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ゴール地点が消えるか 「一帯一路」

上の写真は2019年の春にイタリアのトリエステ港で撮ったものです。取材で訪れた時、ちょうど中国の大型コンテナが陸揚げされていました。トリエステ港は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」でカギを握っています。「一帯一路」のうち「一路」にあたる「海上シルクロード」において、中国から出航した船舶は東南アジアを経てインド、アフリカ、アラビア半島沿岸を経由し、最後は地中海を通ってトリエステを目指します。つまり、トリエステは「海上シルクロード」のゴール地点です。
イタリアは、2019年、アメリカなどからの怒りを買いながらもG7で唯一、中国と「一帯一路」に関する覚書を交わし、チャイナ・マネーの経済効果に多大な期待を示しました。
しかし、2023年夏、イタリアは「一帯一路」からの離脱を決めた模様で、「海上シルクロード」は漂流する兆しを見せています。


「友、遠方より来たる」

北京で10月17日、「一帯一路」の国際フォーラムが始まりました。中国政府は、これを今年最も重要な外交行事と位置づけています。なにしろ「一帯一路」は習近平国家主席の肝煎り。共産党にとっては何が何でも成功させないといけません。
ロシアのプーチン大統領も北京詣でをしました。CCTV(中国国営中央テレビ)はプーチン氏の到着を「友、遠方より来たる」と速報したとのこと。プーチン氏にとっては3月にICC(国際刑事裁判所)から逮捕状が出てから初めて旧ソ連圏を出ての外国訪問です。中国はICCの逮捕状は無視するというわけです。

しかし、習主席が期待していたほど多くの「友」は今回のフォーラムに来ていません。
中国の国営メディアは、17日夜の時点で20を超える国の首脳や政府要人が着いたとしていますが、外務省は参加国の数を公表していないのです。前回のフォーラムが開かれた2019年には38か国の首脳らが参加したと発表しているので、今回は数を伏せるというのは、まあ、下回るのでしょうね。
イタリアのメローニ首相が行かなかったのは確かです。

米中の間で立ち位置を模索するイタリア

イタリアのメローニ首相は、9月、インドで開催されたG20サミットで中国の李強首相と会談した際、「一帯一路」から離脱する方針を非公式に伝えたと報道されています。
イタリアに長く在住する日本人ジャーナリストによりますと、2019年に当時のコンテ政権が「一帯一路」の覚書に調印したのは、連立政権に入っていたポピュリスト左派政党「5つ星運動」の意向が強く働いたといいます。しかし、昨年、総選挙によって右派連合のメローニ政権に交代した時点で、「政敵」といえる左派政党の実績はご破算にするのが自然な流れであったということです。

そもそも、「一帯一路」への調印後、トリエステ港整備をはじめ約束されたはずの各種インフラ開発のプロジェクトは、イタリアでは殆ど動いていなかったといいます。これにはイタリア側にも落ち度があったと思う、と日本人ジャーナリストは話します。
加えて、「一帯一路」をめぐっては「中国だけが利する」という指摘や、貿易にとどまらず安全保障面でも中国が影響力を拡大する危険性が語られるようになったのも大きかったといいます。

より大きな視点でみると、メローニ首相率いる「イタリアの同胞」は「極右政党」と目されていて、EU内で根強く警戒されています。そこで、メローニ首相としては、アメリカのバイデン政権との関係を密接にすることで欧州での孤立感を薄めたいという思惑も、「一帯一路」からの離脱にあるようです。バイデン政権としても、ウクライナ情勢を踏まえれば、地中海そしてイタリアは、地政学的に重要です。
米中対立という大きな構図の中でイタリアも自分の立ち位置を模索しているというわけですね。

「友」が足を引っ張る「一帯一路」

トリエステは、古くから関税の優遇措置が受けられる「自由港」として繁栄してきたという歴史を誇ります。

トリエステ中心部の広場

一方で、かつての東西冷戦の時代、トリエステは東西両陣営を隔てる「鉄のカーテン」の南端と位置づけられました。世界の分断を象徴する地ともなったのです。
現在、アメリカを中心とした「西側」民主主義と中露を軸とした「東側」強権主義との対立は、新たな冷戦の様相を呈しています。とりわけウクライナ侵攻をめぐって欧米とロシアは後戻りできな断絶状態となる中、中国は、ロシアを陰に陽に支えながら、イタリアなど欧州を「一帯一路」構想につなぎとめようと必死です。「二兎を追う」の典型といえます。

しかし、やはり無理がありますよね。習近平主席がプーチン氏を北京に迎え入れて和やかに握手をし、ウクライナ侵攻に何も苦言を呈さないようであれば、「一帯一路」構想はヨーロッパにおけるゴール地点がいよいよ消えることにつながるでしょう。
中露首脳会談は10月18日に予定されています。

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