拡がる世界
少人数で暮らす平和な村があった。
ある日、その村に流れ者がたどり着いた。
その流れ者は、村人を見ると、突然怒り出し、「右手を使うな!」と叫びだした。
不思議に思った村人達も、流れ者が、落ち着くのであればと思い、みんなで右手を使うのを辞めてみることにした。
安心した流れ者ではあったが、その後も村人が、右手を使っているのを見ては、鬼の様に叫び出す。
しまいには、右手を使う村人に、暴力をふるい出すようになった。
平和に暮らしていた村人達はすっかり困惑してしまった。
しかし、荒れ狂う流れ者の姿に恐れを感じ、お互いに右手を使うことにを気をつける様になっていった。
ある村人は特に目を付けられ、良く殴られるようになった。
けれど自分だけが流れ者に見つかり、殴られる事に耐えられなくなり、他の村人が右手を使っていることを、流れ者に伝えるようになっていった。
その報告に気を良くした流れ者は、その村人に、他の村人を取り締まる権限を与え、だんだん、その村人を優遇するようになって行った。
ある時、山の向こうに、同じように、平和に暮らす少人数の村があることを、流れ者が耳にした。
流れ者は、取り締まる役目をしていた村人に、その村も、同じように取り締まるように命じた。
山を越え、その村にたどり着いた村人は、両手を使っている村人を見るや、怒りが湧いてきて、喚きちらす。「右手を使うな!」
平和な村人達は、その姿に困惑してしまったが、その姿を見て、きっと何か辛い経験があったのだろうと可哀想に思い、その旅人が落ち着くのであればと思い、右手を使うのを辞めてみる事にした。
それに気を良くし、安心した、隣村から来た村人も、流れ者の様に、右手を使う村人を見ては、怒り狂う様になり、終いには、流れ者同様、暴力を振るう様になって行った。
そんな旅人の姿を心配した村の人々は、何故右手を使ってはいけないのか?そんな風に暴力を振るうのか?旅人に尋ねてみた。
村人の優しい目線に囲まれ、見守れて、落ち着いた旅人は、自分の村で起こった出来事を村人達に伝えだした。
伝えながら、自分が恐れから、混乱してしまい、自分で何をしているか、わからなくなってしまっていた事を村人に伝え、赦しを請いた。
混乱が解け、晴れやかな顔をした旅人は、笑顔で、その村を後にした。
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