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社会の不確実性を減らすのは誰の役割なのか

今年度から金融教育が学校現場で本格的に導入されるようになりました。今朝の情報番組では、専門性を教育現場に活かそうと、投資のプロと称する人たちが教壇に立って教える様子が映されていました。

金融教育は、2017~2019(平成29~31)年の一連の学習指導要領改訂において、小学校から高校までそれぞれの家庭科科目の中で体系的に習得することが定められ、小学校では2020年度、中学校では2021年度、高校は2022年度から開始されています。

その学習指導要領から一部を抜粋すると

【小学校 家庭科】
計画的な金銭管理の必要性については、収支のバランスを図るために、生活に必要な物資・サービスについての金銭の流れを把握し、多様な支払い方法に応じた計画的な金銭管理が必要であることを理解できるようにする。

【中学校 技術・家庭】 
家計管理については、収支バランスの重要性とともに、リスク管理も踏まえた家計管理の基本について理解できるようにする。その際、生涯を見通した経済計画を立てるには、教育資金、住宅取得、老後の備えの他にも、事故や病気、失業などリスクへの対応が必要であることを取り上げ、預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット・デメリット)、資産形成の視点にも触れるようにする。

【高校 家庭基礎】 
生涯を見通した生活における経済の管理や計画、リスク管理の考え方については、人生を通して必要となる費用はライフステージごとに異なることについて理解して生涯収支に関心を持つようにするとともに、将来の予測が困難な時代におけるリスク管理の考え方について理解できるようにする。また、生涯を見通した経済計画を立てるには、教育資金、住宅取得、老後の備えの他にも、事故や病気、失業などのリスクへの対応策も必要であることについて理解し、預貯金、民間保険、株式、債券、投資信託等の基本的な金融商品の特徴(メリット・デメリット)、資産形成の視点にも触れながら、生涯を見通した経済計画の重要性について理解できるようにする。

いずれも、もっともな内容であり、不確実な社会を生き抜くためには必要な知識だと思います。ただ、少なからず違和感を覚えるのは、社会の不確実性を減らすのは誰の役割なのか、ということ。『100年安心』とうたわれた年金改革も、目的は年金制度自体の安心であって、個人の安心ではないことが明らかになりました。歯止めのかからない少子高齢化の前には焼け石に水。自己責任の名のもとに、国が責任を放棄し、個人に委ねているように見えなくもありません。

また若者の貯蓄の現状について、20代の貯金額を平均値(全データを足して、データの個数で割った値)・中央値(全データを小さい順や大きい順に並べ、その中央にくる値)両方から見てみると、20代の全世帯の金融資産保有額は平均179万円、そのうち預貯金額は85万円となっています。

20代の貯蓄額を年収別に見ると

年収    平均値    中央値
年収なし   23万円     0万円
300万円未満    72万円      8万円
300~500万円未満 230万円     100万円
500~750万円未満 554万円     100万円
750~1,000万円未満(※) 8,080万円 8,080万円
1,000~1,200万円未満(※)0万円 0万円
1,200万円以上(※)6,430万円 6,430万円
(※)年収750万円以上の世帯は回答数が少ないためデータに偏りあり

上記の表を見て分かるとおり、平均値と中央値には大きな誤差があります。20代全世帯の金融資産保有額の平均179万円に対し、中央値は20万円。さらに見ていくと、20代の調査対象世帯の中で金融資産を保有している人は61.0%。つまり残りの39.0%はそもそも貯金を保有していません。20代の平均貯金額179万円と聞くと、20代でも多くの人がそれなりの貯金を持っていそうですが、実際は20代の多くの世帯で十分な貯金を保有していない実態が分かります。(出典:金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査](2021年)』)

「だからこそ金融教育が必要だ」との声が聞こえてきそうですが、「貯蓄から投資へ」という本音も透けて見えるだけに、それ以前の問題のようにも思えてなりません。学校現場には英語やIT、金融など、時代の変化に対応するための新たな教科が盛り込まれるようになりました。その必要性は一定程度認めつつも、表面的なものであれば効果は薄く、基礎学力の定着とともに、人格形成を図る上で必要なものが削られていないのか、その点は注意深く見ておく必要がありそうです。

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