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雪色キャンバス

西野 夏葉さんが企画して下さったアドベントカレンダー2022に
12月7日で参加させていただく鈴萄 凛(りんどう りん )と申します。

赤鼻のトナカイの歌を使って小説を書いてみました。
(あいうえお作文を歌で書いた感じです)
よろしくお願いします。


 来ない彼女

まっ 赤になった手をこすり合わせながら、僕は彼女を待っていた。

か  の女が遅れてくるのはいつものことだ。 

な  んでも引受けてしまう彼女は、今日も仕事に追われているのだろう。

お  店の予約時間は余裕を持たせて遅めにしてあるから心配ない。

は  じめて出会った頃から彼女は少しも変わらない。

な  つかしい思い出にひたっているうちに1時間が過ぎていた。

の  んびりさんな彼女だが、連絡なしにここまで遅れたことはない。


と  中で道にでも迷っているのかもしれない。

な  かなか来ない彼女が心配になってきた。

か  の女からメッセージを確認するが、連絡が来た様子はない。

い  くらなんでも遅いので電話をしてみたが、彼女が出る気配はない。

さん たくろーすに彼女が早く来るようにと祈ってみる。

は  しゃぐ街の恋人たちを眺めながら、指輪の箱を握りしめる。


い  つもとは違う特別なクリスマスにしようと準備をしてきた。

つ  きあいも今年で10年になる。

も  うすぐ社会に出て3年、彼女もそろそろと思っているはずだ。

みん なが楽しそうに通り過ぎていくのを、僕は静かに眺め続けていた。

な  んだか寒くなってきたと思っていると、雪が舞い始めた。

の  みものを買いに行こうと、待ち合わせ場所を少し離れた。


わ  ずかな時間で雪は積りはじめ、僕は外での待ち合わせを後悔した。

ら  い年のクリスマスは一緒に家で過ごすのがいいかもしれない。

い  くら待たされたとしても、家なら寒くない。

も  うすぐお店の予約時間が来るので、時間を変更できないか確認する。

の  んびりした声の店主が快く変更を受け入れてくれた。


 優しい彼

で  -との約束の時間はとっくに過ぎている。

も  う何回遅刻したかわからない。

そ  れでも彼はいつも笑顔で、怒られたことがない。

の  り間違えた電車で寝てしまわなければ、今日は間に合うはずだった。

と  っておきのおしゃれをしてきたのに、大失敗だ。

し  っかり寝るべきだったのに、昨晩ドキドキして眠れなかった。

の  り換えて電車で戻るとまた寝てしまうかもしれない。


く  つはハイヒールなので走れない。

り  そうを言えば靴を脱いで走りたいのだが、雪が冷たくてできない。

す  ぐそこにタクシーが1台見えるのに、階段が私の邪魔をする。

ま  横をスーツの男性が駆け下り、タクシーは行ってしまった。

す  ぐに次のタクシーが来たのでほっとした。

の  りこんだタクシーの中で彼に連絡する。

ひ  どく寒いに違いないのに、彼の声はいつもと変わらず優しかった。


さん ざん待たせているのに怒るわけでもなく、私の心配をしてくれた。

た  くしーの中で彼の優しさに涙がこぼれ、胸が熱くなった。

の  り心地のいいタクシーの運転手に私は行先の変更を伝える。

お  店は知っているところだったので直接そこへ向かうことにしたのだ。

じ  つは今日が特別な日になることは前から知っていた。

さん 週間ほどまえに指輪を買う彼を見てしまったのだ。

は  つ恋の彼と結婚できるなんて夢のようで、心は舞い上がった。


い  まは毎日会えないけれど、結婚すれば彼といつも一緒にいられる。

い  い事ばかりじゃないかもだけど、彼と二人なら乗り越えられる。

ま  だまだ未熟な私だけれど、彼を癒せる存在になりたい。

し  あわせな毎日がまっていると思うと、それだけで心が躍る。

た  のしい結婚生活に思いを馳せながら、彼のもとへ向かった。


 思い出のお店

く  りすますの夜だというのにその店はまるで貸し切りのようだった。

