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映し合う世界

あるところにネズミの兄弟がいた

ネズミの両親は、ある時、人間に捕まってしまい、籠に入れられ、連れ去られてしまった。

難を逃れた兄弟は、支えあってなんとか暮らしていたが、生まれたばかりの弟は、未だ外の世界を良く知らず兄に頼る一方。

兄も、弟よりは早く生まれてはいたが、まだ世界を良く知っているわけでもなく。弟の為に、頑張ってはいたが、内心、頼れる相手がおらず、精一杯な部分があった。

そんな生活が続く中、兄は、次第に外の世界で、仲間を見つけ、その仲間と暮らす時間が増えて行った。

そんな兄に対して、臆病で、外に出るのを怖がる弟は、家で兄の帰りを寂しく待つことが多かった。

次第に、兄は、外の世界の交流が生活の中心となり

弟は、兄が帰って来て、心安らぐ時間が、生活の中心となって行った。

ある時、弟のネズミが何日待っても、何日待っても、兄のネズミが帰ってこない日々が続いた。

兄はどうしたのだろう?不安な思いが湧いて来た。

人間に捕まってしまったのか?
僕は見捨てられてしまったのか?
僕はどうしたら良いのだろう?

そんな不安な日々が続いた。

暗い小さな家で、一人で怯える日々。

怖さと恐怖で押しつぶされそうになる中、救いは、兄と過ごした、楽しい、平安な日々の思い出。

怖い、怖い、どうしたら良いのだろう。

不安な思いに飲み込まれそうになりながらも、兄の事が心配な弟は、兄を探しに行こうと、意を決して外の世界に旅立つことを決めた。

旅の途中で、弟は、自分よりも小さい、弱っているネズミに出会った。

そのネズミはお腹を空かして、今にも意識を失いそうだった。

そんな小さなネズミを見て、今までの自分の姿を思い出し、放っておけなくなり、弟は、餌を見つけに行った。小さなネズミが元気を取り戻せるよう、弟のネズミは、怖さも忘れて、一生懸命働いた。

その頃、ネズミの兄は、怪我をして、小さな洞穴に身を潜めていた。

外の世界で知りあった、仲間のネズミ達と楽しい日々を過ごしていたのだか、ある日、人間の住んでいる家に忍び込み、人間に捕まってしまい、兄のネズミだけ、怪我を負いながらも、命からがら逃げ延びたのだった。

一人寂しく、洞穴に身を潜めるなか、兄は弟のネズミを思い出していた。

当時、兄は、弟の面倒を見るのが辛くなり、自分を可愛がってくれて、今まで知らなかった世界に連れ出してくれる、仲間との時間が、とても楽しくなって来ていた。

もちろん、弟の事も大切ではあったが、自分の人生を楽しみたいと感じていて、そんな仲間との生活を選び始めていた。

あの日も、弟の事は心配ではあった。

両親の事もあり、人間のところに行くのも、本当は止めたかった。

ただ、今の生活の楽しさから、冒険心が刺激された。

兄は洞穴で、泣きながら思った、きっと、弟も、こんな感じで、一人、寂しく過ごしていたのだろう。

どれだけ不安で怖い思いをしていたのだろう。

そんな弟の気持ちを何故考えてあげる事が出来なかった。何故気づいてあげることが出来なかったのだろうと。

一方、弟のネズミは、小さなネズミと暮らす中で、世界の事を色々学び始めていた。

危険なことや、どこに行けば餌を手に入れられるのか? また、同じように暮らす外の世界の仲間とも出会い、様々なことを学び始めていた。

学びながらも、兄も、こんな感じで、必死に一人で、頑張っていたのかと。仲間が出来て、どんなに心強かっただろう?楽しかっただろうという事を感じていた。

小さなネズミは、次第に元気になって来たが、外の世界に出る事を怖がっていた。

そんな小さなネズミに、弟のネズミは、自分の出来事や、小さなネズミと出会った時の、自分の気持ちや状況を正直に伝えた。

その話を聞いた小さなネズミは、自分も外の世界に旅立つことを決めた。

弟のネズミは、ある時、仲間のネズミから、人間の住処に忍びこんだ、ネズミ達の話を聞いた。

もしかしたらその中に兄がいるかも?と思い、弟は、その人間の住む場所を聞いた。

その場所に向かう道の途中、弟は、洞穴から、すすり泣く声が聞こえて来ることに気がついた。

弟が、その洞穴に入ってみると、そこには、久しぶりに見る、傷つき、すっかり弱ってしまった、兄の姿があった。

弟は、その兄の姿を見て、涙が止まらなかった。

すっかり衰弱して、弱り切っていた兄も、駆け寄る足音の先に、懐かしい弟の姿を見て、涙が溢れてきた。

兄は弟と再会して、涙ながらに謝った。
今の姿になって、お前の気持ちに気がつけた事、どんなに寂しい思いをさせてしまったか。申し訳なく思っていることを、涙ながらに謝り続けた。

弟も、外の世界に出て、どれだけ兄が頑張ってくれていたのか学んだこと。そして、自分が臆病であったばかりに、自分も兄の気持ちに気付けず、協力する事が出来なかったことを、涙ながらに謝り続けた。

弟は、兄の看病を続け、一生懸命働いた。

その甲斐あって、兄もすっかり元気になった。

そこからは、自分達だけでなく、仲間達と助け合いながら、ネズミ達はたくましく、楽しく暮らしていった。

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