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RRRの音楽: テーマとライトモチーフのまとめ+分析

RRRの音楽は強烈なテーマ/モチーフの宝庫です。ということでスコア&歌のテーマ/モチーフを採譜して分析しました。この記事では重要なテーマ/モチーフを整理し、そのスコア内における再構築を図解します。クソ長いです。なんなら[4]だけ読んでください。
[1] キャラクターのテーマ
[2] 概念的なモチーフ
[3] 歌のメロディ
[4] テーマの再構築

You can read the article in English here: 
https://note.com/ryuon00/n/n22aafc08e046

前置き: 当然ながらネタバレ注意です。素人採譜なので調号とかから間違ってるかもです。テーマ等の名前は私が適当に付けたものです。パーカスや明確な音程のない声のみのものは全部"x"の符頭でリズムだけ示してます。M.M.Keeravani先生のインタビューは今のところ読んでません。これは個人的なスコアの解釈です。英文直訳調なのは最初に英語で書いてそれを日本語に訳したからです。

[2023/2/2 追記:
映画音楽においては同じテーマが別の拍子で登場することがよくあります。楽譜に記したものはあくまでその一つであり、他のバリエーションもあり得ることをご了承ください。
また、ナートゥが6/8であることが判明したことにより([2]参照)、ほかの曲の拍子も見直しの必要性が出てきました。後に修正するかもしれないです。]

[1]キャラクターのテーマ

RRRのスコアの大部分はキャラクターのテーマです。多くのテーマはキャラが登場した瞬間に紹介されます。映画の中でも特に重要なモチーフを取り上げます。

最も印象的なテーマはラーマのテーマかもしれません。ラーマのテーマは以下に示した5つのモチーフで構成されています([1.1])。

これらのモチーフは別の組み合わせや違うアレンジで何度も登場します。
どれもあまりに激烈でもはや帝国的に聴こえるのが興味深いです。実際、前半では観客はラーマが警官になった目的を明確には知らないはずなので、ラーマを英国に仕える非情な警官と捉えることもできます(特にインターバル時点でのビームの視点ではそう)。

以上の5つのモチーフの他に、ラーマは後半に別のテーマをもらってます(Rama’s Theme(Motif)-6)。

個人的にはこのテーマは革命の闘士としてのラーマのテーマだと思ってます。実際映画内でフルに登場するのは2回だけ(少年ラーマの驚異的な銃の腕が明らかになるシーン(“Prodigious Precision”)と、 シータがビームにラーマの使命を明かした際の回想シーン)、曲の強烈さだけで記憶に残す力技です。このテーマは後半に出てくる別のメロディと非常に面白い関係があります([4]で解説します )。

一方、ビームのモチーフはラーマのモチーフに比べて変化が少なく、より反復的に聴こえます([1.2])。

ビームのモチーフ1はウンレエェ~~のやつ、3はヤラヤラヤ~ラヤ~ラヤラヤラッです。人の声とパーカスが大々的に使われており、野性的で原始的な印象を与えます。興味深いことに、全てのビームのモチーフは波のような形状をしています。ビームの「水」属性を意識してのことでしょうか。
ビームのモチーフ1はかなりインパクトが強く、登場シーンから流れますが、その他には総督邸襲撃の動物との登場シーンでしか流れません。ゴーンド族の守護者、「森を支配する虎」としてのビームといったところでしょう。

ビームのモチーフ2と3はよく聴くとたくさん使われてますが、ラーマのテーマと比べて音量的に小さく、さりげない使われ方です。

他に特筆すべきはマッリのテーマでしょう([1.3])。

主人公二人のモチーフに比べて、マッリのテーマはよりメロディアスでエモーショナル、そして長いです。RRR内では数少ない三拍子の曲でもあります。最初の登場はストーリーの始まり、マッリが子守唄を歌う前にハミングしています。アクタルがムスリムに扮して街へ向かうシーンなど、マッリに関連したシーンで流れます。長めに使用される場合は後半のメロディ付きです(The Latter Half of the Melody)。

"Malli's Existence is Evident"はジェニーがマッリと言った瞬間のアクタルの動転した様子がよく出ていていいですよね。ほとんどの登場は映画前半ですが、エンディング途中、マッリが遂に母と再会するシーンでも使われています。主人公二人のテーマがパーカッシブで短く、インパクト重視な傾向にあるのに対し、マッリのテーマは感情面に力を入れているようです。マッリは映画前半のストーリーの核なので、このような特徴的なテーマをもらうのも当然でしょう。

[2]概念的なモチーフ

キャラクターのテーマの他に、映画全体の精神性を表すテーマもあります。ドスティ、 Spirit of RRR、稲妻のモチーフ、"R"のモチーフです。

言うまでもないドスティは、主人公二人のまさに「流転する運命」、変わりゆく関係性を表すアツいテーマです。二人が出会い親友になる時、二人の友情が裂かれる時、真実を知ったビームがラーマに再会し、再び絆が結ばれ二人で戦う時に使われます。

