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白い空と、青い雲

静かな朝だった。小さく寄せる波打ち際が、ぼくは大好きだ。雲1つない、だだっぴろい青いキャンバスも、ぼくは大好きだ。

そんな海と空を背に、ぼくは一本道を歩いていた。でこぼこのない、ひたすらに真っ直ぐに続く一本道を。

思えば、それがすべての始まりだった。



この街のことを、ぼくはまだよく知らない。
知っているのは、朝から夜まで、太陽が沈まないということだけだ。雲の割れ目から朝日が昇るのを、見たことがない。夜の世界に、足元を照らす光も、ぼくは見たことがない。

ぼくがこの街のことを知らないように、この街も、ぼくのことを知らない。ぼくの好物が、穴のあいたドーナツだなんて、知る由もない。

吸ったか吐いたか分からないくらいの、深呼吸をする。正確には、ため息に聞こえるかもしれない。言っておくけれど、つまらないからじゃない。苦しいからでもない。
ぼくにとって、この深呼吸が、一日の始まりだ。ここに来てからは、朝はそうやって迎えている。もちろん、太陽は沈まないけれど。

ぼくはたいてい、長い長い時間をかけて、散歩をする。この街へ来る前は、大好きなあの波打ち際を歩くのが日課だった。何年もずっと、そうしていた。

ココロが体に語りかける独特なリズムに合わせながら、一歩一歩、踏みしめた。ぼくが歩いたように、さらさらの砂が、ぼくの足跡を作り出した。

でも今は、その独特なリズムに合わせて歩くことができない。

ぼくは今、空のずっとずっと上にいる。

ひとは、この街のことを「天国」と呼ぶ。

むかし、おじいちゃんが言っていた、あの「天国」と同じだろうか。たくさんの人がいつか目指す、あの「天国」と同じだろうか。ぼくには、まだ分からない。

でこぼこのない、ひたすらに真っ直ぐに続く一本道。思えばそれが、すべての始まりだった。

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