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過去をより遠くまで振り返ることができれば…

タイトルは、多くの名言を遺したウィンストン・チャーチルの
「過去をより遠くまで振り返ることができれば、未来もそれだけ遠くまで見渡せるだろう」から拝借しました。

The farther backward you can look, the farther forward you are likely to see.

Winston Churchill

歴史をしっかり見つめてこそ未来への指針が見えてくる、という意味ですが、実際にはそう簡単ではないな…と考えさせられた年の瀬です。


関東大震災での悲劇

平日の昼下がり、新宿にある「高麗博物館」を訪れました。会期末が迫った展示会「関東大震災100年 隠蔽された朝鮮人虐殺」を観るためです。今年が1923年(大正12年)の関東大震災から100年の年であったことに合わせて開催されました。

筆者撮影

関東大震災で起きた朝鮮人虐殺をテーマにした展示会は、過去にも3回、「高麗博物館」で開催されてきました。
しかし、博物館の小川哲生理事によれば、今回は来場者が7月の開幕から11月末までで約4000人と今までになく多いとのこと。
私が訪れたときも、子連れの若いお母さんや年配の夫婦などが入れ代わり立ち代わり来ていました。

筆者撮影

来場者が増えた背景には、「やはり今年が関東大震災から100年という節目の年であったことが大きいですね」と小川さん。
加えて、近年、一部の政治家らの間で、当時の朝鮮人虐殺を「なかったこと」にしたいかのような言動が目立つため、「実際、どうだったのか」と自ら確認したいと考える人も少なくないでしょう。

韓国併合と朝鮮人虐殺のつながり

一連の虐殺事件の正確な犠牲者の数は、今なお分かっていません。2009年に内閣府の中央防災会議が発表した報告書には、震災当時、朝鮮総督府が朝鮮人の死者・行方不明者を832名として、1人200円の弔慰金を遺族
に支給したことが記されています。これは、震災そのもので死亡したのか日本人に殺されたのかの区別はされていない人数です。
一方、報告書は、他の調査では約2600人説、約3500人説、約6600人説があることにも触れています。
なお、流言飛語に煽られた殺人事件では、中国人や、朝鮮人と間違えられた日本人も犠牲となっています。

淇谷(きこく)「関東大震災絵巻」より

事件をめぐっては、「甚大な災害が起きたとき、パニック状態になった人々がいかに流言飛語に振り回されやすくなるか」という典型例として語り継がれてきたように思えます。

しかし、今回の展示を観て、それだけでは全体像を理解できないと気づきました。極めて不安な心理に陥った人々がデマに踊らされた…それは確かにあったでしょう。
一方で、誰がデマを拡散させたのか、デマの信ぴょう性を高めたのかにもう少し注意が必要だと分かりました。

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