カタチだけの懺悔#09

ねえライム憶えてる?なわけないよね。
私の仕事は完璧だもん。
誰にも負けたくなかったんだ。
正確には自分に負け続きの末にやっと勝てた。
そんな私が組んだプログラム。
EAD-RW021の効果は覿面だった。
試作に試作を重ねて試行錯誤を重ねてやっと思い通りのものが組めた。
そもそもライムは私なんかと付き合う予定はなかった。
病人と称されることもなかった。
じゃあなぜ?
病気がちで引きこもりがちの
私が日夜、試行錯誤の末に生み出した。
脳の海馬を中心とした記憶に纏わるそのデータを書き換えるシステムによって、彼の記憶をほぼ病気と私の記憶で埋め尽くした。
私がこんなものを創りだしてこうなったよ。
なんて話した方が今は現実離れしすぎている。
正直私もここまで思惑通りにプログラムが動く日が来ると思わなかった。
これも確かなひとつの本音。
20回のミスを重ねてようやくそれらしい動きをしだした。
自分でもよく諦めなかったなと思う。
ここで成功しなくても私は繰り返したと思う。
それともここまでのミスと思われたものが少しは作動していて
その積み重ねの結果なのか。
でも諦めの悪い私の事だから100回でも200回、幾らでも重ねたと思う。

私が息してるだけで迷惑とされるこんな世界なら、どんな迷惑を重ねても
同じだろうと、まだひとりよりはふたりでいたい
そして好きな人が他の誰かを
好きでもゲームみたいになかったことにしてもいいのでは?
もしも出来るのであれば。こんな私は天国へも地獄へも行けないだろう。
それでいい。そもそも生まれてきたこの世界が地獄より酷い。
一般的な健忘症を参考にした。
それの逆説から進行していく。
常日頃から身体を動かしている彼の場合、回るスピードも速くそして波は
あれど消えてった部分をすぐに私が組んだ代替と言ったらおかしいかな。
私の偽の用意した記憶で埋められる。
プログラムの進行具合なんかも
彼の様子をチェックしておけばよい。
1からの改変は余りにも時間を要するので
彼の本質的な物事の捉え方などを利用して
こう考えてこうするだろうとずっと彼をみてきた
私の想いの限りを尽くした。
このトラウマもこう処理するだろう。
ほぼ当たったようで。
彼にはなんの恨みも無い。
でも私の最期の望みだった。
いつか終わると解ってる人生、だからこそ人は輝く。
相対的に輝く事のない部類もいる。
時代を生きて肉体を消耗し続けていくだけ。
やり直す事はできない。
でも社会に出れば学生時代の年齢による
上下関係なんて
あってないようなもので、積み重ねた実績や信頼といった
目で見て判るもので上下関係が決まる。
弱い者いじめはしないように、などと教わったのが嘘かのように弱肉強食な世界。
そこから離れ何処へ行くのかなんて結局はどこまでいっても他人なので関係ない。
親子ですら、いつしか関係なくなる。
独りの果てに背中に貼りつく孤独なんてのも感じ続けていたら
やがて感じてないも同義になる。
いわゆる、慣れがそうさせる。
私はたった独りにきっとなりたくてこうしてきたし
でも時間がたてばまた誰かといたくなるのかもしれない。
私にも時折自分の考えている事がわからない。

でもきっと今回の一件。いつか話したところでだけどこうなってみると
彼を不幸にさせてしまったような気もして謝りたい気もする。

でも一度でもいいから彼の人生の登場人物に
なってみたかった。
彼の心からの理解を得たかった。
それだけだった。


本当は可愛い奥さんと子宝に恵まれ
プロバスケットボール選手として
どこまでもどこまでも昇り詰める予定だった。
日本人初の偉業を幾つも成し遂げるはずだった。きっとそうだった。

それを私はすべて壊した。
なかったことにした。
全部消えればいい。常々そう思っていた。
ライムに対しての気持ちは
誰にも負けない。そう思っていた。
そして編み出したのが
プログラム注入照射針。腕時計に仕込ませた。
某漫画にでてくるようなそれに似てる。
ライムがその漫画が好きだった。
そこから着想した。
何度も失敗を繰り返した。でも諦めたくなかった。諦められるわけがなかった。
だってこんなに好きなんだもん。
好きで好きでどうしようもない。
ホットサングリアは彼の好物の一つだった。彼の記憶はそれでも戻らない様子で。彼がいつもの葉巻煙草をきらすと例のコンビニに三級品の煙草を買いに行くことも知っていた。
そう、あの日の出逢いは演じられたもの。

彼が私に恋する事も。

彼には今更どこから何を話したものか。
後悔も募り募って夢の中まで襲ってくる。
航海する船をめちゃくちゃにするような
波のように何度も何度も私を攫う。

言うべきなのかな。
でもそれは私のカタチだけの懺悔に過ぎない気がした。私の気が少しでも晴れるように
ただのワガママにここまで付き合わせてきたのに。それでも日々時計は回る。
ライム、私どうしたらいいかな。
身勝手でごめん。ごめん、ごめん。

隣にいる時もね、何度も何度も心の中で
ごめんねって叫んでるの。
聞こえるわけないから、届くこともない。

たまにね、思ってしまう。

こんな私だから死んじゃえばいいのにって。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?