理想と現実と真実と#09

~please noise~

「ソウマらしいと言えばソウマらしいよな。
あんなに嫌がってた髪も切って染めて
積年の想いが積もったアクセサリーまで捨ててまるで
人生最後の日ってわけじゃあるまいし。」

「ある種の決別、禊のカタチなんだろ、それが。」

「そうそう。だからソウマらしいんだって。
あのマンションの存在もそういうことしてたから
ずっと言えなかったわけで。多分さ、世間一般とズレてるんだよな。
きっと音楽だけじゃないぜ、あいつゴーストしてんの。」

「それくらい、お前にわかって俺に解らないわけないだろ。」

「版権丸投げって。あとから揉めるって問題になるよな。
お金じゃないんだってどう説得したんだろな。お金だけじゃないのは
確かだけどそれがないと活動は続けられない。それこそ生命活動も。」

「葉巻とワインと音楽と、ソウマの口癖だったな。」

「だな。元気にやってっかな、あいつ、
その写真が最期に来たメールだよな?」

「それと、音源な。」

「ああ、【もう瞳は見れない】だったな。
これ俺たちにどーしろってんだよな。」

「とりあえずは受け取っておこう。」

「携帯も機内モード、マンションにもいるのかもわからない。
辞表書類までこっちにはきて、話し合う隙すら与えないというね。
まあ、でもこれもそれもどうするかが向こうの自由というなら逆も然りだ。無期活動休止とは言ったもののだ。」

「こうなったいま。三人の想いをひとつにするなら。」

~in air~

全てがこうなった今。
僕は全てを利用させてもらう。
それはいつかきっと、僕の今までの信念に、全てに帰結する。

時間の問題だったんだろう。遅いか、早いか、
ただそれだけだ。

職業柄、世界のどこにいてもまあ問題はない。

【J062/772】
スカイとか777とか謎の英数字、必要なことだけ
書いてくれよと思う。
まあいい、この紙さえあればそのうちには
海の向こうだ。
すぐに行動に移した。


僕は10年ほど前に音楽療法士という文字を見たときに
文字の羅列かはたまた語呂かそれとも内情を想像してか、
ひと目惚れをした。
今となっても日本ではまだまだそれ一本じゃご飯を
食べていけるとは言えず
理学療法士、作業療法士、看護師、などが
その役割も兼ねていたりする。

アメリカは何をとっても最先端だ。
アメリカは音楽療法をあちこちの現場に用い、
音楽療法士の活躍の場は多い。

音楽に出来ることはまだまだあるはずだ。
僕に出来ることはまだまだあるはすだ。
僕のしてきたあれこれがボランティアだろうとなんだろうと
人を一人でも多く豊かにする。それがいい方向に進めば。

生む苦しみなんて味わったことない。
それが苦しいというなら
生まれるそれをすぐにカタチにできないことの方が多い
生まれ続ける苦しみを味わったことあるのかよ。
それができないせいで、たったそれだけができないせいで
ストレスを感じる。

理想の音があっても
そのどこかに現実は顔をだす。

だから理想に近づくために
練習とか型に嵌るのが嫌いな僕がピアノレッスンまで
ついてもらうことにした。

向こうは音のプロじゃない、だが教えることのプロだ。

なんとなくはできたものを形にするためだ、
Moon Raver を休むなら、捨てるわけじゃなく、ベースも休む。

ここまできても結局僕には音楽しかないんだなと、
自嘲する。


飛行機の小さな小窓から覗く雲の切れ間に君が
見えた気がした。



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