ら  いとあっぷされた街並みが見える特等席が用意されていた。

い  ままで何度も通った思い出の店だが、忙しくてご無沙汰していた。

よ  くくる僕がプロポーズをするならと特別に店を開けてくれたらしい。

み  るからに優しそうな店主はもう年で、今はランチ営業だけだという。

ち  ょっと申し訳ないと思ったが、店主のやさしさに甘えることにした。 

は  じめて彼女と食事をしたのもこの店で、今日の日にぴったりなのだ。


ぴ  んくに頬を染めた彼女はその時まだ高校生だった。

か  わいいと評判の彼女に告白されたのだが、天にも昇る気持ちだった。

ぴ  んちを助けてもらって好きになったと彼女は言うが、記憶にない。

か  の女は知らないのだが、僕の方は高校入学の日に一目ぼれしたのだ。

の  んきにいつか告白しようと思っていたら、彼女に先を越されたのだ。


お  店はノスタルジックで落ち着いた雰囲気を醸し出している。

ま  だ高校生だった僕たちは、月に一度お茶をするようになった。

え  がおの彼女がおいしそうにケーキを食べる姿を見るのが好きだった。

の  っぽな僕には扉が低すぎたが、中の天井は高かった。

は  つ恋の彼女にかっこをつけて、好きでもないコーヒーを頼んでいた。

な  んと言っても店主の優しい雰囲気がにじみ出ている素敵な店だった。

が  っ校を卒業した後は年に数回ディナーにお邪魔するようになった。


や  さしい店主と話しながら彼女を待つ。

く  ろうして守ってきたお店だというが、今年いっぱいで閉めるらしい。

に  がいコーヒーも好きになったが、他のコーヒーは今も苦手だ。

た  いせつな店なので続けたかったらしいが、一人では限界だという。

つ  まがいたころは良かったと店主は懐かしそうに語る。

の  こされた店主に跡継ぎはなく、続けたくても続けられないのだ。

さ  いこうのお店がなくなるのは嫌だが、どうしていいかわからない。


 幸せのはじまり

い  つもは満席だったその店に自分たちしかいないことに驚いた。

つ  いて間もなくおいしそうな料理が運ばれてきた。

も  うこの店がなくなるのだと聞いて動揺が隠せない。

な  つかしい思い出がいっぱいつまったお店がなくなることが悲しい。

い  まは特別な彼との時間に集中したいのに、お店が気になって難しい。

て  のひらをぎゅっと握りしめて、気持ちを切り替えた。

た  のしい時間はあっという間に過ぎて行き、特別な時間がやってきた。


と  っくに知っていたけれど、彼にないしょなので知らないふりをする。

な  れない手つきで指輪の箱を開ける彼の手は少し震えていた。

か  れの素敵なプロポーズの言葉に、私は涙を浮かべながら頷く。

い  ち日も早く結婚したいと彼は言う。

さん どうしたい気持ちはもちろんある。

は  やく結婚したいのは私も同じなのだ。


こ  のまますぐに結婚して一緒に暮らしたいが、さすがにそれは無理だ。

よ  く考えて結婚式の日程を二人で決めることにした。

い  っしょに暮らすのはやはり結婚してからがいい。

こ  ふうな考え方だが、結婚式後に同居を始めることになった。

そ  っと彼に抱き上げられて、新居の扉をくぐることを夢見ていたのだ。

は  んぼう期真っ最中の彼が今、新婚旅行の長期休暇をとるのは無理だ。

と  んぼ返りはいやなので、桜の季節に結婚しようと決まった。


よ  るも更けてきてそろそろお店を後にする時間がやってきた。

ろ  うそくの日もわずかになったところで、私は彼にある提案をした。

こ  の店を店主が続けたいなら、私がその手助けをしたいと。

び  っくりした彼だが、私の夢がお店を開くことだと思い出してくれた。

ま  ずは店主の気持ちを聞いてみたが、思いのほか喜んでくれた。

し  ろい雪がカラフルなイルミネーションに染まるのが窓の外に見える。

た  くさんの幸せへの期待で、雪色な心のキャンバスも染まりはじめた。


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