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3分でわかるイプシロン

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イプシロンロケットは、日本のロケットメーカーIHIエアロスペースが開発・製造するロケットです。
2006年に廃止されたM-Vロケットの後継機として、鹿児島県にある内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられています。

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出典:JAXAウェブサイト「イプシロンロケット」

イプシロンという名前は「Evolution & Excellence」、「Exploration」、「Education」に由来し、Λ(ラムダ)、M(ミュー)ロケットという日本の固体ロケット技術を受け継いでいくという意味も込められています。

そんなイプシロンは、①固体ロケット②小型③革新性という特徴を持ちます。

伝統ある固体燃料ロケット

イプシロンの特徴の一つは、固体ロケットであるということです。
これは、固体の燃料(液体合成ゴムなど)と酸化剤(過塩素酸アンモニウムなど)でできた推進剤を使用したロケットをいいます。
他方、液体の燃料(液体水素など)と酸化剤(液体酸素など)を使用したロケットを液体ロケットといいます。例えば、後述の国産ロケットH-ⅡBのメインエンジンや、スペースX社のファルコン9のエンジンがこれにあたります。

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出典:JAXAウェブサイト「宇宙情報センター」

固体ロケットは構造がシンプルで、取扱いも容易というメリットがありますが、点火した後は飛んでいくだけなので再点火はできず(巨大なロケット花火のイメージ)、精密な軌道投入がしにくいというデメリットがあります。
他方、液体ロケットは推力を調整でき、精密な軌道投入が可能となりますが、取扱いが難しい(例えば液体水素の温度は-253℃、複雑な構造のエンジン)というデメリットがあります。

固体ロケットの歴史は深く、日本のロケット開発の父糸川英夫教授が1954年に開発を開始したペンシルロケットに遡ります。
その後、Λロケット、Mロケットを通じて、固体ロケットの研究・研究が続けられてきました。イプシロンは、その伝統を受け継ぐ国産ロケットというわけです。

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M-Ⅴロケット(出典:JAXAウェブサイト「M-Ⅴロケット」)
M-5ロケットは、2010年に帰還した小惑星探査機はやぶさの打上げに使用されました。

なお、イプシロンは、液体燃料エンジンを併用することもでき、軌道投入の精度を向上させることもできます。

【M-Ⅴロケットの課題と廃止】
M-Vロケットは、固体ロケットの研究と衛星の打上げのために宇宙科学研究所(ISAS、現JAXA宇宙科学研究所)によって開発された固体ロケットです。
打上げに約80億円、製造期間が約3年必要とされ、より安価な小型ロケットの開発と日本の固体ロケット技術の維持のため、2006年7月に廃止されました。

小型衛星打上げニーズに応える小型ロケット

イプシロンのもう一つの特徴は、小型であるということです。
全長26m、直径2.6m、重量96tで、同じ日本のロケットであるH-ⅡBが全長56.6m、直径(第1段)5.2m、重量531tであるのと比べると、遥かに小型であることがわかります。

低軌道(約200〜500km、LEO)までは1500kg、太陽同期軌道(約600〜900km、SSO)までは590kgの輸送が可能です。
H-ⅡBや他のロケットに載せるには小さい、あるいはコストが見合わない小型衛星の打上げ機会を拡大させる役割を担います。

革新的なシステムの導入

3つ目の特徴は、少ないリソースで点検や管制を行うことを可能としたシステムです。打上げ前の機器の点検は、人工知能を活用し、ロケットが自分で行います。

また、理屈上は世界中のどこからでもネットワークにアクセスして管制が可能とされ、「射場に依存しない究極の管制システム」(JAXA)といわれています。
まさに「伝統を受け継ぎ、革新を続ける」ロケットといえるでしょう。

