見出し画像

How to Build An MVP

Y Combinator のグループ・パートナーでTwitchの創業者でもあるマイケル=セイベル氏の動画「How to Build An MVP」(MVPの作り方)がとても分かりやすかったので、解説記事を書いてみます。引用元の動画は一番下につけておきます。


1. MVPとは?

MVPという言葉を聞いたことありますでしょうか?

これは Minimum Viable Product の略称で、「顧客に提供できる最低限のプロダクト」という意味で使われる単語です。日本ですとどちらかというと「ベータ版」というような言い方をする起業家も多いので馴染みが薄い言葉かもしれません。

MVPは実際に触ったり動かしたりできるレベルのものから、あくまでコンセプトレベルで動画や文章で見せるレベルのものまで様々ですが、米国が誇る最強アクセラレーション組織Y Combinatorでは起業アイデアを評価する際の超重要ファクターと捉えられています。

ではマイケル氏のアドバイスについて、触れていきましょう。

2. Launch quickly & Iterate(早く作って改善)

マイケル氏は起業家が取るべき最初の行動を次の4ステップにまとめてます。

  1. とっとと立ち上げる(MVPを作る)

  2. 初期の顧客にコンタクトする

  3. 顧客との対話からフィードバックを得る

  4. プロダクトの改善を続ける

まず顧客の前にプロダクトを出し、それが彼らの役に立つのかどうかを実際に見てみることが大事です。これにより何が顧客の本当の課題で、それをどうすれば解決してあげられるのかを考える手がかりが得られます。

実際、この最初のアクションは、共同創業者と議論したり自分の頭の中で考えることよりもずっと多くの学びがあり、結果、初期のMVPは大きく変わる、とマイケル氏は言います。

実際のところどうなのよ?という声もあるかと思うので、私の実体験を少しお話しします。

私もかつて自分の会社でサービスを開発をしていました。私は研究者として「異文化領域」を専攻しており、グローバル化を目指して外国人社員を雇いいれる日本企業内の組織内コンフリクトを解決するサービスを仲間と開発しました。

当初は日系グローバル企業を対象に、海外からきた従業員への研修や人事設計・組織開発をサポートすることを想定していましたが、実際にお客さんと議論を重ねるうちに、海外⇔日本という文化の壁以上に、中途⇔プロパー社員間の壁の方が問題として大きいということが分かりはじめました。

その結果、サービスの中身は外国人社員を対象とした研修から、組織文化そのものを変革するための組織開発サービスに変わっていったのです。もちろん全てを変えるのは難しかったので、サービスのコアアイデアは活かしつつ、10のうち5を変えるというイメージです。まさに、MVPにより顧客と共にサービスを開発するプロセスになりました。

では次にそんなMVPをどのように作るのか、みてみましょう。

3. MVPの作り方

MVPが顧客との共創を促進することは理解できたと思いますが、果たしてどのようなプロセスで作っていくべきなのでしょうか?マイケル氏は重要なポイントを次のように語ります。

  1. MVPを作る期限を決める

  2. MVPのスペックを書き出す

  3. 重要じゃないスペックを削る

  4. Don't fall in love with MVP(MVPに惚れてはいけない)

第一に、MVPを作るのに時間をかけすぎるな、ということです。これは私の中では最も重要といっても過言ではないメッセージと受け止めました。

つまり「結局最初のアイデアなんて変わってしまうんだから、そこに時間をかけるのは効率が悪いよ」ということです。プロダクトを作ること=顧客について学ぶことだとすれば、MVPはその作業をスタートさせる最も有効な手段であって、目的ではないということですね。

次にMVPの中身を可能な限り具体的に紙に書き出してみる。
実際にソリューションの形を考える段階まできている起業家であれば、いわゆるバリュープロポジション(誰のどんな悩みをどう解決するのか、という提供価値に関する一連の考え)は整理できていると思いますので、今度はターゲットに合わせた解決策のプロトタイプを文章で作ってみるのです。

