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【続】なぜ、医学生は学年が進むと総診の志望度が下がるのか



ツッコミ「どうもーどうもー 富山大学医学部6年の西岡ですー」

ボケ&ツッコミ「お願いしますー ありがとうございますー」

ツッコミ「おー ありがとうございますー 先日のnoteに対して先生方から暖かい“査読”を、医学生から共感の声をたくさんいただきましたー」
https://note.com/ryu_nishioka/n/nbd32c0263969

ボケ「ありがとうございますー」

ツッコミ「ありがたいですね〜。」

ボケ「SOAPでいうと、前回のnoteはSubjectとかObjectに偏ってた気がしたんで、今回はAssessmentとPlanに着目していけたらなーと思ってます。」

ツッコミ「ほな頑張っていきましょ〜」


ボケ「いきなりですけどね、うちのオカンがね、好きな診療科があるみたいやねんけど」

ツッコミ「へー、そーなんや」

ボケ「ちょっとその名前を忘れたらしくてね。色々あるんやねんけどな、全然分からへんねんな」

ツッコミ「分からへんの? ほな俺が、オカンの好きな診療科を一緒に考えたげるから、どんな特徴ゆうてたか教えてよ」


ボケ「あのー、どんな病気でも診れるって言うねんな。」

ツッコミ「総合診療やないかい! その特徴はもう完全に総合診療やがな。すぐ分かったやん。こんなもん」

ボケ「でもこれちょっと分からへんねん。いや、俺も総合診療やと思ってんけどなー」

ツッコミ「そうでしょう」


ボケ「オカンが言うには、その科に行くのは月で1,000人中6人らしいねん。」

ツッコミ「ほな総合診療と違うかー 6人は大学病院とかの急性期病院にかかる人数や。Fukui, Tsuguya, et al. "The ecology of medical care in Japan." JMAJ 48.4 (2005): 163-167.」

ボケ「ほお」

ツッコミ「この研究では、1,000人中232人がプライマリケアに訪れるとされとんねん。せやから総合診療医をもっと増やさないといけないのよ。」

ボケ「そやなー」

ツッコミ「総合診療とちゃうやないかい! もうちょっとなんか言ってなかったか?」


ボケ「オカンが言うには、タイパ思考の医学生はあんま選ばへん科らしいねん」

ツッコミ「総合診療やないかい! タイパで思考の学生は、総診なんか時間かけても専門性身に付かへんやんと考えがちなのよ。でも俺はね、タイパ思考が悪いんとちゃう。そもそも論として社会構造に原因にあると睨んでんのよ。」

ボケ「社会構造?」

ツッコミ「医学生がーとか、大病院がーとか、カリキュラムがーとか言う前に、医学生のタイパ思考に影響を与えてる社会構造を理解する必要があると思うのよ。」

ボケ「まーねー」

ツッコミ「医学生のタイパ思考に影響を与えてるんは医学の発展や。習得すべき知識・技術が今もどんどん増えてんねん。」

ボケ「昔は教科書もっと薄かったわー、って教授も言うしな」

ツッコミ「でもな、1日は24時間、医学部は6年間と増えてへん。勉強量は増える、ついでにYouTubeやNetflixといった娯楽も増えてる。医学生は時間の奪い合い合戦に巻き込まれてんねん。」

ボケ「ほんま勘弁してほしいわ。」

ツッコミ「せやから医学生は、『早く、楽して、簡単に』知識をつけるかというタイパ思考になってしまうねん。ほんで総診って時間かけても専門性は身につかなさそうって思って敬遠しちゃうのよ。総合診療で決まりや!」

ボケ「分からへんねんでも」

ツッコミ「何が分からへんのこれで」

ボケ「俺も総合診療やと思うてんけどな」

ツッコミ「そうやろ」


ボケ「オカンが言うには、たった数日の実習でそこの真髄がわかるらしいねん。」

ツッコミ「ほな総合診療ちゃうやないかい! たった数日の実習で総合診療とは何たるかは絶対わからへん。総合診療の本質は理解ではなく時間をかけて体得するもんやと俺は思うのよ。」

