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僕なりの著作権

音楽教室騒動

月1くらいで話題になりそして炎上するJASRAC。
もはやレギュラーイベントの様です。
それもかなりの集客力の(笑)。

数年前ヤマハやカワイなどの大手音楽教室から管理楽曲の使用料の徴収を始めるという時はかなりの大騒動になりました。その頃たまたま音楽教室に見学に行く機会があったのですがその徴収に反対するポスターが教室のあちこちに貼ってあって驚きました。

心情的には僕もほとんどの人の意見と同じで音楽教室から徴収するなんてちょっとやりすぎじゃない?って思います。生徒さんから直接徴収するわけではないにしろ。それにそこに結びつけた理由(下に書いてあります)も非常に理解に苦しみます。ただ、色々調べると大手音楽教室にも結構ずるいなと思うところもあります。なのでこの騒動に関しては個人的にはどっちもどっちという感覚です。

ネットではCD不況で徴収料が減ってきてるからとうとう音楽教室からも金をとるのか!なんていう風になっていますが、JASRACの使用料年間徴収額はそんなにこの10年変わってません。むしろ少し増えてますね。

勉強しました。

実は僕は音楽の著作権に関してこの5年間くらい勉強しています。なぜかと言うと僕のレーベルであり音楽家プロジェクトであるMusilogueの為に勉強しなくてはならなかったのです。Musilogueからリリースされる作品に関してはMusilogue自身でその著作権をコントロールしたかったので。そうなると言い出しっぺの僕がやるしかなかったのです。

幸いなことに著作権関係の超プロフェッショナル谷口元さん・林達也さんのお2人(現在一緒に音楽ビジネスのワークショップMusic&Moneyを行なっています。)と知り合う事が出来まして、一人で難しい本を読んで悶々するという事も無く比較的楽しく勉強してこれました。もちろん今も勉強中です。

JASRACとは

僕はJASRACの味方でも敵でもないのですが、あまりみなさんJASRACがどういう機関かはご存じないですよね??搾取ばかりする悪魔のような機関だと思われているかも(笑)なのでちょっと説明します。

僕ら著作者にとって自分の楽曲がどこかで使われた際、それが一体どこで使われたのかを自分自身で調べるという事はなかなか困難を極めます。
もしわかったとしてもわざわざそこに行って
「アナタはワタシの楽曲をいつどこでこういう理由でこれだけ使ったので何円の使用料を徴収させてもらいます。」なんて事はなかなか出来ません。
そういった管理業務を代行してくれるのがJASRACです。

当然そこには著作者/著作権者とJASRACとの契約があります。
「僕の楽曲がどこかで何かに使われたら使用料を僕の代わりに徴収してきてくださいね。」という著作権信託契約という契約を結びます。なのでこういった契約をJASRACと結んでいない楽曲はJASRACによる徴収の対象になりません。そして実際にそういった楽曲は存在します。実際には著作隣接権というJASRACが管理する著作権とは別の権利が楽曲には含まれているので、もしそういった楽曲を使われる場合は全ての権利がフリーかどうかはよく確認する事をお勧めいたします。

様々な権利

JASRACに預ける著作権はその中で幾つかに分かれています。

演奏権、録音権、貸与権、出版権、映画への録音、ビデオプログラムへの録音、ゲームソフトへの録音、コマーシャル送信用録音、放送・有線放送、インタラクティブ配信、業務用通信カラオケ、

著作者はこの中のどの権利をJASRACに預けるかを、一定の条件つきではありますが(https://www.jasrac.or.jp/contract/trust/explan2.html)現在は選べます。世界中、日本国内だけ、海外のみ、といった感じで管理エリアを選ぶ事もできます。一昔前は出来なかったようですが。(預ける権利を自分で自由に選べるのは音楽出版社が絡んでいない場合です。)
Nextoneの様な新たなJASRAC以外の著作権管理団体もあるので『〜権』はJASRAC、『〜権』は別団体、といった感じで分けて預ける事も出来ます。僕はこんな話をする為に一時期かなり頻繁にJASRACに通っていました。

音楽教室の件で「楽譜を購入した時点で既に使用料払っているのではないの?2重に払うの?」という意見を見かけた事があります。楽譜は上に書いた『出版権』という権利に関わってくる事なので『演奏権』とは別の話になり2重の徴収という意味合いとは異なってきます。加えて言うと、楽譜の購入者が『出版権』を払っているわけではなく、楽譜を製作する人が『出版権』に関わる著作権使用料をJASRACに支払っています。

音楽出版社

音楽出版社と言うのは基本的には大手のレコード会社やテレビ局や大手芸能事務所ならほぼ必ず持っている会社です。あなたの音楽がもっと色々な所で使われる様にお手伝いしますので私達に著作権の管理を委ねてください。そして作家への使用料の分配の責任を持ちます、というのが音楽出版社です。この場合著作者とJASRACが契約を結ぶのではなく、著作者はJASRACと契約を結んでいる出版社と契約を結びます。