そして一通りプロダクトの特徴を書き出したところで、それを削る作業です。マイケルさん曰く、極力小さなターゲットに向けてシンプルなソリューションになっていた方がいいとのこと。ここはアイデアが溢れでてきてしまう起業家にとっては一番難しいパートかもしれませんね。でも何をしないかを決めるのも、リソースが限られたスタートアップにとって重要です。

最後に、MVPに惚れ込んではいけません。
なぜなら最初のアイデアに固執すると、顧客の声に耳を傾けることができなくなるからです。このメッセージは、結構耳が痛いと感じる方は多いのではないでしょうか。

例えば、テクノロジー系スタートアップによく見られることですが、技術シーズを元にプロダクトを設計するが故に、後から顧客のニーズを探しにいくことになってしまう。結果、なんかすごいし類似商品はないけどお金を払って欲しい人もいない、みたいなプロダクトを作ってしまうことがあります。

マーケットインかプロダクトアウトか、といった議論はマーケティングの授業でよくされますが、Y combinatorをはじめとするスタートアップ・スクールでは、顧客とのインタラクションを抜きにプロダクトを作り始めることを勧めていません。私も同感です。

4. 多くの起業家が内心恐れていること

ここまでMVPの作り方と重要なポイントについてお話ししてきました。
おそらくウンウンと頷いた方も多かったのではないでしょうか。では何故多くの起業家(候補)は、MVPを作らずに考えることばかりに時間を費やしてしまうのでしょう。

それは「中途半端なプロダクトを顧客に見せて顧客に嫌われたり、2度と喋ってもらえなくなることが怖いから」というのがマイケル氏の見解です。鉄のハートを持つ起業家の方々からすれば「そんなことはない」と反論される方もいるかもしれません。が、正直私は笑えませんでした。私はまさにそういう職人タイプだったので…(笑)

一方、こうした恐怖心を抱える起業家に対し「顧客を失うことを全く恐れる必要ない」と、マイケル氏は次の2つを根拠に説明します。

第一に、初期段階であなたのサービスに興味を持つのはアーリーアダプター層であり、彼らは常日頃から新しいプロダクトを試すことに慣れている。よって、多少出来が悪くても「もっと一緒にいいものを作っていこうぜ」というのが典型的なレスポンスであろうこと。

第二に、あなたの商品をみてもう2度と使わないと去っていく人々は、アーリーアダプターではなく、もともと最初から獲得できるターゲットではないからため。

いかがでしょう?「アーリーアダプターの顧客を失うことを恐れる必要ない」というメッセージは、私にとってはかなり目鱗なポイントでした。
この点については、今では偉大なサービスになったのにMVP段階で「やばくないですか?」というレベルのプロダクトだった具体的なビジネス事例をシェアします。

5. 具体事例

  1. Airbnb

2020年に上場し、一時時価総額10兆円を超えたエアビーことAirbnbですが、MVPを出した時の特徴は以下のようなサービスでした。

①No Payment(支払いなし)
②No Map(その家が街のどこにあるのかわからない)
③Must have airbed(スペースしか借りれずベッドはない)
④会議イベントの開催期間のみ貸出(会議に行く人以外使えない)

今や一般の旅行やちょっとしたイベント用途で使えるメジャーサービスとなったエアビーも、初期の頃は会議イベントで出張する一部のビジネスマンだけをターゲットにした限定的なサービスだった(HPも1枚程度)ということです。この時点で将来のスケーラビリティを見越して投資できた人はすごいですね。

2. Twitch

マイケル氏が共同創業し、2014年にAmazonに買収された世界最大のゲーム配信プラットフォーム Twitch ですが、最初のリリース時は以下のようなサービスでした。