便宜上ドスティと呼んでますが、実際には"Dosti"の歌が流れる前、二人の目があった瞬間(!!)から断片的に提示されています("Train Accident")。運命的で良い演出ですよね。おそらく最も分かりやすい頻出テーマなので、観劇中にテーマ探しをするならドスティから探してみるのもお勧めです。ちなみに、ドスティのメロディの中にはナートゥのリズムが含まれています([2.1])。

2023/2/1追記:
[2.1]内の「ナートゥのリズム」、"The Rhythm of Naatu"はナートゥの曲内では不正確ですね。改めてナートゥ内のナートゥのリズムと、ドスティ内のナートゥのリズムを下の楽譜に図解しました。音符の区切りが違いますが、拍子を無視すると同じリズム形であることが分かると思います。拍子に対する音符の位置が違うと全く印象が違って聞こえるのが面白いですね。

2023/2/2追記:
キーラヴァーニ先生御本人のインタビューより、ナートゥは12/8ではなく6/8であることが判明!ということで、画像のほうだけ正確な楽譜に直しました。
参考記事:'RRR' Wins Golden Globe for Best Song in Triumph for Indian Film Music - Variety

次に示す2つのモチーフはそれぞれ2回しか映画内で登場しません。
Spirit of RRR、サントラ内で同名のトラックは、映画の最初に流れる口ドラムのインパクト抜群なモチーフです。タイトル通り、おそらく映画の精神性"Rise Roar Revolt"を表すものかなと思います。 初見の人でも映画後半に再登場したときには気付いたのではないでしょうか。
Spirit Of Rrr - song and lyrics by M. M. Keeravani | Spotify

稲妻のモチーフはムルムルムルムルッってやつです([2.2])。

実際にはUrumu Urumu Urumu Urumu Urumuと言っているらしく、Urumuはテルグ語で雷、稲妻を意味するのでこう呼んでいます。初見からインパクトがあったように思うのですが、こちらも2シーンでしか使われてません。1回目はラーマの父がラーマに初めて銃を手渡す時、2回目はシータがラーマの額にティカを付け、見送る時です。ラーマの使命への長い旅路の始まりを象徴するモチーフと言えるでしょう。
Ram's Oath - song and lyrics by Ramcharan | Spotify

最後に"R"のモチーフを紹介します。人の声で“R”と言ってるのがエコーしてるようなやつです。サウンドエフェクト的な使い方で短いため、正直どこで使われてたかはっきり覚えてません! 印象ではシーンの切れ目を繋ぐためによく使われてたかと思います。劇中で何度も現れる「R(RR)」のイメージの一つでもあるでしょう。

(見ての通り声のモチーフの分析が浅いので、何か考察がある人は是非コメントしてください!!)

これらの声のモチーフは、限られた登場回数ながら、スコアのバリエーションを非常に興味深いものにし、映画全体の統一感を保っています。人の声を楽器のように使ったトラックはオーケストラのスコアと歌の橋渡しとなり、次々に登場するあらゆるアレンジのスコアと歌を違和感なく繋げています。
ハリウッド映画音楽好きとして、インド映画音楽における声の使い方は非常に興味深いです。RRRはスコア内の声の活用において大変良い例と言えるでしょう。

[3]歌のメロディ

ドスティの他に、注目すべき歌の中のメロディがいくつかあります。

1つ目は"Kombe Uyyale"、マッリが歌う子守唄の旋律です。このメロディが"Komuram Bheemudho"のメロディと同じことに気づいた方も多いでしょう。この旋律は最初にマッリが歌い、次にビームがマッリを見つける道標となります。さらに、ビームはこの旋律を通してマッリに語りかけ、"Komuram Bheemudho"では大地女神が歌を通してビームに語りかけます。鞭打ちのシーンの後、このメロディはオーケストラアレンジになって使われています。
Kombe Uyyale - song and lyrics by Prakruthi Reddy | Spotify
Spotify – Komuram Bheemudho - song and lyrics by Kala Bhairava

その他の重要な歌に"Janani"があります。この歌は3つのシーンで使われています。1つ目はラーマがビームを逮捕することを決意するとき、2つ目は少年ラーマが父親を撃つシーン、3つ目はラーマがビームを逃がすことを決意するシーンです。この3つのシーンに共通するのは「犠牲」です。ラーマはビームを犠牲にし、過去には自分の父親すら犠牲にし、最後にはビームを救うため自分すら犠牲にします。この歌は映画の最後で再登場します([4]で解説します)。
Janani - song and lyrics by M. M. Keeravani | Spotify

[4]テーマの再構築

やっと一番語りたいところに入りました!![1]~[3]はほどんど[4]のための資料です。以下の[4.1][4.2]に2つのテーマを図解しています。

一番分かりやすいやつから取り上げます。"Fire And Water"ではタイトルの通り、ラーマのモチーフ3とビームのモチーフ3、さらに悲劇的なアレンジのドスティが立て続けに流れます([4.1])。それぞれのテーマは映画内で既に何回も提示されており、二人の異なったキャラクター性とその対立を見事に描き出したトラックです。まさに「映像の音楽への翻訳」と言えるシーンでしょう!
Fire And Water - song and lyrics by M. M. Keeravani | Spotify 

