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USJの成功、マーケティングで時流を掴む


「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方―成功を引き寄せるマーケティング入門」

著者:森岡 毅
神戸大学経営学部卒。96年、P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表などを経て、2010年にユーエスジェイ入社。革新的なアイデアを次々投入し、窮地にあったユニバーサルスタジオジャパンをV字回復させる。12年より同社チーフ・マーケティングオフィサー、執行役員、マーケティング本部長





序文


私が初めてUSJを訪れたのはオープンしてすぐ、父に連れられてのことだった。

それはもうとんでもなく混んでいて、並ぶのが何よりも嫌いな父がジュラシックパークやジョーズに目をやるはずがなく、比較的回転率の良いバックドラフトに弟と3人で並んだ。

無言で2時間並び、火災を見て帰った。


その後2回目に訪れたのは大人になってからで、
何故か私は足早に退散した父との1回でUSJを理解した気でいたのだ。


USJオープン当初の来場者数は1100万人と華々しいスタートを切ったが、翌年の来場者数は700万人へと急落し3年後の2004年に経営破綻した。

森岡氏が社長就任したのが2010年。
それまでのコストカット戦略で破綻状況は脱していたが、依然として来場者を伸ばすに至れてはいなかった。

集客やトップライン(売上)を伸ばすための経営戦略をどうするか、この問題解決にマーケターである森岡氏に白羽の矢が立ったのであった。

本書では、USJで行った実際の経営戦略と照らし合わせてマーケティング理論を説明してくれています。


ビジネスドライバーを理解する


ビジネスドライバーとは、
そのビジネスを左右する「衝くべき焦点」。
これを理解していなければ結果には結びつかない。


勝負する場所が違っていれば、どんなに苦労を重ねても徒労に終わるということです。

当時のUSJは映画を題材としたパーク整備によるディズニーとの差別化。
森岡氏はここにメスを入れた。


マーケ―ターとして、「どう戦うか」ではなく「どこで戦うか」を正しく見極める必要があった。
調査の結果、以下の戦うべきフィールドを設定した。



・ターゲット層を膨らませる

USJの立地上、自然と顧客層は関西に重点が置かれる。
そこからさらに映画ファンへと絞ることがそもそも首を絞めていた。
自ら母数を減らしていたのだ。


まず打ち出したのはターゲティング。
年齢層の幅を広げるためにも、映画と並ぶコンテンツであるアニメやゲームといった媒体にも焦点を当てる。


更に、関東から「3万の川」を、海外から「30万の壁」を取り払うだけのコンテンツはないか。

これがハリーポッターという世界を構築する戦略へと至った。
結果、魔法の国は関西という極小な枠組みを壊すには十分なコンテンツとなった。



・プロモーション

当時のUSJのCMはブランディングが伴っていなかった。

「正解最高を、お届けしたい」

これが森岡氏の打ち出したブランディング。


TVCMについての具体的な施策内容は詳しくは記載がなかったが、なにが体験できるのかを明確にインプットし、実際にパークで体験することでインプレッションを強化する。

これがブランドイメージを定着させるUSJのプロモーションとなっている。当然、ターゲットを意識した作りだ。




・プライシング

日本のテーマパーク品質は世界で一番高い。
にもかかわらず、当時のチケットは世界標準の半額で販売されていた。

この背景にあるのはTDR。
業界屈指のガリバー企業が、長年5500円という販売価格を提示していたため、各企業はこれをベンチマークに据えるしかなかった。
当時のUSJも然りである。


巨大テーマパークはテーマパーク業界全体に責任が及ぶ為、USJが尖兵となり世界水準に近づける必要があると考えた。


値上げに対する売上減少%を価格弾力性という。
テーマパークは嗜好分野であるから価格弾力性は大きい。

これを打破するためにも、先のターゲティングやブランディングを整備し、価格弾力性を小さくすることで売上・収益は何倍にもなるのだ。


マーケティングの本質


一般的にマーケティングとは、消費者と商品の接点を濃くするとか消費者理解を深める、ということになる。
色んな要素が絡み合った何となくのイメージを、森岡氏は端的に説明してくれました。