ちなみに大体のアーティストさんや作曲家・作詞家さんはこういった順で契約しています。

JASRAC
⬆︎
音楽出版社
⬆︎
著作者

その場合こういった順で使用料が分配されます。

JASRAC
⬇︎
音楽出版社
⬇︎
著作者

僕は自分の体験からこのシステムに少し疑問を抱く事もあったのでMusilogueで自社の音楽出版社を作りMusilogue出版がJASRACと契約をしました。なので僕は実は音楽出版社の社長でもあるのです。自分でも驚きです。出版社云々の話は内容がだいぶ複雑になるので、知りたい方は音楽ビジネスのワークショップMusic&Moneyにぜひ来てください。

契約の重要性

契約先がJASRACであろうが出版社であろうが、基本的には大体の人が上記の色々ある権利を全種類預けています。僕も数年前まではここら辺の仕組みを全く知らなかったので当然全預けです。ただ決してこの"全預け"が悪いという事ではないです。知れば知るほど凄くよく出来たシステムだなと思います。

残念なことに音楽業界で仕事を始めたからと言ってこの著作権に関して誰かが教えてくれるという事はほぼないです。僕に関して言うと、20歳そこそこでデビューして、ある時その当時の所属事務所からこれにサインしといてって言われよくわからずサインをしました。それが何の契約書か、誰との契約かもよく理解しないまま。それが著作権に関しての出版社との契約書でした。そしてその契約先の出版社の人と会う事もないので本当によくわからないままでした。極端な事を言うと、いわゆる印税というものが一体どこから払われているのかもよくわかっていませんでした。生涯にわたり自分の楽曲管理の一番重要な肝となってくる部分が実は一番適当でした。ここは今一番後悔している所でもあります。

著作者がJASRACにお願いしている

JASRACは管理楽曲が上記の『〜権』に関わる使われ方をした場合、契約に従いそこへ徴収しに行かなければならないのです。
言い方を変えると我々著作者がJASRACにお願いしているわけです。
「私は音楽強室やダンス教室から徴収してくれなんて頼んでないです!」
と言っても権利を預けている以上それは知らないうちにJASRACに頼んでいるのと同じ事なのです。だから本当は著作者やアーティストは著作権に関してはすごく勉強した方が良いのです。特に現状のシステムに異を唱えたいのなら。そうしないと自分は表では綺麗事を言っているけれど裏ではJASRACからしっかり徴収してもらっていると言う事になってしまいます。

ここら辺の事はJASRACに行くとすごく丁寧に細かく教えてくれますよ。
悪魔の様な人はいません、多分(笑)。

演奏権とは?公衆とは?

音楽教室の騒動のポイントは『演奏権』そして『公衆』でした。
著作権法第22条にこういう文言があります。

著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。

自身の楽曲を『公衆に直接聞かせる事を目的とし演奏をする権利』を作曲家や作詞家、いわゆる著作者が持っています。例えば、僕の楽曲『SAMURAI』を『公衆』に聞かせるのを目的とし演奏する権利は僕だけが持っているということです。これを『演奏権』と言います。そして『SAMURAI 』はJASRAC管理楽曲なので誰でも公衆に聞かせる目的で演奏した場合はその行為に対して『演奏権』に関わる使用料が発生します。ここで面白いと言うか全く納得いかないと言うか、この使用料が実は僕にも発生するのです。なので僕が自分の楽曲(ほぼ全てJASRAC管理楽曲です。)を公衆に聞かせる目的で演奏しても使用料が発生してしまうのです。なのでLiveを行う度に使用料が発生するのです。

『公衆』の解釈に関しては以前知人の弁護士さんに聞いた事があるのですが、僕は法律の専門家ではないので難しくて「う〜ん、、よくわからん。」というのが正直なところです。

学校は徴収対象外

ここまで読んで、何故いわゆる通常の学校(小・中・高・大etc.)での音楽の授業は徴収対象じゃないんだろう?と疑問を抱く方もいるかもしれませんね。これはJASRACは(何もかもというわけではありませんが)学校からは徴収しないと決めているからです。では音楽教室は?学校から徴収しないならなぜ大手音楽教室からは徴収するのか?となりますよね。
これは大手音楽教室が学校ではないからです。ここで言う学校は国が定めた学校の事を言います。音楽教室は音楽教育ではありますが営利を目的とした事業なので学校ではないのです。(個人音楽教室は当面除外。)
ここら辺は音楽教室問題が勃発した際にJASRACはきちんと説明した方が良かった気がします。もしそうしていたらあそこまで一方的に悪者にならなかったのではないかなと。

ザックリしすぎ

個人的にはこの音楽教室の問題点はJASRACの”著作権料を年間受講料収入の2.5%とする案”だと思ってます。これがザックリしすぎなんです。
これは一体何の楽曲に対しての徴収なのか?と疑問に思います。

