ℝ𝕪𝕦𝕛𝕚 / 短編小説

短編小説、書きはじめました。 OTOMEOTOのギターボーカル。 文:Ryuji、編集…

ℝ𝕪𝕦𝕛𝕚 / 短編小説

短編小説、書きはじめました。 OTOMEOTOのギターボーカル。 文:Ryuji、編集:Wakana ☺︎︎Instagramラジオを毎週(土)夜11時〜配信中。☞@otomeoto.music

最近の記事

街灯

静かに玄関の扉を閉めた。 鍵は閉めなかった。 夜の11時。辺りは暗闇に包まれている。 聞こえるのは遠くの道路を走る車の音と、 草むらで鳴いているカエルや虫の声だけだった。 感覚は研ぎ澄まされている。 「あんたなんかっ!大嫌いだ!」     ーーーーーーー 暗い夜道の一角に、 ポツンと取り付けられた街灯。 他の道との合流地点にあるそこだけが 明るく照らされ、 まるでUFOが人間を連れ去る際に照らす あの光のようにも見える。 ーーーーーーー   【ごめん。キミを幸せにできる

    • 久美子

      「久美子さん。 僕と 結婚してください!」 どうやら僕は、久美子という女性にプロポーズをしているようだ。 高校3年の秋にふと見た夢が時々僕の頭を掠める。 肝心な彼女の顔はモザイクがかかったように覚えていなく、どこの久美子さんなのか全くもって検討がつかない。 ちなみに、クラスメイトにも”久美子”という名前の女子はいない。 今時期は皆、進路のことでピリピリしている時期でもあるので、正直恋愛にうつつを抜かす余裕は無かった。 僕はといえば、県外の専門学校への進路を決めていて願書を

      • 最後のキミ

        葛西良雄(かさいよしお)は、センチメンタルだった。日曜の夕方に一人ハンドルを握り家へと向かう。ことあるごとに溜め息をついては、遠くの空ばかり見ている。そういえば、あの子の髪色あんな水色だったよな・・・。雪の女王を思わせる冷たくも魅力的なその色が胸いっぱいに広がる。海から吹き込む風が僕の体を冷やしていく。  彼女との出会いは、3週間前に遡る。仕事帰りによく行くコンビニに立ち寄った際のことだ。入店してすぐ、彼女の姿が僕の視界に入った。僕は一瞬で心を奪われた。周囲の目があることに

        • たまごサンド

          7月半ば。天気は快晴。というか茹だるような暑さ。暑い。週の疲れが蓄積しきった金曜日にこれはかなりこたえる。3時35分。涼しいうちにと思い朝から予定していた営業先を全て回り終え、車内で一息ついていた。会社には、終了次第直帰する旨を伝えていた。週の最後に気持ちよく仕事を終えられた優越感と達成感に満ちているからか妙に気持ちが弾んでいる。そこに待ったをかけるように空腹感が襲う。 「そうだった。昼、食ってなかったわ。」 定食屋で食べるにも、ランチタイムは終わっていた。ファミレスやフ

          水曜日に恋して 後編

          「あの…」 僕は、その言葉にハッとした。 「あっ!ハイ!すいませんっ!」 「…なんか、電話、鳴ってますよ。」 よっぽど、自分の世界に入り込んでいたのだろう。カウンター脇に置かれた電話の呼び出し音が鳴っている。普段鳴らないくせに、今日に限ってうるさいくらいに鳴っている。しかもこのタイミングで。 「あっ!すいません!少々お待ちください!」 慌てて電話を取り、サカエさんに背を向けて話し出す。 相手は店長からだった。普段顔を出さない店長の間の悪い電話に、内心苛立った。と

          水曜日に恋して 後編

          水曜日に恋して 前編

          僕のアパートから勤務先まで自転車で20分ほどかかる。その道中にこの街唯一の映画館があり、その前を通るのが僕のいつもの日課だ。詳しいわけではないが、映画館前に立ち並ぶ作品のポスターを見るのが好きで、少しばかり止まってそのポスターを見て楽しんでいる。今日はやけにカップルが多い。 (そういえば、今日はカップルデーか…。) 先週の土曜日から、春先にあわせて話題のラブロマンス映画が上映されているらしく、注目の新人俳優が主演ということで巷でも話題になっている。 「派手な演出や音楽で涙

          水曜日に恋して 前編

          バスタイムクイズショー

          明日は待ちに待った休みだ! 僕は週末の疲れをしっかりと流す為に、 土曜の夜はシャワーではなく、バスタブにお湯を溜めて好きな”温泉の素”を入れて入るのが一つの儀式みたいになっていた。独り身の安月給な僕にとっては贅沢な時間である。 以前までは銭湯に行っていたのだが、入浴料が昔よりも上がってしまい、入浴後のフルーツ牛乳も買う事を考えると銭湯に定期的に行くのを諦める他無かった。そこからの、この週に一度のバスタブ儀式なのだ。 * 僕だけの小さな温泉。個室露天風呂とはいかないが、静

          バスタイムクイズショー

          愛マスク

          自分にしか見えない「誰か」が、あなたにはいるだろうか。 決してホラーな意味ではない。 例えて言うなら即席麺の某CMに出てくる、キツネの耳をつけたあの彼女みたいな感じと言ったら分かるかもしれない。 ボクには、自分だけに見えるそんな存在がいた。 * 彼女との出会いは、この「愛マスク」を使い始めてからだった。 普段デスクワークが多いため、目がとても疲れていて、通販サイトで"目を温められる愛マスク"という品を購入した。 目にあてるパッドの中に特殊な素材が入っていて、それを

          カメラ

          時々、あの日のことを思い出す。 高校3年生の運動会。僕はこの行事が何よりも嫌いだった。生徒は、必ずどれか1種目に出なくてはならない。  僕は運動が苦手なわけではなかったが、太陽の下を駆け回るサッカー部やらラグビー部の奴らと対を張れる程の脚力を兼ね備えてなどいない。 ましてや、この高校自体に馴染めてもいない。 そんな高校生活最後の運動会で僕は、借り物競走に出ることになった。 運動会当日。晴天に恵まれ、脚力自慢の男子の走りに女子の黄色い歓声が響き渡る。 「次は借り物競走