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熊本「TSMC祭り」から

多くの方がご存じかとは思いますが、いま九州の熊本が熱いです。
2月24日、世界最大の半導体受託生産会社(ファウンドリー)、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)が熊本県菊陽町に設立した工場の開所式が開かれました。

地元では▼無人駅で通勤ラッシュ、▼工場関連の仕事は時給2000円、▼土地を売って3億円をゲットした、▼パン屋では「台湾唐揚げバーガー」が登場… まさにお祭りです。

詳しくは、こちらの動画を↓

地方が突如としてやってきた好景気に沸く。いいことです。
一方で、俯瞰すると気になる点もあるので、それらをコンパクトに書こうかと。
けっして熊本の盛り上がりに水を差したいわけではなく、日本の半導体生産全体についての話です。


見出しを飾った「ソニー会長との思い出」

熊本での工場開所式にはTSMC創業者の張忠謀(ちょう・ちゅうぼう/Morris Chang)氏が出席してスピーチしました。彼はTSMCを創立したきっかけの一つはソニーの故・盛田昭夫会長との交流であったというエピソードを語り、多くの日本メディアがそれをニュースの見出しに取りました。

私も大手メディアにいたので、こういう見出しにした記者やデスクたちの判断過程は容易に想像できます。
「ウォークマン」などで世界を席巻したソニー→そのソニーを牽引した偉大な起業家・経営者の盛田昭夫がTSMCの出発にも絡んでいた→おお、日本人の琴線に触れる話じゃないか→よし、それが見出しだ…

分かります。そもそも今回の熊本工場にはソニーも参画しているので、張忠謀氏も盛田昭夫とのエピソードを紹介したのでしょうし、それをメディアがニュースにするのは自然なことです。

ただ、そこには否が応でも「世界のSONY」へのノスタルジーが色濃く反映されます。過去の栄光。
そういう話はサイドストーリーにとどめるべきだと思うのです。台湾メディアの記事をチェックすると、今回の工場設立が半導体基板の供給網強化につながることへの期待や、環境に配慮して再生可能エネルギーが工場に導入されることなど、現在のことについて張忠謀氏が語った話がメインです。

日本と台湾では盛田昭夫の知名度が違うことを差し引いても、私のような「ウォークマン世代」のデスクたちが主導したとおぼしき日本メディアの視点は、気になりました。

TSMCを招致して「打倒TSMC」?

話は熊本から離れて、北海道へ。
日本の半導体生産でもう一つ注目されているのは、「ラピダス」です。トヨタ、デンソー、ソニー、NTT、NEC、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJ銀行が出資して2022年8月に設立された新会社。
日本政府も約3000億円助成することから分かるように、完全に国策会社です。

その国策会社「ラピダス」は北海道千歳市に工場を設立し、「2027年までに回路線幅2‌nm(ナノメートル)の最先端半導体を量産する」ことを目標に掲げています。
1nmは、1メートルの10億分の1。適切な形容詞が思い浮かばないほど微細な世界の話です。

専門家ではないので詳細は省きますが、半導体はこの「nm」が小さくなるほど最先端となります。各種報道を読む限り、TSMCは3nmに到達して世界のトップ、次いで2年から3年ほど遅れての開発ペースで韓国のサムスンが3nmに手が届きかかっている、とのこと。
競争は熾烈で、nmの数字を一つ減らすだけでも大変な投資と研究が求められます。

ちなみに、今回熊本にできたTSMCの工場が生産するのは主に12nm、今後建設する方向の熊本第2工場では6nmを計画していると伝えられています。

さて、国策会社「ラピダス」は27年までに2nmの半導体をつくるとしているわけですが…
現在、日本企業は40nm未満の半導体をつくることができません。世界から10年は遅れているとされています。
つまり、「ラピダス」は40nmから一気に2nmまで、途中の段階をワープのようにすっ飛ばして頂点に立とうというわけです。

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