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雨女からの卒業

いつの頃からそうなのか、思い出せないほど昔っから、雨女だった。

実家に帰省する日は必ず雨。夏ならば台風。冬ならば爆弾低気圧もしくは大雪。
何ヶ月も前から予約やチケットを取るようなイベントに出かける日も、コンサートを聴きに行く日も。
修学旅行やら卒業旅行やらで箱根に行ったけど、晴れたためしがなかった。

楽しみにすればするほど、移動距離が遠ければ遠いほど、その日の天気予報には青い傘のマークがついた。

社会人になってからの複数人での旅行の場合は、幸い同行者が晴れ女や晴れ男であることが多く、うまく相殺されるのか、どんより曇ってもぎりぎり降られずに済むということが多かった。
大人になって何回目かの箱根で初めて晴れた芦ノ湖を見られたよ。
ありがとう友達。ありがとう夫。

在宅勤務になった後などは(近年のコロナ禍よりもずいぶん前)、職場に顔を出すのに家を出ただけで、雨がパラつき始めるレベルだった。
出社、楽しみじゃねーんですけど。
あとは通院の日も。楽しみじゃない。

おそらく、「楽しみである」というのは十分条件であって、「ずらせない予定、行かなければならない予定」が必要条件なのだろう。

もうそこまで来ると、天気予報だけで一喜一憂するし、チケットを取ったりお店を予約するだけで、はいどうせ雨だよねこの日は!という気持ちになってくる。
気にしなければいいのに。
薄々……以上に自覚はある。引きこもりが過ぎて、過剰に天気に敏感になっているだけだって。びょーき!

まあとにかく、気にすれば気にするほど気になる悪循環。
自虐的な話のネタとして「私やばいレベルで雨女なんで~」と言っていたら、両親に義父に夫に、もうとにかく「また雨なんじゃな~い?」とか言われてイライラすることも増えた。
それは自分で言いふらすからだよ。自業自得っていうんだ、それは。

初対面の人とか、雑談でもよく雨属性の話はした。
尋ねて「えー、どうかな、出かけるときに天気って気にしないから」っていう回答が返ってくれば、「天気が気にならないっていうことは、晴れ女(男)ですよ。天気を気にするのは雨が降るからです」と言って、私なんかいつも雨なんでと自虐的に笑った。

今でも面白かったなと思うのは、毎年恒例の(コロナ禍では以下略)夫の母方の法事に行ったとき、私の移動に伴って台風がくっついてきたことだ。
関東に上陸して、そのまままっすぐ西に進んで四国を越えたからね。こんな進路の台風は大変に珍しい、どういう気象条件なんだってすごくテレビでもやっていた。私の頭上はずっと大雨だった。
行けなくなるとかだと楽だったのに、飛行機だけはちゃんと飛ぶんだよなあ。

……とまあ、「いかに雨女だったか」をつらつらと書いてはきたけれど、今年の春頃から雨にほとんど降られなくなった。
相変わらず、台風が来そう!というハラハラは発生する感じの天気予報ではあるけど、逸れてくれたり遅くなってくれたりするのだ。

今までなら、通院の為に玄関のドアを開け鍵を閉めた途端、雨が降ってきた。それがなくなった。
むしろ、どんよりとした雲のままなんとか保って、目的地についてから降り始めたり、帰る頃には青空が見えたり。今までのことを考えたら、これはもう快晴と言っても過言ではない!(過言)

飛行機に乗っての法事へ向かう時も、遠くに台風ができても近寄ってこなかった。快晴。快晴っていうか猛暑。快晴じゃなくても酷暑。

単に今年が異常に暑かったのもわかっているけれど、とにかく雨の代わりに気温が高くなるという属性が付与されたとしか思えない暑さだった。春先から。

8月に入って幕張のイベントに行った時も、京葉線の車内でゲリラ豪雨が発生して、駅に着いた頃には止んだ。
イベント終わりも、規制退場で最後の方だったが、待っている間にゲリラ豪雨が再びやってきた。出口が減らされて待機時間は延びたが、順番が回ってきた頃には「豪雨おさまりましたんで、また出口解放します!」で、出られたし雨は止んでいた。

