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「許せない」「ありえない」は暴走のはじまり _feat.ロベスピエール <アンガーマネジメント編 #1/3>

SNSでも身の回りでも、『怒っている人』が増えているように感じていて、正直うんざりしています

withコロナの生活になってからとくに、こんな風な声を聞くことが少なくありません。「怒っている人多いよねぇ」と僕も仲間うちでも話をしたし、色々な「怒りの声」はSNSからも入ってきます。

「Go To キャンペーンは許せない! 自粛すべきだ!」といった政治への怒りから、「アイツは全然仕事がデキない!もっと働くべきだ!」といった職場での怒りまで、怒っている人はもう、とにかく怒っていますよね。そんな怒りばかり聞くのは、僕だってうんざりです(笑)。

いまの時代「許せない」なんて怒っている場合じゃないと僕は思っています。歴史上の人物の生き様を見ても、怒っていると良い結果になってないから。

怒りの正体は「我慢」か「倫理観の暴走」

怒っている人は、大きく2つのタイプがいると思います。

1つは、「自分がしている我慢を他人がしないなんて許せない!」という「我慢タイプ」、もう1つは「〜すべきだ!」という個人の倫理観や正義感が突き抜けて強い「倫理観暴走タイプ」です。

我慢タイプ」は、たとえば古い体質の企業に勤める会社員。自分は組織の理不尽な要求にも耐えて必死で働いてきたのに、年下の部下は自分のような我慢を一切せず、自由に働いている(ように見える)。

「なんだアイツ、許せないな!」と仕事の成果とは関係ないところで怒り出す。まさに「我慢タイプ」の典型です。

嫁姑間でありがちなが摩擦も同じ構造です。たとえば、自分はいろんなしきたりを我慢して家事に育児にとがんばってきた。にもかかわらず、若い息子の嫁は家事代行を頼んでいる。そうすると姑は、「どうしても気に食わない!」といった心境に陥るわけです。

これらの状況は2つとも、お互いが生きている時代が違います。別の時代なのだから「当たり前」の基準も変わる。基準が違うことに怒っても仕方がないと思っています。

倫理観暴走タイプ」は、歴史を見てもいい結末にたどり着けないというのがわかります。

「倫理を貫く」というと、一見いいことなのでは? と思いますが、倫理観が過度に強まると、善悪の判断という二元論でしか物事をとらえられなくなります。多面的な把握ができなくなるんです。

「〜すべき」は、近年重要視されるダイバーシティの対極。善悪の判断自体はあっていいし自分の中に収めておけばいいのです。ただ、すべてを二元論でとらえてしまうとだんだんとおかしな選択をすることになるのです。

その状態を「倫理観の暴走」と僕は呼んでいます。たとえば、フランス革命期の代表的な革命家である、マクシミリアン・ロベスピエールの行動は、個人の「倫理観の暴走」が世界を変えたケースです。

正義の人権派弁護士だったロベスピエール

ロベスピエールは、フランス革命期の政治家・革命家です。

フランス革命以前は人権派の弁護士として活躍していました。幼いころに両親を亡くした彼は、9歳から幼い弟と妹を養い、11歳でパリの名門校入学、弁護士になったという大変な努力家です。

正義感が強く、貧しくて弁護士を雇う費用を払えない人には自費で弁護をしていたというエピソードも残っています。一貫して「正義」を大事にしていました。

フランス革命とは、世界で初めてのイデオロギー革命です。個人1人ひとりが「生存権」や「幸福の追求権」を持つものだといった、いまの世界のあたりまえがつくられた変革でした。

「フランスは、国家の中に1人でも不幸な人がいることを許してはいけない」

これは、ロベスピエール派による演説の一説です。

彼は誰が聞いても正当な理念に燃えた考えを持ち、激しい情熱に突き動かされて活動します。フランス革命中、彼はまさに民衆側の大スターでした。

強い倫理観が革命後に「恐怖政治」を生む

それが革命により王権が廃止され共和制が樹立されると、ロベスピエール一派は独裁を敷くようになりました。自分たちの考えや意見と合わない人間は、すぐに殺します。もう、とにかく政敵をギロチンに送りすさまじい数の人を処刑します。

この時期に処刑されたのは約2万人といわれ、ロベスピエールの独裁は「恐怖政治」と呼ばれました。

倫理観が強まると許容量は狭まる

強調したいのは、その独裁が私利私欲から行われていないこと。自分の利益のためではなく、自分の信じる正義に裏打ちされた倫理観からです。それが強すぎるあまり許容量が狭まる。少しでも自分の考え方と違うと、聞く耳も持たずにすぐに排除して(殺して)しまうのです。

彼は革命をともにした親友・ダントンすらも処刑台に送っています。理由は、ダントンが結婚したばかりで若い奥さんにうつつを抜かして政治に熱心でなくなったから。

このような恐怖政治は当然、長くは続きません。ロベスピエールは最期、対立する勢力からクーデター遭い死に追い込まれました。

強い倫理観と正義感はもはや暴力。多様性がより大切になるいまの時代には、許容性のない倫理と正義は控えた方が良いと思います。



人間そのものを理解できたり、ストーリーとしての歴史のおもしろさを伝えたくて、歴史好きの男子3人で『COTEN RADIO(コテンラジオ)』も配信しています。PodcastYouTubeとあわせて聴いてもらえたらうれしいです。

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* 2/3話目となる次週は、怒りを原動力に世界大戦を引き起こしたあの独裁者についてお届けします!

(おわり)
編集・構成協力/コルクラボギルド(大西なお、イラスト・いずいず

株式会社COTEN 代表取締役。人文学・歴史が好き。複数社のベンチャー・スタートアップの経営補佐をしながら、3,500年分の世界史情報を好きな形で取り出せるデータベースを設計中。