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11.大学教授になるために、地方私大の役割にに注目しよう

地方私大はどのような役割を果たしているのか、その中で自分はどんな役割が果たせるのか

大学教授になるには、自分がどのような知識能力があるのかということの前に、そもそも社会において大学はどのような役割を求められているのか、そして大学が育てている人材(学生)にはどのようなニーズがあるのかを知らなければならない。その上で求められる役割やニーズに自分の持っている知識能力を果たして役立てることができるのかどうかを自分自身に問う必要がある。
そもそも首都圏(1都3県)のGDPは日本のGDPの三分の一である。つまり日本の付加価値の三分の二は首都圏以外の地方で稼ぎ出していることになる。この三分の二の付加価値をどのように増やしていくか、地方の生産性をどのように上げていくかが日本の課題である。それは誰が担うのだろうか。

例えばグローバルニッチトップ企業113社のうち74社は地方にある

経済産業省は、世界市場のニッチ分野で勝ち抜いている企業や、国際情勢の変化の中でサプライチェーン上の重要性を増している部素材等の事業を有する優良な企業など113社を、2020年版「グローバルニッチトップ企業100選」として選定している。113社のうち74社(65%)は地方(1都3県以外)にある。74社のうち大阪、京都、兵庫、愛知を除いても41社が全国に散在している。業種は機械加工、素材・化学、電気・電子、消費財その他の4部門の製造業である(経済産業省2020.6)。これらの企業は技術者だけでなく世界とのビジネスを担う人材を常に必要としているが、その人材を育成し供給するのは誰か。
 

躍進著しいドラッグストア業界の本社はどこにあるのか


 以下は2023年度ドラッグストア売上高ランキングである。
企業名           売上高(億円) 対前年伸び率 本社所在地
1.ウエルシアホールディングス  11,443   111.5     東京都
2.ツルハホールディングス     9,700    105.9     札幌市
3.マツキヨココカラカンパニー   9,512    131.6     東京都
4.コスモス薬品          8.276    109.6     福岡市
5.スギホールディングス      6,676    106.7   愛知県大府市
6.サンドラッグ          4,515    106.3   東京都府中市
7.クスリノアオキホールディングス 3,788    115.4   石川県白山市
8.クリエイトSDホールディングス  3,760    109.2    横浜市
9.カワチ薬品           2,818    100.9   栃木県小山市
10.ゲンキー           1,690    109.3   福井県坂井市
                    (薬キャリ職場ナビ2023.11)
ご覧のように10社中6社が地方都市にある。成長著しいこれらの企業では店舗の運営管理からマーチャンダイジング、システム構築と生産性向上、さらには海外展開に至るまで大量の大卒人材を必要としている。それらの人材を供給するのは誰か。私は金沢市の大学でキャリア教育も担った教員だったが、ドラッグストア各社の採用意欲の強さをひしひしと感じた。 
 

地方はベンチャーの宝庫  

 
 そもそも地方はベンチャーの宝庫である。それは新しい小売業態や飲食業態、サービス業態が地方のロードサイドから誕生し発展するからである。地方のロードサイドは人口密集地ではないが地価が安く、車社会で商圏が広く商圏人口を確保できる。古くは蔦屋のカルチャー・コンビニエンス・クラブ(株)は枚方市のロードサイドが発祥である。ユニクロのファーストリテーリング(株)も山口県宇部市が発祥で1号店は広島市(ロードサイドではないが)である。地方のロードサイドからは名古屋市のコメダ珈琲や姫路市の西松屋など今でも新しい業態が次々と生み出されている。それらは成功すればチェーン化して企業として急速に成長する。ロードサイドだけでなく、例えば青山が発祥だと思っている人が多いフルーツタルトのキルフェボンは静岡市が発祥(本店)だし、デパ地下の店舗やワイン通販でおなじみのヴィノスやまざきも同じく静岡市が発祥(本店)である。
最近は小売りや飲食、サービスだけでなく、テクノロジー関連の起業も多い。例えば山形県鶴岡市のSpiber(株)のように新世代バイオ素材開発で2007年に創業し、現在では売上高603億円社員数284名にまで成長したベンチャー企業もある。初音ミクで有名なクリプトンフューチャーメディア(株)も1995年札幌市で創業した。今ではICTの発展によりテック企業の創業が必ずしも首都圏でなければ、ということはない。
 

成長の制約要因としての人材


 旺盛な起業家精神を持ち、会社を成長させている地方企業の経営者からは人材確保の悩みを聞くことが多い。彼らは一様に「人さえいれば会社をもっと大きくできるのに」と言う。
彼らの必要とする人材は、大企業の歯車になるような人ではない。小売りや飲食、サービスでは採用されたら2~3年でマネージャーになり、人を使う立場になる。製造業では総務も経理も人事も営業も、一人で何でもできなければならない。昔はそれらの仕事は大学を出た社長の息子がやっていた(会社で唯一の大学出だった)。会社が成長した今はそうはいかない。大卒を雇って(少ない人数でも)分担するだけでなく新たに海外まで営業しなければならなくなった。それどころか在庫管理や物流、受発注業務もICTで改革しなければならない。大企業のように組織がしっかりしていて大勢で分担するようなやり方はできないのだ。だから必要なのは、柔軟性と創意工夫、言われなくてもやる自発性、臨機応変の対応力を備えた人材だ(むしろ地方の方がデータサイエンスを駆使する必要がある)そのような人材の供給源が地方の私立大学である。
 

地方私大の役割と課題


 2024年4月8日付の日本経済新聞教育欄に「日本の大学国際競争への課題」と題する記事があり、その中で米ボストン・カレッジ名誉教授が「日本の問題は学生の80%近くが私立大学に通っていることだ。これらの多くは規模が小さく、人口が急速に減る地方に位置している。重要な社会的役割を果たしているこれらの大学をどう維持して質を保つか手ごろな学費をどう維持するかが課題だ」と述べている。その重要な役割と言うのが今まで述べてきた地方企業の生産性を高め付加価値を増大することのできる人材の育成だ。次の記事では地方の私立大学はどのようにしてこの役割を果たそうとしているのか、そのためにどのような改革を行っているのかを紹介したい。そこには首都圏の有名大学とは異なる教育の姿がある。
大学教授を目指すのであれば、日本にとって重要な地方私大による人材育成とその課題に注目してほしいし、そのために自分自身に何ができるかを考えてほしい。

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