愉快ジン#28

お正月は特にどこかに行くこともなく家で念願の食っちゃ寝(食べて寝ること)ができた。おかげで身体はすこぶる元気になったが、急激な暴飲暴食で逆に胃腸がお疲れ気味である。
そこで今日の昼食はうどんに決めた。向かった先は丸亀製麺。「いらっしゃいませ〜」エントランスを抜けると女性の甲高い声が響き渡る。一般的なユニフォームといえば調理白衣であるが、この女性だけは艶のある濃紺の割烹着である。だから柔道の帯色のように勝手にこの人が店長であると断定している。なんとも和装が似合いそうな大和撫子的な雰囲気のある方である。和帽子がすこぶる似合っている。しかしその割には口調が荒々しく、度々スタッフを叱責している光景を目の当たりにして少し萎える。
目が合って注文を聞かれる。だからいつも通り明太釜玉を注文する。次に「たまごかき混ぜますか?」と聞かれたので「お願いします」と答える。意外と太麺だとたまごをかき混ぜるのが難しい。だからこうゆうのはプロに任せた方が楽だし美味しいのだ。そして天ぷらコーナーに進む。
ところが、無い。。大好きなかしわ天が。。
すぐに店長に確認する。すると4分で出来上がるとのこと。「ふう、おどかしやがって」揚げ物が苦手な僕でも、かしわ天はむしろ好きな部類に該当するほどのものだ。これが食べられる日と食べられない日ではテンションの上がり方が全然違う。「お席までお届けしますのでお待ちください」と言われると、支払いを済ませ先にうどんを食べることにした。
「美味い」
何度同じメニューを食べても何回でも同じことが言える。それにしても、まだ4分経ってないのかな。みるみるうちにどんぶりから麺が無くなっていく。カウンター内では店長が大きな声で他のスタッフと談笑している声が聞こえる。こうして気がつくと、かしわ天が届く前に完食してしまった。よほどお腹が空いてたのだろう。だから早食いになってしまったんだ。そう思って完食後もかしわ天が届くことを待った。ところが一向に届く気配がない。時計の針は明らかに注文から20分は経っている。おかしい。異変を感じた僕は飛沫防止のアクリル板から顔を覗かせる。すると、なんということだろう。天ぷらコーナーには山のようにかしわ天が積み重なっている。しまった。「4分後に取りにきてください」を「4分後にお届けします」と勘違いしちゃったのか。そうだと思い、1人で恥ずかしい思いをしながらカウンターに向かった。そして「かしわ天もらってもいいですか?」と聞いた。すると店長がこの日1番大きな声で「ゔあっあ!」と言った。そして「大変申し訳ございません。お届けすることを忘れておりました。こちらからお取りください。大変申し訳ございません。2つでも3つでもお取りください。大変申し訳ございません」と呪文のように早口で唱え始めた。
その呪文の効果は絶大で、僕はまるで自分が悪いことをしたような気分になった。周囲の客の視線も一斉に降り注ぐ。側から見ると僕はもはやクレーマーである。ああ、気まずい。急いでかしわ天を食べる。正直味はもうどうでもいい。すぐに店から出て行きたい。少ない咀嚼で一気に飲み込むと食器返却棚へ向かう。すると次は店長に続き、白い割烹着を着たスタッフ全員が後ろに並び「大変申し訳ありませんでした。今後はこのようなことがないように徹底いたします。大変申し訳ありませんでした。またのご来店お待ちしております。大変申し訳ありませんでした」と朝礼の挨拶練習かの如く大きな声で謝罪された。
こうなると僕は極悪クレーマーだと周囲から認知されたことは確実である。勘弁してください。とにかく自分があくまでもクレーマーではないことを証明するために「全然気にしてないですよ。とても美味しかったです。次回も楽しみにしてます。また来ますね」といかにもきな臭い台詞を残してその場を後にした。頼む、この英国紳士も真っ青な台詞で吉となれ。
そして数時間後。
またかしわ天が食べたくなった。
だってさっきは味がしてなかったからね。
ああ、また今度行くの気まずいな。。
こうしてお正月にリフレッシュした身体はほんのり疲れたのでした。

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