4回の打上げ実績

イプシロンは、これまで全4回の打上げで活躍しました。

試験機
まず、2013年9月14日、惑星宇宙望遠鏡「ひさき」が打上げで試験機が使用されました。

世界初となる惑星観測のための宇宙望遠鏡「ひさき」は、太陽風が木星へ及ぼす影響などを観測しています。

2号機
2016年12月20日には、2号機がジオスペース探査衛星「あらせ」の打上げに使用されています。

ジオスペースとは、地球近傍の宇宙空間をいいます。
そこには、高エネルギーの粒子が多く含まれる放射線帯(ヴァン・アレン帯)があるとされ、「あらせ」は、この高エネルギーがどのように発生しているのか、太陽風に起因する宇宙嵐がどのように発生するのかを解明することをミッションとしています。

3号機
2018年1月18日には、高性能小型レーダーを搭載した衛星「ASNARO-2」が3号機によって打ち上げられています。

この衛星は、高い解像度で地球を観測することができるいわゆるリモートセンシング衛星です。

4号機
そして2019年1月18日には、4号機が打ち上げられていますが、その際に行われたのが革新的衛星技術実証です。
これは、公募で選ばれたテーマを軌道上で実証する実験のようなものです(後述)。

このとき、同時に複数のキューブサット(超小型衛星)も搭載されており、その中には、人工流れ星を創り出す超小型衛星も含まれています。
イプシロンは、宇宙エンターテイメントの創出にも貢献しているといえるでしょう。

宇宙基本計画上の位置付けーH3とのシナジーへ

宇宙基本計画工程表によると、イプシロンは「公募型小型計画」、「革新的衛星技術実証」に活用されるとされています。

【公募型小型】
イプシロンを使用した科学衛星・探査機プロジェクトで、総経費の中で JAXA として支出する総資金の合計が 150 億円以下のもの。
【革新的衛星技術実証】
超小型衛星を活用して、基本的な部品・技術の実証を行うプログラムで、チャレンジングかつハイリスクな衛星技術/ミッションの開発・実証することでイノベーション創出の機会が得られます。

また、2020年以降は、H-ⅡA/BからH3ロケットへの移行をスムーズに行うため、H3ロケットとのシナジー対応を進めるとされています。
具体的には、H3ロケットの固体ロケットブースターとイプシロンの第1段を共通化し、また、イプシロンの第2段で開発した技術をH3ロケットに適用するというものです。
これにより、開発の効率化やコスト減が期待されます。

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出典:宇宙基本計画工程表(令和元年度改訂)

まとめ

このように、伝統を受け継ぎつつも革新を続ける多才なイプシロンですが、小型衛星打上げニーズが高まる昨今、どのような成果を残していくのか注目です。

マンガ「Evolutionary idol !!」

冒頭のマンガを作成いただいたのは、昭和が生んだ天才美少女漫画家あんじゅ先生が運営するオンラインサロン「あんマンサロン」に所属するぽっくすさんです。いつもありがとうございます!

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前述のとおり、イプシロンは、固体ロケット、小型、革新性という特徴を持ち、今回の記事ではこの3つに焦点を当てて取り上げました。

これをキャラクターとして性格づけるならば、小型ながらも勢いよく飛んでいく固体ロケットは元気の象徴、革新性や実証プログラムでのエンターテイメント要素はアイドル気質ということができるでしょう。デザインでは、これらの要素を見事に再現していただきました。

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また、宇宙基本計画にも記載のある、H3とのシナジーも見逃せません。
H3のサイドブースターとイプシロンの第1段を「共有」し、いわば同じステージに立たせることによって生まれる新たな価値は、日本の宇宙業界にどのような影響を与えるのでしょうか?実際に共演される日を楽しみに待ちましょう。

参考:
・Epsilon Launch Vehicleユーザーズマニュアル JAXA
・基幹ロケットの取組状況 JAXA
https://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-kiban/kiban-dai46/pdf/siryou3-1-1.pdf
・宇宙基本計画工程表
・イプシロンロケット JAXA
http://www.jaxa.jp/projects/rockets/epsilon/pdf/rocket07.pdf
・第36回科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会 イプシロンロケットH3ロケットとのシナジー対応開発の検討状況 JAXA
http://www.jaxa.jp/press/2017/07/files/20170704_epsilon_j.pdf

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