全部あげていくとキリがないが、コンサート当日にぶつかりそうだった台風は遅れてくれて無事開催されて聴きに行けたし、その数日後の通院にもかぶらなかったし、さらに翌日の友達との食事も問題がなかった。傘をさしていない。
(台風がずれた先の地域の人ごめんね、私のせいじゃないけど)

「すごい。本当に全然雨に降られない」
夫が唸ったのは、猛暑に入る直前だっただろうか。
AndroidにGoogleからの通知で「何時からそのへん雨でっせ」と通知が来ても降らないことが続いたからだったような気がする。

最近局地的すぎて当たらないよね~ってそのときは私が笑ったのだが、夫は違うよと言って、私のリングボックスを指した。

「その指輪だよ。本当に効いてるんだよ」

昨年の秋ぐらいから、天然石のアクセサリー、とりわけ指輪を集めてしまうという(貯金がもりもり削れるという意味で)ヤバい趣味にハマってしまった。

そのきっかけが何だったのかとかはまた別の機会に譲るとして、インスタでいろいろ眺めていたところ、ひとつのリングが私の心を捉えて放さなくなった。

とても小さな、わずかにブルーを感じるグレーの石の華奢なリングで、それは「アキシナイト」という聞いたことがない石だった。

とりあえず、昔っから知らない石のことは調べてみることにしてみている。
主に硬度を。誓って今まで手持ちの天然石をぶつけて割ったことはないが、生来自分の動作がガサツというか雑さに満ちあふれている自信があるので、あんまり取り扱いが難しい石だと困るなという思いは常にある。

なので、もちろんアキシナイトという石を調べた。
スマホで検索しただけで、硬度も簡単にでてくるんだけど、やっぱり花言葉ならぬ石言葉みたいなものも同時に載っていたりする。
ちょっとスピリチュアル寄りのページだったりすると、浄化の方法とか、その石を身につけることによってどういう効果があるとか、どこのチャクラに対応してるとか。
チャクラに対応する石があるっていうのはそのとき初めて知った。そんなのあるんだね。

そのリングが欲しかったのは、パワーストーン的な意味合いではないし、石の効果がどうのこうの、組み合わせがどうだ、浄化をしないといけない……というようなスピリチュアル的なことをまるっと信じていたつもりもないけれど、まあ元々信じる信じないは別として、八百万の神はいればいたでいいなと思う程度ではあるので、天然石に対しても、そういう力があればいいし、なくてもいい(綺麗でテンションあげてくれるなら)というスタンスでいた状態で、は、あったんだけども。

どこかのページに書いてあったのだ。
アキシナイトは「天候をも操る」力がある、と。

繰り返すようだが、引きこもりがすぎて視野が狭くなっていて、天気を気にしすぎているんじゃないかってわかってはいても、やっぱり何かと言えば雨、天気ばっかり心配しないといけないことに倦んでいた。
もしかしたら、このリングを身につけていたら雨が降らなくなるんじゃないか?
そう思ってしまったら、もっと目が離せなくなった。

アクセサリーに限らず、画面越しの写真と実物のイメージが違うというのはよく聞く話で、それなりにお値段もするし、でも一点ものだから明日にも売れてしまったら、二度と手元には来なくなるし……と毎日飽きもせず画像を眺めていた。

夫がそういうパワー的な何かを頼るようなタチではないのはわかっていたが、こういうパワーがあるらしいけどどう思う?と訊いてみた。
「本当にそうならそりゃすごいけど。好きにしなよ。そんな理由探すぐらい欲しいってことでしょ」
うーーん、まあそうだよな。そういうパワー的なことで欲しいって、欲しい理由を探して積み上げてる感じだよなあ。そっか、それを理由に追加するぐらいこのリングが欲しいのか。
よし、買っちゃえ。

そして私は、そのアキシナイトという石のリングを買った。
本当に小ぶりで、今他のルース屋さん(アクセサリーに加工される前の石単独の状態)のアキシナイトを見ても全然色が違う。
こんなにちょっと青味がかったようにも見えるグレーはなかなかない。
他のアキシナイトだったら欲しいと思わなかっただろうなと思う。

手元に来て、指にはめたとき、写真の角度的に見えづらかったから想像で補っていた色味とそうズレないし、小ぶりな渋い色の石が格好良くて、それだけで大満足だった。
だから、嬉しくて外に出る時は必ずつけた。