「選ばれる必然を作ること」


凄く納得できた。この言葉には色々な過程が含有されていると推察されます。
選ばれるために必要な基本的なこととして、3点掲げています。


・消費者の頭の中を制する

人間は忘れっぽい生き物。
ブランドエクイティ(消費者のもつブランドイメージ)を強くすることが消費者行動を制する原動力となる。

特に消費者に選ばれる強い要因となっているものを戦略的ブランドエクイティと呼び、ここを強固にするためにマーケターは行動し、それがブランディングと呼ばれるものになる。

マーケティング理論では、ブランドへのイメージを「資産」として捉えています。無形資産としてブランドイメージを捉え、追求することが選ばれるための第一歩なのです。


・店舗を制する

商品を購入する現場にも、制さなければならない要素があります。


【流通】
どれだけ認知やブランド力を強化しても、店頭に商品がなければ売上は増えない。配荷率を上げることもマーケターの仕事なのだ。

ここで重要になるのが流通業者に選ばれる必然を作れているか。
流通業者に対して競合他社よりもメリットを感じてもらえるかを考えなければならない。

単純に取引条件なのか、ボリュームなのか。
森岡氏が最も重要だとしていることは「消費者に強く求められている商品である」ことだ。
これは流通業者にとっても大きなメリットに成りえる。

マーケターとして流通にまで目を向けていることにまず驚いた。
ここでの選ばれる基準は自社製品力の延長線上でもある。確かに、競合商品が溢れ運び手が減少していくこれからは、流通業者が選ぶ時代に突入するだろう。
業者が運びたいと思わせる商品力が生残り戦略にも直結する。


【山積】
店舗に届けるだけがすべてではない。
どのように消費者の目に映るか。ディスプレイにもマーケターの手腕が問われる。

店頭で見つけてもらう為には?店頭プロモーションの戦略は?

一番重要なのは、消費者には購買タイミングがあるということ。いかに店頭でリマインドさせることができるかということにも目を向けなければならない。

これは空間デザインとかに近い話ですよね。
私が最近よく思うのは、何事もセンスが問われるということです。
数値化できない事象はこの世にたくさんあります。その時々の時流やニーズを把握するところからセンスの光り方が問われます。


【価格】
店舗で制すべき要素として最後に上げられるのが価格設定。
価格は高ければ消費者の手には収まらず、安ければブランドイメージを落としかねません。
ちょうどよい価格帯を設定するためにもマーケ―ターの仕事が光ります。
中長期的にブランドが発展するための価格を見極め、それに見合ったサービス展開を施していく。これが価格設定を考慮する際の重要なファクターです。


・消費者体験を制する

マーケティング理論では消費者の最初の購入をトライアルと呼びます。そして2回目はリピート、一定期間に何回購入に至るかの「購入頻度(purchase frequency)」を上げることを目的に置いています。

マーケターは消費者が体験して喜ぶことを前提とし試行錯誤します。
彼らからすると、どんなに収益の良い商品でも消費者を落胆させるものは世の中に出さない方がマシなのです。

消費者が「認知」してから「購入」しさらに「再購入」に達していく一連の流れを「パーチェス・フロー(purchase flow)」と呼ぶ。
この流れが悪いと商品は売れません。
マーケターは治水工事のように、この流れを改善することに尽くし、流れを作り出すために制すべきポイントをこのように導き出したのです。


跋文


そのほかにも多くの視点でマーケティングの観点からビジネスについて言及されていました。
私自身、マーケティングに関してものすごく矮小化して捉えてしまっていました。


マーケターという役が確立されている海外とは異なり、日本ではまだ浸透されていない役であるが故、多くの会社経営者の仕事範囲にマーケティングの本質が内包されてしまっていると感じます。

だからこそ、マーケターである森岡氏がトップに就くことが成長戦略として正しかった。
マーケターの認知度が低い中、社長として手腕を発揮することが大胆な革命に繋がり、マーケティング理論の重要性が認められる一助となったのは間違いない。


需要も市場も消費者心理も、マーケターが掴まなければならないものはすべて水物です。
一度の成功にしがみついているだけでは、水の流れとともに下流へと流されていくだけです。

映画でもエルモでも魔法でも。
しがみつけるものが何なのかを常に探し続けていくことが必要なのです。




家族3人で並んだあの日から、2度目の再訪は13年後。

弟と2人、「3万の川」を渡って魔法の国の門をくぐった。
カップルだらけの瘴気にあてられながらも、また来たいと思えるほど楽しんだ。
魔法以外のなにものでもない。



とにかく最後に言いたいことは、
関東~関西を「3万の川」と表現したセンスに脱帽したということ。




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