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執念(小説)

ケンタは近頃、嫌な夢ばかり見た。

そこから逃れるように、毎日ケンタは精力的に動いた。
夢に、喰われるような気がしたからである。

そうして動いていると、果たして良い事はいくつもあった。
お金が稼げた。彼女ができた。

それでも何となく心は満たされなかった。
嫌な夢も、相変わらず見た。

ある夜、夢の中に老人が出てきた。
老人は、
「よく頑張ったな。褒美をあげよう。」
そう言った。
「家の軒下の地面を、掘ってみよ。これまでの、報いじゃ。」
そこまで聞いたところで、ケンタは目を覚ました。

ケンタは、老人の言ったことを無視した。
すぐに荷物をまとめて、引っ越した。
彼女と、暮らし始めた。

お金は無かったが、工夫して暮らした。
新しい住居。新しい生活。
発見がたくさんあった。
ケンタはこれまでと同じように精力的に動いた。夜になると、疲れてすぐに寝た。
じきに、夢は見なくなった。いや、見ても、すぐに忘れるのだろう。

それでもたまに、ケンタは気になる夢を見た。
しかしそんな日も、彼は雀の鳴き声を聞き、朝の仕事に取りかかるのだった。

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