ボケ「体得なー」

ツッコミ「特にタイパ思考の人に限って、教育を消費者マインドで見る目が肥えてくるんよ。

ボケ「消費者なー。」

ツッコミ「昔は教育は絶対的に信頼されるものやった。けど、今はレビューといった見える化によって、教育を事前に評価することも可能になってん。
そんな中、タイパ思考は『このサービスに金や時間を使うリターンは何や?』って消費者マインドを加速させちゃうのよ。すると、短期間で評価にしくいものは敬遠されちゃうんや。」

ボケ「総診というかアカデミア全体に言えることかもなー」

ツッコミ「総合診療ちゃうわそんなもん! もうちょっとなんか言ってなかった?」


ボケ「オカンが言うには、色んな呼び方があるらしいねん。」

ツッコミ「総合診療やないかい! 総合診療だけじゃなくて、それっぽい名前がたくさんあるのよ。プライマリ・ケア医、総合内科、家庭医、ジェネラリストとか。」

ボケ「言葉多すぎて、家庭医って何?って研修医もおるしな。」

ツッコミ「海外でも名称はさまざまやけど、そんなバラバラじゃないねん。一方で、日本の場合は歴史的な背景と大人の事情があるらしく、いろんな呼び名があるねん。」

ボケ「大人の事情なぁ。」

ツッコミ「これは国でも議論されとんねん。平成24年に行われた専門医の在り方に関する検討会では、
「総合医」、「総合診療医」、「一般医」、「プライマリ・ケア医」、「家庭医」などの定義を明確にした上で、国民にとって分かりやすい名称、例えば「総合医」に統一して整理することについて。
が検討議題として挙げられとんのよ。https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002rudp.html

ボケ「せやせや」

ツッコミ「医学部では『癌と肉腫』、『梗塞と狭窄』などの似てるようで似てない言葉の定義をはっきり教えられるのよ。言葉の定義をしっかりと理解していないと実臨床ではつかいものにならんからね。」

ボケ「定義が不明瞭だと、その未来も見えづらいねん。」

ツッコミ「せやから総合診療に決まりよ、そんなもんわ!」

ボケ「分からへんねんでも」

ツッコミ「なんで分からへんのこれで」


ボケ「オカンが言うには、その専門医の特徴は『深さ』ではなく、『扱う問題の広さと多様性』 らしいねん。」

ツッコミ「総合診療やないかい! 実際、平成25年4月22日の専門医の在り方に関する検討会報告書にて、上記の言葉が明記されとんねん。https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r985200000300ju.html

ボケ「ほー」

ツッコミ「でもな、多様性は総合診療の特徴でもあり、呪いでもあると思うのよ。」

ボケ「呪い?」

ツッコミ「理由は二つや。一つ目は、多様性ゆえに自分の成長が一次関数に定らへんことや」

ボケ「ほー」

ツッコミ「関数を描くには変数が必要。例えば臓器別専門医やと、変数は対象の臓器に関するものに限られる。やからX軸に自分が費やした時間、Y軸に成長をプロットした一次関数をかきやすいねん。」

ボケ「確かにな」

ツッコミ「でも、総合診療医は扱う変数が多いねん。変数が多いと関数も複雑になるやろ?だから、成長が一次関数で定まらへんねん。
そうなると、臓器別専門医の友達は時間と成長が比例してる。でもこっちは成長がよーわからへんと思ってしまうのよ。」

ボケ「なるほどな、二つ目は?」

ツッコミ「多様性は複雑性に転移しやすいことや。例えばな、
40代男性、主訴腹痛。昨日から心窩部痛が出現、今朝には痛みが下腹部にも広がり増強。この診断は?」

ボケ「たぶん虫垂炎やろうな」

ツッコミ「ほなこれは?
80代男性、既往歴は糖尿病、高血圧、脂質異常症、めまい、抑うつ、認知症。道で倒れていたところを救急搬送された。同居している50代の長男は患者の年金を当てに生活。」