 次の[4.2]に記載したテーマ、「革命のテーマ」(仮)は、ラーマのテーマ(モチーフ)6のベースラインと同じ音程の動きを含んでいます。

「革命のテーマ」は映画内でラーマのテーマ6より先に登場します。ラーマ父がラーマ叔父に「警察に入ってくれ」「武器は必ず集まる」と将来について話すシーンです。ラーマ父の台詞を考慮すると、「革命のテーマ」は(特にラーマ父の)革命の希望、同胞の解放を象徴するテーマと言えるでしょう。
OSTでは「革命のテーマ」は ラーマのテーマ6の後に編曲されています(“Prodigious Precision”)。これは映画内での登場順と逆であり、意図的な編曲かどうかは分かりません。個人的には、「革命のテーマ」のメロディがラーマのテーマ6のベースに転用されたと考えています(逆の可能性もある)。
どちらにしろラーマのテーマ6は「革命のテーマ」と関係があり、ラーマの革命の闘士としての姿を描いたものでしょう。 「革命のテーマ」は次に説明する“Lord, Aim, Shoot (Climax)”で激アツな帰還を果たします。
Spotify – Prodigious Precisio - song and lyrics by M. M. Keeravani

テーマの再構築の最たる例は、クライマックスのシーンで聴くことができます([4.3])。
このトラック“Lord, Aim, Shoot (Climax)”は、ラーマのモチーフ5、“Janani”と「革命のテーマ」を取り込んでいます。[4.3]に採譜(何でも大譜表……。)とテーマごとの分解を示しました。

(採譜してて気づいたことですが、どうも「革命のテーマ」は他のパートの小節から2拍分ずれた位置から入っているようです。小節線を合わせようとしたらカオスになりました。何が起こっているのかもこの記譜で合ってるのかも分かりません。音楽に詳しい人教えてください。まあとにかく続けます。)
「革命のテーマ」はここが活躍どころで、輝かしいアレンジから入り、次に穏やかなバージョンも流れます。“Janani”は 重なるように入り、不協和音に近いサウンドを作り出して緊張感を高めるのに貢献しています。気付きにくいですが、ベースはラーマのモチーフ5のテンポを上げたものが使われています。
Spotify – Load, Aim, Shoot (Climax) - song and lyrics by M. M. Keeravani

(全部ピアノで再生したらまたカオスな感じに……。)

警察官として同胞を逮捕し、村人に武器を届けるため、そして究極的にはインド人の解放を目指して何もかも犠牲にしてきたラーマの努力、そしてラーマに引き継がれたラーマ父の意志は確かにここにあるのです。ラーマとビームの戦いはスコット総督を倒した後も続くでしょう。しかし何と映画のクライマックスにふさわしいスコアでしょう!!ただのテーマのリフレインではなく、3時間の間に何度も使われ意味を持ったテーマ達の融合なのです。その上このトラック自体に緊迫感を高めシーンを盛り上げる力があります。映画音楽の役割、(1)雰囲気を作る、(2)観客の感情に訴えかける、そして(3)映像と台詞では語られない物語を描くという3つの点で完璧です!100分の1億点!!Bravo!!!

あとがき

RRRの音楽は一聴大げさに聴こえて、いや実際大げさなんですが、その反面よく練られており、強烈なモチーフの詰まった非常に聴きごたえのある骨太の映画音楽です。改めてM. M. Keeravani先生に敬意を!
RRRは映画館で6回観ました。映画自体がめちゃくちゃ面白いのはもちろんなんですが、テーマが使われてる場所が気になって観に行っちゃうんですよね……。ソフトが出たらまた確認したいです。

何か見落としてたり他に気付いた点がある方はお気軽にコメントしてください。
使われた楽器についてもさっぱりなので何か情報ある方お願いします!
最後まで読んでいただきありがとうございました☆

2023/6/3追記:〜この記事を書いた後10R目までに気付いた小ネタ〜
・ラーマが特別捜査官に昇進されなかった後キレながらトレーニングするシーンの音楽と、後半のラーマ回想でラーマ父登場→訓練シーンの音楽の最初の部分は同じ。
・「Fire」でラーマが壮絶な戦闘を経て拠点に戻ってくるシーンの音楽("Arrest That B"の4:05)が、ラーマ父が銃弾の真価を語るシーンの「解放だ」の部分にも数秒使われている。これは同じ音源に聴こえるので、なにか意味があると言うより映画音楽にたまにある使い回しに近いあれだと思います。何か考察のある方お願いします!
・Komuram Bheemudhoの最初の教会音楽的なコーラスは、別の調でキャサリンの最期のシーンに流れる。ビームの鞭打ちで血溜まりが見たいと言って茨の鞭を渡したキャサリンは、茨の有刺鉄線で巻かれて血を流して死に、ビームの鞭打ちを命じたスコット総督の額に血溜まりを作る。

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