目的地への到着が人生のゴールではない「宇宙よりも遠い場所」

物語が円を描いたとき、それは大きな推進力になる。
丸く大きな円は、ころころと転がって、たとえ目的地にたどり着いたとしても、そこで留まらずその先も転がり続ける。ちゃんと進み続けていける。
そんな気がする。

女子高生、南極へ行く

「宇宙よりも遠い場所」は女子高生4人が南極を目指す物語。それだけ聞くと、ふーん?て感じだ。いけるの?みたいな。
正直、女子高生には食傷気味。日本人、女子高生好きすぎじゃない?まぁ私も好きだけど。
ところがこのアニメは、派手さや分かりやすい萌えはないけれど、けっこうリアルで、図書館のヤングアダルトコーナーのオススメに置いておきたいような、丁寧に心の動きや人間関係を描いた正統派青春冒険譚なのだ。

※ここから先、本編のネタバレ(特に12話)を多分に含みます。ご注意ください。

南極を目指す。その中心人物は小淵沢報瀬(こぶちざわ・しらせ)、高校2年生。彼女の母は南極観測隊員で、3年前、南極で消息を絶った。報瀬は、母に会うため南極を目指す。

無理だとバカにする周囲を蹴散らして、バイトに励んで資金100万円を貯めて、観測隊員に何度も何度も突撃して、なんとか南極へ行こうとする。孤高の猪突猛進娘、報瀬ちゃん。

美人なのに南極に行きたいという変人だったり、夢に突き進んで来た分人付き合いが苦手だったり、あがり症だったり、なにかとアンバランスな報瀬ちゃんだが、主人公やその他メンバーと出会い、色々あって民間調査隊とともに南極へ行く。その熱意は本当にすごい。意外とあるかもしれない、と思わせるリアルさで女子高生が南極へ行ってしまう。

その場所へ、向かうかどうか

南極へ到着してしばらく経ち、母が消息を絶ったその場所(天文台建設地)へ、行ってみるかと観測隊隊長から誘われる報瀬。
普通の女子高生が南極に来てしまうくらい、意地を通して粘って粘ってここまで来た彼女だから、喜んで飛びつくかと思いきや「考えさせてほしい」との言葉。その心には、目的地に到着してしまうことへの恐れがあった。

私ね、南極行ったら泣くんじゃないかって思ってた。
これがお母さんの見た景色って。

でも実際はそんなこと全然なくて、何見ても写真と一緒だ、くらいで。

そこに着いたらもう先はない。終わりなの。
もし行って、何にも変わらなかったら、私はきっと一生今の気持ちのままなんだって……

母が消息を絶ったあの日からずっと、醒めない夢の中にいるみたい、と感じている報瀬。かなりの行動力と情熱で突っ走っていた報瀬ちゃんだが、時々失踪した母宛にメールを送ろうとしていたり、力強さの中にほんのり影も感じさせていた。そんな弱々しい部分がここでは顔を出す。

迷う報瀬に隊長は、人に委ねるなと助言する。
あなたは今までそうしてきたでしょ、とも。ちなみに隊長(美人)は報瀬の母の友人で、前回の南極行でも隊長を務めており、母の失踪に責任を感じている人物だ。
結局、報瀬は向かうことを決める。
悩む過程で、南極に向かうために貯めた一万円札を一枚一枚床に並べながら「清掃、清掃、新聞配達、レジ、引越し、物流調査……」と自分がやってきたことを振り返る姿にはぐっときた。高校生が、100万円を貯めるのは大変だ。なんのためにそうしてきたのか。自分との対話をこんな風に表現するなんて脱帽だ。

母が居た、その場所へ

その場所に着いても、劇的に何かが変わるわけでなく、なんとなくぼんやりしている報瀬。案外そんなもんなんだろう。
だが報瀬がここに来るまでにどれだけ行動を重ね、一方で震える気持ちだったかを知っている主人公たちは、何か報瀬の母が残したものはないかと探す。