ボケ「お、おう、、」

ツッコミ「総合診療医はよく不確実で複雑な状況に遭遇しとんねん。あくまでも一例やけど、こんなんばっかりやで。」

ボケ「うわーめんどくさ」

ツッコミ「でもな、多様性に接するからには、こうした複雑性にも耐えうる力もつけなあかんと思うんよ。安易に答えを出すのではなく、謎を謎として興味を抱いたまま、宙ぶらりんの、どうしようもない状態を耐え抜く力を持つこと。その先に必ず発展的な深い理解が待ち受けていると確信して。ってネガティブ・ケイパビリティって本に書いとったわ。」

ボケ「『それが何を意味するのか分からないものがある。ということを受け入れられるのは人間の知性だけ』
とジャック・ラカンも精神病(下)で言うとったな。まさにそこがAIにも代替されない総合診療医としてのアイデンティティなんちゃうやろか。」

ツッコミ「総合診療に決まりやから、そうなったらもう!」

ボケ「わからへんねん」

ツッコミ「なんでまだわからへんの!?」


ボケ「オカンが言うには、活躍の場が大病院という閉じられた場所しかないらしいねん。」

ツッコミ「ほな総合診療とちゃうやないかい! 総合診療医の活躍の場は大病院から小さなクリニック、そして地域とめちゃめちゃ開かれてんねんから。」

ボケ「そやねんな」

ツッコミ「でもな、それが欠点でもあんねん。総合診療医が活躍する開かれた環境は多様性に富み扱う変数が多いからinput(時間)とoutput(成長)が一次関数に定まらへん。」

ボケ「さっきも言った臓器別専門医との比較やな」

ツッコミ「でも俺はな、inputとoutputの間にある一次関数化できない部分こそ、総合診療の面白さがあると睨んでんのよ。

ボケ「ほー」

ツッコミ「情報学の言葉やけどな、単位時間あたりに処理したデータ量をthroughputっていうねん。言い換えると、ある時間内にどれだけ体験したか(throughput)ってことやと思うのよ。」

ボケ「評価はどうするんや?」

ツッコミ「自分の体験を自分の言葉で語らせる。これだけでええと思うのよ。throughputをしてない人は言葉が軽いからすぐわかる。経験を積んだ総合診療医は目が肥えてるからね、throughputはごまかされへんよ。」

ボケ「throughputしてへんやつらは、誰の心も動かさない優等生コメントするか、どこかでパクった小言を連呼しているだけやもんな。」

ツッコミ「脳神経的な発話プロセスと同じなんよ。発話はinputのウェルニッケ野とoutputのブローカ野だけで完結するんやない。頭頂葉の概念中枢で統合(throughtput)してるんやで。」

ボケ「頭頂葉があかんかったら、意味不明な言葉になるもんな」

ツッコミ「つまり、総合診療の教育、ひいては全体を診るマインドの涵養には開かれた場所で多様性や複雑性に揉まれながら、throughputをさせる環境がええんちゃうか。と俺は思ってんのよ。」

ボケ「でもまだ分からへんねん、これが」

ツッコミ「オカンね、そんなに色んな情報あるのにほんまに診療科の名前わからへんの?」


ボケ「オカンが言うには、総診を選ばなかった先生が卒後15年を過ぎたあたりくらいに、仲間に入りたそうにこっちを見ていることがよくあるらしいねん。」

ツッコミ「総合診療やないかい! 臓器別専門医はね、だいたい卒後15年くらいで学位を取り終えて手技も一通り習得してしまうんよ。だから、そこからの成長曲線はなだらかになるんよね。」

ボケ「せやなー」

ツッコミ「総合診療は自分の得意分野を活かすこともできるし、在宅にも行けるし、開業もしやすい。一種のキャリアチェンジとして考えてる先生も多いし受け入れもウェルカムなとこも多いねん。多様性を重んじる文化もある総診は懐が深いよー。」

