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地域のつむぎ手の家づくり|伝統と革新の地域をつなげる仕事<vol.05/八清:京都市下京区>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の<地域のつむぎ手>は・・・

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「すごく色々なことをやっているので、端から見れば何の会社だろうという感じだと思いますよ」と話すのは、八清(はちせ)の西村直己(にしむら・なおき)さん。京都市生まれ京都市育ちの生粋の京都人です。
新築・リノベーション工事だけではない、会社の枠からはみ出すような幅広い取り組みをおこなっています。
不動産オーナー、施主、行政、クリエイター、デザイナーなどさまざまな関係者とコミュニケーションを取りながら、最適な答えを探す。毎日が模索の連続だといいます。

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細い路地を入っていくと、新旧さまざまな家屋が立ち並ぶ中に、趣のある京町家がありました。
入り口には「五条モール」との看板が。

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…モール?と不思議に思ったものの、中に入れば、めくるめく「モール in 京町家」が広がっていました。

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1階にはバー「えでん」とギャラリーショップ、2階には雑貨店やアニメーションギャラリー、ブックギャラリーなど、部屋ごとに多種多様です。

ささやかに人に寄り添うような作品がテーマの小さなギャラリースペース「bgm gallery and shop」の店主・大久保さんは、作品の展示や販売などもおこないながら、このモールでの活動を楽しんでいます。
「私も前の入居者の方から紹介してもらったんですけど、変わった人が多いですよ(笑) 来る人も面白い人ばかり。出ていくときも、入居者同士で次の人を紹介するような感じですね」

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203号室の「Choki_Loni(チョキロニ)」では、セレクトした雑貨のほか、デザイン学校の学生による作品の販売もおこなっています。
ほかにも、短編アニメーション作家の作品を上映し、グッズの販売もおこなう「五条アニメーションギャラリー」など、それぞれに想いを持った店主が店舗を開いています。

この建て物自体のオーナーが、実は八清なのです。
「あえて、僕らはほとんどタッチしないようにしています。その方が、なんか面白いものができそうでしょ」(西村さん)

ひとつの建て物に様々なカラー・スタイルが入り混じっているのに調和しているのは、長い歴史を持つ町家だからこそ。
住宅会社のひとつのアイデアが生んだ“モール”では、観光では出会えないディープな京都が育っていました。


「暮らしを豊かにする」コワーキングスペース

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「暮らしを豊かに」。
その想いから、西村さんが京町家をリノベーションし、「コワーキング∞ラボ 京創舎(きょうそうしゃ)」が誕生したのは、2016年夏のこと。

「一人ではなく、みんなで色々な問題を解決できる場所にしたいという想いがあって」と西村さんは振り返ります。

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利用者はIT系、翻訳家、建築設計士、心理学の先生、漫画家とさまざま。
1階のオープンスペースの壁面には大きなホワイトボードが掛かっており、そこには各々が自由に記入できます。
ボードを通じて時折イベントが開催されたり、部活のような取り組みもおこなわれていたり。

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2階はシェアオフィスになっていて、事務所や作業場として使われています。
利用者の男性は「こんな交流が盛んな場所はないですよ。普段は各々が作業していますが、みんなでカレーを作ったりして息抜きをしながら、互いの取り組みを共有したりしています」と話します。

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ここに勤めるスタッフの馬場さん(写真右)は、自身も京創舎から影響を受けた一人だといいます。
「ここには独立を目指す人や、夢を実現したい人がいます。すでに実現している人もいて、気軽にアドバイスをもらえたり。そういう出会いが大きな助けになりました」と、自身の夢を後押ししてもらったそう。

地元の住宅会社だからこそできる、地域に住む人のより豊かな暮らしに向けて作られたスペース「京創舎」。
ここは、課題を解決するアイデア・ヒト・可能性が集まる場所なのです。


西村さんの根底にあるのは、仕事を通じて「職・住・遊で町を魅力的にすること」。
もちろんお金も稼がないといけませんが、「それだけではだめだと思っています」と話すのは、地域と常にともにある住宅会社だから。

売っておしまい、というわけにはいかない。
ひとつひとつの物件を手掛けることがまちづくりになっている。
西村さんからは、そんな想いを強く感じます。


※本記事は、新建ハウジング/新建新聞社が発行した「jimosumu/vol.01」(発行:2018年8月30日)掲載記事を再編したものです。

ライター : 盛山浩平
撮影   : 佐藤大史(佐藤大史写真事務所)、一部八清提供
編集   : 松本めぐみ(新建ハウジング・統括デスク)



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