それが、春先だったのだ。

そして冒頭から書き連ねたように、私一人であってもドアを開けた途端に雨が降り出すことは急激に減って、傘を開く回数が減った。

あんまり続くので、「やっぱりこのリングのおかげじゃない?」と私が言い、夫はどうかねぇと笑った。

そうこうしていると、あまり私の周りに雨の降らない梅雨を過ぎて、夏がやってきて、台風は逸れて、晴れ渡って酷暑、ゲリラ豪雨は私を避けた。

今では夫の方が出かける前に、「ちゃんとあのリングつけた?」と訊いてくる。
晴れていても、夕立的なゲリラ豪雨が来そうかなと思うときには私が「つけたほうがいいと思う?どうかな」と相談し、「つけといて!」と答えが返ってくる。
完全にパワー信じちゃってるじゃん、と私は最後に笑うんだけど。

アキシナイトにそういうスピリチュアルな力が本当にあるのかどうか、それは私は知らないし、あれ以降、他の石に対してそういう見方はあんまりしていない。
誕生石のガーネットは「友愛」だっけ?ぐらいしかわからない。
オパールとかオレゴンサンストーンとか好きになって色々調べたりしても、意味とかどういう効果があるかとかはあんまり頭に残らない。

やっぱりあの時目が離せなくなって、「天候を操る」という文字が大きく見えて、今そういうお守り扱いになっているのも、そのときの私に必要だったからなんだなと思う。

別に本当に指輪のおかげだったらありがたいけど、そうじゃなくたって良い。
実際雨に降られるのが減ったのも事実ではあるんだけど、やっぱり前から出かけようと思っていた日に、よりにもよって今日かよっていうタイミングで台風も来た。
まあ、これを書いている最中だったんですけど(数日どころか数ヶ月かけて書いてる)。

来たんだけど、結果ちょっと雨強い日ってこれぐらい降るよねっていう感じの雨で出かけられたし、電車は普通に動いていたし、帰る頃には霧雨レベルで傘はささなかった。
なにそれ驚異的なパワーじゃん!っていうんじゃなくて、実際雨には降られているんだけど、「それぐらいで済んで良かった」「でかけられてよかった」って思えて、何より数日前から「いやだー台風来て行けないかもー!!」とジタバタした後に、「いやでも出かける時間は大丈夫になったりするんじゃ?最近そうだし!コイツ着けていけばなんやかんや大丈夫でしょ!」と思えるようになった。
本当に効いてんのか知らんけど、までがセット。

つまりは、心の余裕の問題だ。
あんまり好きな言葉ではないんだけど、結局は「気の持ちよう」と言えばいいか。

天気は多分大丈夫、と思えるようになったからこそ、記念日の旅行に「晴れることが前提で雨が降ったらあんまり何もすることがない」と口コミされるようなリゾート施設を予約する気にもなった。
もちろん周りには、天気に左右されすぎるところに行くなんて大丈夫なのか正気かぐらいの反応をされたが、普通にさらっと流せた。
そして実際その旅行の3日間、快晴だった。すごい。恐るべき変化!

リングを買う前から、晴れ女晴れ男になるには、やっぱり心の広さというか、鷹揚さというか、性格の明るさみたいな、そういうのが関係してるんだろうなと思っていた。大丈夫、雨が降ったら降ったでそのとき!みたいな。
そういう大らかさがあるから晴れるんだろうな、私みたいにどうせ雨だ、雨にちがいない、どうして私ばっかり、みたいな考え方をしているからダメなんだ。

そういう負の思考を、たったひとつのリングが吹き飛ばしてくれた。これはそういう話だ。
他のリングは、その日の気分や気持ちを少しでも持ち上げる為のお守りなわけだし、これからも、アキシナイトのリングは天気のお守りとして身につけていればいいかな。
そう思わせてくれるのだから、それでいい。そう思っている。

☆☆☆☆
ずーーっと放置していて、しれっと記事を公開する。
それもまた良しということで!!

書きたいけどサボりすぎてて、入りどうしようかな~とか悩んでる方が無駄だなって思いました。思い切りが大事。
もう数日で2023年終わるけど……寝かせすぎだね。
来年雨女に戻ってたら、笑ってやってください!!!

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