ボケ「ほんまにみんな優しいわー」

ツッコミ「故郷のオカンみたいやろー」

ボケ「でもまだわからんねん。」

ツッコミ「ほんまになんやねん! どうなってんねんもう!!」


ボケ「んでオトンが言うにはな」

ツッコミ「オトン?」

ボケ「糖尿病内科ちゃうか?って言うねん」

ツッコミ「いや絶対ちゃうやろ!! もうええわー」

ボケ&ツッコミ「ありがとうございましたー」




まとめ

#

#1 医学生のタイパ思考
#2 多様性という呪い
#3 多すぎる言葉


Assessment

#1 学生のタイパ思考
社会構造的に学生はタイパ思考になりがち。

タイパ思考になると、X軸に時間(input)、Y軸に成長(output)という一次関数で考えがちに。キャリアを意識しだす高学年になるほどその傾向にある。

総診での学びは一次関数として定まりにくいので敬遠。

#2 多様性という呪い
総合診療の特徴である多様性ゆえに変数が多い。

変数が多いとキャリアが一次関数で定まらなくなる。

医学生・若手はキャリアを一次関数で近似しやすい臓器別専門医に惹かれる。

#3 総診を表す言葉が多すぎ
同じような言葉がありすぎて、何が何を意味しているのかわかんない。


Plan

#1,#2 inputではなくthrougput
社会構造的に仕方ない部分もある。
かといって、みんながみんなタイパ思考ではない。
詰め込み教育は全然ok。だが、時には昼寝の時間も必要だと思います。

また、科の特性上、多様性は不可避。かつ多様性の学びは一次関数で表せません。
そこで、高学年くらいで開かれた場所で多様性や複雑性に揉まれながら、throughputをさせる環境。それがあれば総診に熱い思いを持ちながらも悩んでいる学生は喜ぶと思います。
その体験をした医学生はたとえ臓器別専門医にすすんでも心には全体を診るマインドが涵養されているのかなと。

#3 整理と定義
君のような勘のいいガキは嫌いだよ。

偉い先生方 御侍史

この文章の作成にあたり、総診に熱い思いを持ちながらも総診に進むことに悩んでいる学生・若手医師から意見を頂きました。そこから思ったのは、彼ら・彼女らと総診はロミオとジュリエットみたく、相思相愛であるが儚い関係性でもあるということです。

例えば、JPCA2025とかでお互いの思いをぶっちゃけ合うみたいなシンポジウムができたら良いのではと思いました。

僕にそんな権力はありませんので、先生方のご高配を賜れれば幸甚です。
何卒、よろしくお願いいたします。




CM

さて、このnoteでひたすら一人ボケツッコミを繰り返していた私、西岡はMedipathyという団体でがん、難病などの患者さんをお招きし、医学生や医師を集めた対話の活動を行っています。

https://medipathy.one/

Medipathyの目的は『疾患』の治療や課題の解決ではなく
患者さんの思う『病』を聴くことや対話を通して、お互いを理解し関係性を深め、ネガティブイメージの『病』をポジティブなものに変わる場所や時間をつくることです。

これまで、オンライン・対面で合計55回開催し、お話しいただいた患者さんは80名以上、参加者は600名以上となりました。

今後の予定はこんな感じです。

・4.20(土) 10時~12時
 20代 女性 双極性障害(医学生)@オンライン
・5.18(土) 14時〜16時
 30代 男性 小腸がんstage4@東京文京区 シビックホール
・5.19(日) 10時〜12時
 40代 女性 肺腺がんstage4@東京神田 楽々テラス
・6.1(土) 19時~21時
 【医学部を目指す高校生向け企画】
 20代 男性 骨肉腫stage4 @オンライン
・未定【全て英語で行います】
 イギリス人の神経難病@オンライン

この活動は学生が手弁当でやっております。
面白そうなことやってるなーと思われた方、寄付をいただけると、とてもとても嬉しいです。

頂いたお金はMedipathyの運営費に使わせていただきます。