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フッ素の恩恵

医薬品の構造にはさまざまな元素が含まれています。
多くの医薬品は炭素と水素を基本とし、酸素や窒素など身近にある元素も構造の中に含まれています。
特にハロゲンと言われる元素のグループは医薬品の構造中によく見られます。
ハロゲンはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素です。

とくにフッ素は多くの医薬品に含まれる元素です。
フッ素を医薬品に含ませると医薬品に多くのメリットをもたらすことができるからです。

医薬品の構造にフッ素を導入すると以下のような効果が得られると言われて
います。

  • ミミック効果

  • 強い電子求引性による生体との相互作用

  • 代謝安定性

  • 脂溶性向上による体内動態の改善

ミミック効果とは水素とフッ素の原子サイズが同じぐらいということに由来します。
医薬品の構造にもともと水素があった部分にフッ素を導入しても生体は入れ代わったことに気づかないということです。
フッ素に置換されても生体はもとの物質と同じと認識して取り込むのです。

強い電子吸引性はフッ素が強力に電子を引き付ける効果によります。
電子を引き付けやすい目安として電気陰性度という指標があります。
フッ素は電気陰性度がすべての元素で最強なのです。
したがってフッ素は電子を引き付けて生体成分と強い結合を作ることができます。

医薬品は基本的には生体内では異物として認識されます。
すると生体は異物として認識された医薬品を分解しようとします。
これが代謝です。

医薬品にフッ素を導入すると代謝に対して抵抗性をもたせることができます。
さきほど述べたように医薬品は多くは炭素と水素からなります。
水素とフッ素を置換させて炭素とフッ素の結合を作ると代謝に対して抵抗性があがります。
それは炭素とフッ素の結合のエネルギーが高く、容易に切断することができないためです。
言い換えると炭素とフッ素の結合が非常に安定のため、生体では代謝できないということになります。

最後にフッ素を医薬品に導入すると脂溶性が向上すると言われています。
脂溶性とは油に溶けやすい性質のことです。

生体の細胞の細胞膜は基本的には脂溶性です。
脂溶性のもの同士は互いになじみやすいです。
したがってフッ素を医薬品に導入すると細胞となじみやすくなり、体内動態を改善することができます。

このようにフッ素を医薬品に導入するとさまざまなメリットを得ることができます。
基本的には医薬品の作用を強力にしたいときにフッ素を導入することが多いようです。
また文献によっては現在流通している医薬品の20%にフッ素が導入されていると言われています。

もともとフッ素は蛍石というフッ化カルシウムを主成分とする石から発見されました。
蛍石はもともとは融点降下剤として使用されていました。
蛍石を物質に加えると融点が下がり、液化しやすくなるという性質があります。
ちなみに蛍石を加熱すると蛍のように光を発するようです。

蛍石を物質に加えると液化しやすくなるという性質に基いてフッ素は命名されました。
Fluorumとはフッ素のことですが、もともとはラテン語の「流れる」という意味をもつfluoから転じて命名されました。
Fluorumの頭文字を音訳すると和名のフッ素となります。

フッ素の医薬品に対する貢献は偉大です。
多くのメリットを与えてくれます。
フッ素がなければ今日の医薬品は成り立たなかったのかもしれません。

私も医薬品の構造を眺めてみると本当に多くの医薬品にはフッ素があるなと思います。
抗菌薬、抗がん剤、血糖降下薬、高コレステロール治療薬などなど。
さまざまなジャンルの医薬品でフッ素を見かけます。

このようにフッ素が導入される理由は上に書いたとおりです。
まるで生体中の標的に水のように流れ込みながら、疾患を治療することができるのです。

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