ただ、このザックリ感を無くすためには、各先生がどの楽曲をどの位の回数どのくらいの時間レッスンをして、そんな報告を毎月のようにするしか解消方法が現状ではないのかなと思います。レッスンで使う楽曲の中には徴収対象外に当たるいわゆる"著作権切れ"と言われる楽曲達もあると思うので、どれが徴収対象、どれが対象外という判断をそれぞれの先生がやっていくのはかなりの負担ではないかなと思います。なにせ1番よくレッスンで使われるようなクラシックの楽曲は著作権切れになっているものがほとんどですからね。きっと最近のポップス等の著作権が切れていない楽曲に対してという事なのでしょうね。

もしくは大手音楽教室はもっとシステム化してどのレッスンでも使う楽曲を毎月決めてどの教室でもそれしか教えないようにするか。そうすればまとめて使用楽曲を報告出来るのでその使った楽曲に対して使用料を払うというのはルール上は納得できます。ただ、システム化されすぎた音楽教育なんてはたして意味があるのかどうか。集団レッスンなどではある程度は良いかも知れませんが、個人レッスンのように一人一人に合わせて進めて行くタイプのものでは実際問題難しいのではないでしょうか。

お手本?コンサート?

そもそもこの件のポイントは、音楽教室でのレッスンにおける先生のお手本演奏がいわゆるコンサートと同じような『公衆』に聞かせる事を目的とした演奏という扱いになるのかどうか、そして生徒は果たして『公衆』なのか?そこですよね。僕はそれはコンサートの演奏とは全く異なると思います。もちろんステージ上ばりの演奏を見せてくれる先生も中にはいるとは思います。でもたとえそれが素晴らしい演奏だったとしてもそれはあくまで生徒さん達に対してのお手本なわけで、僕はレッスン・指導の範疇なのではと思います。

『演奏権』を預けないと

音楽教室の件で触れた『演奏権』に関して、もし音楽教室で使われた楽曲をJASRACが1曲ずつ調べて使用者に請求するならば、これはその著作者との契約上の事なので現状は仕方ないのかなと個人的には思います。非常にドライな捉え方ではありますが。そうでないと契約不履行になってしまうので。

ここまで読んでくれて鋭い方なら著作者が『演奏権』を預けなければ良いのでは?と思われる方もいるかと思います。しかし『演奏権』は決して音楽教室の為だけにある権利ではなく、放送で使われたり配信で使われたり、そしてカラオケで歌われたりした際にも関係してくる権利なのです。演奏と言う言葉を使っているので少しわかりづらいのですが。
なのでもし『演奏権』をJASRACに預けていない場合は、楽曲が放送や配信やカラオケで使われた際にJASRACがその『演奏権』使用料を徴収するという事がなくなります。その代わり「音楽教室から徴収するな!」とJASRACに対し堂々と言う事も出来ます。

音楽文化の成長

音楽は誰もが楽しめるある意味自由な状態であるべきだし、ただそれだけでは音楽を生業としている人は生きていけないし、そうなるとやはり著作権管理団体は絶対に必要だし。僕は基本どちらかというと感情論タイプの人間なので音楽教室の問題は『え!ナニ、それひどい!』と最初はなりましたが、著作権の問題は感情論だけでは解決できない中々難しい問題だなと思っています。

楽曲の作り手やミュージシャンはどちらかと言うと商売下手な人の方が多いように思います。僕曲作れます、私楽器できます、だけでは音楽ビジネスにはなりません。だからこそ、そこをきちんとマネタイズしてくれる人やシステムが重要だと思っています。音楽ビジネス関連の会合やワークショップが度々開かれていますが、リアルな現場の人間不在だなと思うものも見かけます。実際に活躍しているアーティストや作曲家・作詞家の皆さんもそういった場に出て行きどんどん発言していった方が良いと思います。
それが音楽文化の成長につながると僕は思っています。

なんにせよ、音楽教室の問題はこれからの音楽文化にプラスになる結果が出る事を望みます。

Music&Money

ここまで読んでいただいてありがとうございました!
僕はアーティストサイドからの目線での著作権の話なので偏っているところも多々あるかも知れません。なのでコピペはオススメしません。
さて、数回名前が出てきましたが音楽ビジネスのワークショップMusic&Moneyのお知らせです!10月30日に開催です。
全く堅苦しくない楽しい会ですので、著作権の事や音楽ビジネスの事に関して詳しく知りたいという方は是非いらしてください。
2019年開催分は今回で最後となります。
"音楽の仕事で生きる!"とタイトルにある通り現場で役立つ様な事を話していきます。もちろんどなたでも参加できます。

イベントの詳細はこちらに書いてありますのでこちらをお読みください。

よろしくお願いします!

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