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コンプレックスにさようなら

もうかれこれ10年くらい前になるのだろうか?おでこに大きな出来物が出来てしまったことがある。おそらく脂肪腫というやつで、小さなたんこぶのようにボコっとした膨らみで、痛くも痒くもないんだけど場所が場所だけにとても目立つものだった。気になってついつい触っているうちに大きく腫れて膿が出て潰れてなくなって、しかしそこには小さな穴と大きく黒ずんだ痕が残ってしまった。

皮膚科に行って診てもらっても、自然に色素が抜けるのを待つしかありませんねと言われてビタミンCを処方されておしまい。おでこのド真ん中にこんな痕があるのは目立って仕方ない。しかも僕は舞台に立つような仕事をしているのだから尚更だ。舞台に立つ時はメイクをして誤魔化していたが、傷痕の上からメイクをするのだから余計に荒れたりして、いつまで経っても痕はなくならなかった。人は外見じゃない、と自分に言い聞かせて気にしていないつもりだったけど、やっぱりそれは大きなコンプレックスになっていた。

そうこうしているうちに、今度はあごにまた同じような出来物が出来てしまった。今度は変にいじらずにすぐに皮膚科に行って診てもらうと、手術をして取りましょうということになった。ついでにおでこの痕もどうにかなりませんかと恐る恐る相談してみると、いいですよこっちもやりましょうとあっさり承諾してくれた。いや最初に行った皮膚科で言われたのは何だったんだよ!詳しく聞いてみると皮膚科と言っても手術が出来るところとそうじゃない所があるらしく、最初に行った皮膚科はどうやら後者だったらしい。いやそれでも提案ぐらいしてくれよ!そんなわけで、数年来悩まされていたコンプレックスと、僕はようやく決別することとなった。

手術はなんの滞りもなく終わった。費用もいろいろ合わせても1万円もしないくらいだったと思う。場所が場所だけに細かくチクチクと縫ってくれたおかげで、縫い跡もほとんど分からないくらいにしてもらった。数日経って抜糸をしてもらった帰り道、嘘のように晴れやかな気持ちになって、背筋が伸びるような気分になったのを覚えている。

人は外見じゃない。それは全くその通りだ。外見のコンプレックスも受け入れて、まるっと愛してポジティブにいられる方がいいに決まっている。しかし受け入れ難いコンプレックスは当然あるものだし、それをちょっとした投資や努力で取り除けるものならそうしてもいい。おできの痕がなくなったおでこは相変わらず広々としてはいるけれど、あの日手術して以来僕はとても心穏やかに晴れやかに過ごせている。コンプレックスにさようならをする。それはコンプレックスを受け入れるよりもたぶん簡単だ。と言って美容整形を礼賛するわけでもないんだけど、悩みがあるならちょっと相談してみるくらいはいいんじゃないかと思います。

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