そこで見つけ出したのは報瀬の母のノートパソコン。
持ち帰って起動すると、まだパソコンは生きていた。
表紙には、母娘の写真。ログインパスワードは報瀬の誕生日。

そして、メーラーを起動すると、報瀬から母に宛てたメールが何通も、何通も、何通も、受信を始める。

作中に何度も登場した、報瀬のお母さん宛のメール画面。私はいつも、送ろうとして送れないメールなのかなと思っていた。メール画面が映っても、本文はなく、送信するシーンもなかったからだ。

しかし報瀬は、送っていたのだ。何通も、何通も。消息を絶ってしまった、母宛に。

自分が送ったメールを受信し続ける画面を見て初めて、報瀬は母の名を呼びながら泣く。

他の同行メンバーも部屋の外で泣いていた。
私も泣いた。

母は確かにここに居た。メールを送りたい相手であり、話したい相手であり、今すぐ会いたい人である母は確かにここに居て、そしてもう居ない。
そのことが実感できるとともに、置いてきぼりだった感情や、夢のように掴みにくかった現実が、今一気に結実して報瀬の元に流れ込んでいる。

そんな印象的で感動的なシーンだった。

目的を果たしてもゼロになったわけじゃない

それで冒頭に戻るのだが、すごく、きれいな円になったなぁと感じた。
母の失踪から始まり、夢のような現実感がない日々の中で、懸命に南極を目指してがむしゃらに進んできて、今全てのものが繋がった。
それは、夢の終わりであり、母の死という現実であり、目標の喪失でもある。
しかし、単に、メールといった伏線の回収という意味ではなくて、小淵沢報瀬の人生の中でひとつの円がくるりと回った。
距離的には、日本から南極へ。人間関係は一人から四人へ。これら一見直線的な変化が、母が失踪した” 始まりの場所”に訪れ、自分で送ったメールを自分で受信することで円になる。
これはひとつの終わりでもあるけれど、しかし、ここで円ができたことで、この後もちゃんと報瀬ちゃんは自分なりの人生を進んでいける。
そんな気がするのである。

なんだか抽象的な話で申し訳ない。
そして円は縁であって、当初孤軍奮闘していた報瀬ちゃんには、友達ができた。そして、その友達がいなければ南極まで来ることはできなかった。
そんな縁も大事にしながら、これからもエネルギッシュに素敵な日々を歩んでくれそうだなと思う。

報瀬ちゃんに焦点を当てて語ってきたので、何だか深刻そうな話にみえるかもしれないが、テンポ良く、ギャグもあり、みんなどこか抜けていて、爽やかな青春ストーリーである。

他の女子高生3人のエピソードもとても良く、主人公キマリと幼馴染めぐっちゃんの友情と嫉妬を取り巻くエピソードや、人気タレント結月ちゃんの友達契約書、高校中退バイト少女日向ちゃんの裏切りと許し(許さない)のくだりも最高だった。日向ちゃんのストーリーはほんっっとうに好き。人間関係に悩むティーンエイジャーはとりあえずみるといい。
報瀬ちゃんが南極に着いた時の第一声が「ざまぁみろざまぁみろざまぁみろ!!!!」なのも大好き。

今期アニメはポプテピピックが話題総なめですが、その裏で地味にいい話なアニメが結構あったなぁと思っています。まだ終わってないけれど。

「宇宙よりも遠い場所」も残すはあと一話。アマゾンプライムでも見れます。GYAO!で一挙配信もしているそう。

監督はみんなのうた「月のワルツ」アニメ「ノーゲーム・ノーライフ」等のいしづかあつこ、脚本は花田十輝、制作はマッドハウス。海上自衛隊や国立極地研究所などかなり取材も重ねたそうです。
あとタイトルのロゴがとても好きです!(名和田耕平デザイン事務所さん)
良かったらご覧ください。

※ヘッダー画像は公式配布のTwitterヘッダーを流用しました。本来とは違う使い方をしてごめんなさい。

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