①1チャンネルのみ
②低画質 
③ビデオゲームなし
④ストリーミングコストが極めて高い

今や知らない人がいない世界最大のゲームプラットフォームのMVPが、ゲーム配信すらしていなかったというのは、少なくとも私は全く想像ができません。

3. Stripe

IPOが近いと噂され、2021年時点で時価総額10兆円を超えたといわれるオンライン決済サービスの雄ストライプ。初期のサービスは以下のようなものだったそうです。

①どの銀行とも連携していない
②創業者たちが裏側でペーパーワークをしていた
③ほとんど機能がなかった

ITサービスといいつつ裏側が人力だったというのは、映像化すると面白いかもしれません(笑)「Fake it until you make it(実現するまでうまくいっているふりをしろ)」という用語を地でいく会社だったということですね。

そして最後にマイケル氏はスティーブ=ジョブスを引用しながら、次のような言葉で締めます。

多くの人はスティーブ・ジョブスが天才で、彼が頭で考えたイノベーティブな商品を市場に提供したと勘違いしている。最初にiPodが出た時、iTunesなしでリリースされたの覚えてるだろうか?最初のiPhoneは、ビデオすら撮れなかったことを覚えているだろうか?その時は全然すごい商品じゃなかった。3度か4度の改善があって今の形に辿り着いたんだ。

だから我々は次のように考えるべきだと思う。
「あの天才スティーブ・ジョブスですら何度もプロダクトを正しいものにしようとトライしたのだから、あなただってそうすべきだろ」と。

How to Build An MVP | Startup School

6. まとめ


ここまで学んだ重要なポイントを私なりにまとめてみました。

・事業づくりとは顧客について学ぶプロセスである
・プロダクトなしに顧客のことについて学ぶことはできない
・MVPは顧客を知る旅をスタートするための最も簡単な手法である
・早くMVPを立ち上げて顧客からフィードバックをもらうのが大事
・アーリーアダプターは新しい商品に寛容な人々=どんどん試すべき
・あなたのビジネスを大きくするのはアーリーアダプターではない
・ジョブスですら商品を完成させるのに何度も商品の改善を行なっている
・顧客は自分の悩みについては詳しいがその解決策については疎い

あるVCでは、シード期の起業家を見極めるときに、業界経験者かどうかをとても重視するといいます。これは要はMVPを自分の脳内でシュミレーションする能力が、その業界の素人よりも圧倒的に高いことを評価しているとも言い換えることができるかと思います。

自分自身が業界未経験であるという自覚があるのであれば、MVPによる顧客探索活動はマスト。議論している時間をこちらの探索活動に充てることを考えるべきでしょう。

最後にマイケル氏が語っているMVPのアナロジーがとてもわかりやすくて気に入ったので、少し私が脳内補足をしながら記しておきます。詳しく学びたい方は動画を直接どうぞ!

  • 次のようなシチュエーションをイメージしてほしい

  • あなたの髪の毛が燃えていて、隣に私がいる。

  • 私はあなたに何が売れると思うだろうか?

  • 例えば、水の入ったバケツやホース、水っぽいものがだったら最高だろう。きっとあなたの頭の火をすぐに消せるから。

  • これが現代におけるiPhoneだ

  • しかし私が水の代わりにレンガを売ろうとしたとするとどうだろう?

  • あなたはそのレンガを買うだろうか?

  • 私の答えはこう。きっとあなたはこのレンガを使ってなんとか髪の火を消そうとするだろう。これがMVPだ。

  • 完璧なソリューションではないが顧客はなんとか目の前の問題を解決しようとそういう行動をとる

  • その行動を見て、フィードバックを貰えば、何度かのやり取りの末に水にたどり着くことができるだろう。

  • 私の経験上、このプロセスをスキップすることはできない。

  • ユーザーが問題解決のための答えを直接教えてくれることもあるが、ほとんどの場合、顧客は解決に向けた答えを持ってない。

  • 答えを探すのはあなたの仕事だ。

さあ、いい仕事をしましょう!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?