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〇〇と〇〇

「想像力と数百円」という新潮文庫のコピーがあった。
「新潮文庫の100冊」というキャンペーンのショルダーコピーで糸井重里が書いている。

このコピーは「想像力」という言葉と「数百円」という言葉を並べたところがすごいと思っている。「想像力」は人間の力である。「数百円」は人間がつかうお金の単位である。「想像力と数百円」というコピーはこのふたつの架け橋になる「文庫」という存在そのものを表している。「数百円」という小銭感覚の言い方もいいよね。たった数百円で人間のもつイメージを駆け巡らせる文庫本、自分も大好きです。

この「〇〇と〇〇」という構文、ちょっと考えるだけでいっぱいある。

ロミオとジュリエット
セーラー服と機関銃
高邁と偏見
罪と罰
牡丹と薔薇

最近この「〇〇と〇〇」シリーズのひとつ『存在と時間』(光文社古典新訳文庫)の解説を読んで、あんまり注目していなかった真ん中の「と」が実は重要なんだと気付いた。
本にはこう書いてあった。

本書は存在の意味を問う書物であり、その地平となる時間を考察する書物であるからこそ、「存在と時間」というタイトルが選ばれたのである。
(略)
このタイトルで「存在」と「時間」の二つの語を結びつけている「と」の位置に立つのは、私たち人間である現存在だと言えるだろう。

ざっくり言うと『存在と時間』という哲学書は「存在とは何か」という問いを追究していく本だ。その手段として時間について考えていく。
「存在」という言葉と「時間」という言葉をつなぐ「と」とは人間のことである!たった助詞ひとつにそんな意味を読みとることができるなんて。

それじゃあ「想像力と数百円」も「想像力」と「数百円」をつなぐ「と」とは人間のことなんじゃないかな。「想像力」は人間の力、「数百円」は人間が使う道具の価値。この二つを結びつけられるのは確かに人間しかいないよね。『罪と罰』だってそうだ。

オチは特にないけれど、「人間とは何かと何かを結びつけられる生き物である」ていう定義も面白いかもね。

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