルバイトを禁止する高校が増えていることから、どんどん減っているし、昔と比べて働く時間も減っている

女性パート:総数は変わらないが、20代、30代は減り、40代、50代が横ばい、60代以上が増えている。そのため、短い時間で働く人が増えており、実態としては人手不足。

男性パート:総数は増えていたが、2019年ごろをピークに横ばい。働く時間は女性パートよりは少し長いが、高齢者がほとんどのため、こちらも3割程度は短い時間で勤務。

つまり、正社員男性の減少を、短い時間で働きたい女性や高齢者で穴埋めしていたけど、限界が来たということですね。

これからどうなるの?

これらの影響を大きく受けているのが、飲食店や宿泊業ですね。
それまで、飲食店や宿泊業、小売業は、アルバイト、パートの方々に頼ってきました。しかし、先述の通り、パート、アルバイトは減っており、特にフリーターや苦学生のような、稼ぎたいアルバイトの人たちが顕著に減少しています。(正社員の求人が増えており、稼ぎたい人は正社員になっているため)

そのため企業は、高齢者や外国人を活用しました。ここ数年で、コンビニやファストフード店に外国人店員さんや高齢者のスタッフさんが増えましたよね。

でも、コロナや外国との人材獲得競争で外国人もなかなか来なくなりました。また高齢者の方の多くは、フリーターや学生さんほどにお金を稼ぐ必要はありません。

ひと昔前なら、「お前クビにするぞ!」と言って、かなり無茶な働かせ方をして、労働者が頑張ることで運営してきたわけです。
(筆者もカラオケ店で泣きそうになりながら働いこともあります)

しかし、お金にそんなに困ってない高齢者にそこまで言えませんし、言ったら彼らは辞めていくでしょう。
ましてや人手不足です。働き口はほかにもありますし、最悪の手段として、高齢者なら生活保護を求めることも、若者よりはハードルは低いです。

そのため、今後、こういった業種はお店を回すことすら大変になるでしょう。実際、ホテルが予約や清掃業務が回らず、部屋の稼働数を抑えたり。
飲食店がワンオペになって、席は空いてるのにお客さんを断ったりするケースが散見されるようになってきました。

これは都市部だけの話ではありません。地方でもアルバイトが確保できなくて、休業するお店が出てきています。

サービスを下げるお店と、価格を上げるお店に分かれる

さて、企業の経営側からすると、お店が開けない、席や部屋が空いてるのにお客さんを断るというのが一番良くないことです。

そうすると、どうするか。手段は二つです。
①サービスを低下して、今の少ない人数でお店を回す
(例えば、セルフ方式で注文を客が取りに行く、配膳を客が下げる。水などは自分で取りに行く。面倒なクレームは相手にせず、悪質なら即通報。トイレの掃除回数を減らす。ホテルなら連泊の部屋は毎日清掃しない、髪の毛が落ちているくらいは我慢してもらうなど)

②価格を上げて、時給を上げることで人手を確保し、今までのサービスを維持する。
今の大卒初任給が最低賃金の1.3倍ということなので、感覚的には今の価格から、2割から2.5割くらい引き上げると、人手を確保できると思います。

ちなみにおもしろいことに、吉野家の牛丼並盛が税込み450円。
ビッグマック単品が税込み450円です。

ビッグマックの価格は、ビッグマック指数として世界各国の物価水準の物差しになっています。そのビッグマックの値段と、吉野家の牛丼並盛が同じ値段です。
なので、日本のファストフードの平均的コストを考えると、450円が今までの適正価格だったのかもしれません。

これを引き上げると、550円~600円になります。このくらいの価格になると、アルバイトの時給が今よりも上がって、人手を確保できる給与になるのかもしれません。
(もちろんアルバイトの給与が上がれば、今度は正社員の給与が上がります。これがいわゆる「良いインフレ」です)

高齢者にもっと働いてもらえば解決しないの?

さぁ、今日の結論であり、最後です。
よく、もっと高齢者に働いてもらいましょう。働きやすくしましょう、という趣旨の報道を見ます。

結論から言うと、既に65歳以上の高齢者の多くが働いています。どのくらいかというと、

男性:65才以上の全男性のうち、65才~72才の男性人口とほぼ同数が働いている。
女性:65歳以上の全女性のうち、65才~69歳の女性人口とほぼ同数が働いている。

70歳以上になっても働いている人もいるので、こういう結果になりますが、つまり、「働きたい人」、「働かないと食べていけない人」のほとんどが既に働いているのです。

ちなみに今年、2023年に団塊の世代のすべての人たちが75歳以上になりま
す。つまり、これから働ける高齢者はどんどん少なくなっていきます。
(今の60代は、70代より人数が単純に少ないため)

なので、いま働いていない高齢者は、「働かなくてもお金に困ってない人」と、「病気や介護などで働きたくても働けない人」しか、もうほとんど残っていないということです。

まとめ

もうすでに人口の構造上、限界がきているということでした。
企業側は、経営の仕方、人の働かせ方を変えないといけないところまで来てしまったのです。

個人的には、一旦は価格を上げることで客離れは起きるでしょうが、結果としてサービスが円滑になることで生き残りを図れると思います。
どこが一抜けして、勝ち組になっていくか、一消費者として見守っていきたいと思います。

今後もこういった人事系の記事を掲載してまいります。
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